表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/100

第四歩 劇の裏側

 預言者。


 この渾名を付けられた人間は数多存在した。


 例えばノストラダムス。例えばジョン・タイター。人物に限定しないのであればマヤ暦が示す未来も預言だ。


 ただ、これらが実際に的中したと断言することは出来ない。


 過去と未来の文言は解釈によって山にも海にも変わり、発生時期も常に変動している。今年かと思えば来年で、来年になれば五年後なんて説が当然のように何処かから現れる。


 次第に人々は預言を信じなくなり、果ての現代では信じる人間の方が少ない。


 現代に現れた預言者も結局は明確な未来を教えてはくれなかった。彼等が話す内容は非常に抽象的で、動画の再生数を稼ぎたいだけの派手さに満ちていたのだ。


 だから、妙なアカウントが未来を語っても誰も最初は信じなかった。


 それが一つ二つ的中させても偶然の一言で片付けられ、どうせ直ぐに外れていくさと嘲笑までしていた。


 だが、アカウントは機械的に未来を的中させたのだ。


 どれだけ難解な現場でも、どれだけ証拠を隠されても、アカウントの文字は無慈悲な程に犯罪者を暴き出す。


 警察の業務として、あのアカウントがあった頃の逮捕率は非常に高かった。同時に、犯人を探す側からすれば楽にもなっていた。足で証拠を探す必要が無いと言われれば、その時分の刑事の活動時間がどれだけ短かったか分かるだろう。


 故に彼の人物がどんな人間なのかを人々は夢想した。その頭の中では様々な姿がイメージされ、ネットを漁れば当時の予想絵を見ることが出来るだろう。


 勿論、榊原もどんな人間なのかは想像した。


 男なのか女なのか、格好いいのか綺麗なのか。もしかしたら見た目が悪くて、本人はそんな自分を見せるのが嫌で匿名で活動しているのかもしれない。


 本人が聞けば甚だ失礼極まりないもの。けれど榊原にとって、現実が必ずしも全てではないと教えてくれた相手のことが気になっていた。


 そして、実際に出会った彼女はその時点で予言者として立つ翔を意識している。


 それは別に一目惚れをしただとか、過去に会ったことがあると確信した訳ではない。敢えてロマンチックに言えば、運命そのものが自分の前に現れた感覚。


 自分は彼を無視することは出来ず、絶対に人生の道を歩む上で関与するのだと漠然とした感覚を抱いたのだ。


 実際、翔の立ち位置は彼女の人生でも非常に重要だった。


 アドバイザーとしてこの冒険者管理施設に訪れることになった彼は、先ず最初の段階で集まっていた冒険者全員をボロ雑巾に変えた。


 口調は丁寧であったにも関わらず、攻撃手段は乱暴そのもの。戦いではなくなってしまう程の純粋な暴力に榊原達は抗えず、床の上を転がる結末に終わった。


 あの時点での評価を榊原達は聞いていない。聞いても碌な結果が返ってこないだろうと思っていたのもあるが、一番はやはり怖かったからだ。


 少なくとも、彼はその実力で予言者であることを認めさせた。


 そして彼女達が数多の犠牲を出したダンジョンを踏破し、モンスターの侵攻を完全に抑え込んだ。


 侵攻の部分は老人が彼の居ない間に教えてくれた。見せてくれた数多くの極秘資料は彼のような存在が居た事実を示し、今正に君達が死んでいないのは彼のお蔭だとも言われてしまっている。


 ダンジョンに飛び込んで攻略するなんて、あの混迷の場では誰にも出来ない。仮に穴に入れたとしても、入った瞬間にモンスターに食い殺されていただろう。


 全ての現状が翔を予言者である事実を肯定していた。加えて言えば彼は英雄としての意味も持ち、本人は拒否していても皆がそうではないかと疑ってもいる。


 だとすればマッチポンプめいているものの、今の世の中において英雄の存在は必要だ。


 以前までの平穏とは無縁となったこの社会で、求められるのは経済的強者だけではない。単体で最強の個人もまた求められ、今正に叶えられるのは翔以外に居ない。


 が、彼は表に立つ気は無かった。寧ろ彼は裏方を望み、榊原達を前面に押し出す気でいる。


 これは老人達のような政府側の人間も一緒だ。彼等は正式に日本国が所有するダンジョン攻略部隊を求めていて、見事に全員の思惑が一致している。


 だから行動も迅速で、翔があの施設に居ても文句は言われない。アドバイスに失敗すれば責められはするだろうが、榊原達の飲み込みが早いお蔭で成功の可能性は高かった。


 後は中核を作るだけ。横並びの冒険者の中で前に飛び出た力の持ち主を作り上げ、その人物を筆頭にダンジョン攻略を本格的に開始する。


 未だ自衛隊が入れているのは二層の入り口付近。森の奥にあるだろう階段を目指すには敵は強く、武器も心許無い。


 戦車を突っ込ませればと思いはするも、石段は人向けに作られていた。


 整備すれば話は変わるものの、それをするにはまた予算が掛かる。ただでさえ膨大な予算が掛かる軍事行動で追加で金を投入すれば、それを取り戻す為に政治家達が何か画策しかねない。


 それに戦車の砲撃でも木を撃破するには時間が掛かっている。一発で有効打を与えられないなら、費用対効果を考えてやらない方が良いに決まっていた。


 政府は焦りを抱いている。内部に存在する爆弾は未だ爆発していないだけで、またモンスター達による侵攻が起こらないとも限らない。


 早く、早く結果が欲しい。せめて希望的な情報の一片でもと政府は纏め役の老人に毎日確認を行い、何度も彼に叱責されていた。


 人材が直ぐに生えてくるのであれば誰だって苦労しない。老人が保有する情報だけであのダンジョンを無事に攻略可能なら、そもそも翔をあの施設に置こうとも考えなかった。


「……だから、君には結果を出してもらわなければならないのだ」


 自身の執務室。無数の資料が収められた棚が左右に置かれ、重厚な木材で作られた机の上で手を組んだ老人が誰も居ない部屋で呟く。


 翔をあの施設に置くまで、少なくない伝手を頼った。


 老人自身の権力が並外れてはいるものの、責任ある立場で居る限りは制約も多い。表面上は国民の前で力強い姿勢を示しているが、裏では不安に感じることも少なくはなかった。


 翔の携帯からの報告で有用性のある人間が居るのは解っている。あのダンジョンを攻略する範囲であれば今の面子でも十分に可能だとも言われていた。


 だとしても、まだ成果が出ていない。榊原に頼み事をしたとは聞いているものの、その中身は結果が出るまで待ってくれと翔には言われている。


 結果が出るのは今日の昼。今から出れば丁度彼が施設に到着するのと一緒になるだろう。


 皇宮警察としての制服を脱ぎ、黒のスーツに腕を通す。職務は既に捌き切ってあるので外に出ても止める人間は居ない。


 事前に呼んでいた運転手が黒の車を入り口に移動させており、乗り込んだと同時に発進した。


 到着までは約十分。施設の前で車を降りて守衛の人間と挨拶を交わし、入り口へと足を進める。


 そこには既に翔の姿があった。渡した黒のサングラスと黒のマスクの所為で不審者丸出しだが、元の顔をかなりの範囲で隠している。


 ジャケットもズボンも変わっておらず、洒落っ気は微塵も感じない。正に仕事に来ているだけと言わんばかりであり、それが老人にとっては好印象だった。


 立場が高くなれば擦り寄る人間も多い。純粋に己の役目を果たすことに集中出来る人間は、何時の時代も為政者側にとって貴重だ。


「おはよう。 今日は非常に楽しみにしているよ」


「……おはようございます。 期待に応えられるかは解りませんが、最善を尽くしますよ」


 他の冒険者の目があるので翔の態度は幾分丁寧だった。


 二人は冒険者達を先に行かせ、揃って横並びで歩む。詳しい話を聞く気は老人にはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ