冒険者27 職業の話②
「戦士が行う仕事は、基本的に攻撃です。 標準的なパーティーでは火力枠として活躍し、全体の勝利に大きく貢献する役割を持ちます」
全員立ったまま始まった授業は、俺の柔い口調とは異なり堅苦しい。
皆が姿勢を崩さず、瞬きだけを繰り返して俺を凝視している。視線には熱が宿り、受けている身としてはかなりの暑苦しさを覚えた。
サングラスやマスクで表情は隠せているが、口は少し痙攣を起こしている。
だが、少なくともこの口調を崩してはならない。頑張れ俺と自身を鼓舞して、ですがと続けた。
「この役割は人によっては大きく変わります。 戦士が盾を持って皆の攻撃を受ける防御側に回ることや、速度を生かした二刀流の剣士になった例も未来では存在します」
そして、戦い方が変われば取得する能力も変化する。
俺の言葉に皆は興味を持ったらしく、さらに視線が熱くなった。最早熱線にも等しい眼差しに内心では白旗を振っていたものの、解り易く今度は動きを付けて説明する。
先ずは大前提。戦士が最初に絶対持つことになる初期能力として気合がある。
これは自身の身体強化であり、上昇量は全体の十%。単純なフィジカルを強化する能力だが、あるのとないのとでは初級冒険者の生存率は大きく違う。
試しにと大男を呼ぶ。彼は困惑しながらも真っ直ぐな返事をして前に出た。
「私に攻撃してください。 ただし能力は使わずに」
「解りました」
大男はその場で構えを取り、拳に勢いを付けて俺の胸を狙って振り抜いた。
その腕を片腕で防御して、次に能力を使って攻撃を受け止める。
最初の一撃では俺は微塵も反応を示さなかった。攻撃を受けても一歩も後ろに下がらず、何なら腕に青痣の一つもない。
だが二撃目。魔力の光を受けた大男は同様の構えで拳を前に突き出し、俺の胸の前にある腕を攻撃した。
瞬間、先程よりも重い衝撃が全身を駆け巡る。骨にまで至る一撃は俺に痛みを与え、防いだ腕は大男の攻撃で上に飛ぶ。
一歩も引かずに防御したのが不味かったのは間違いない。片腕が痺れているのを自覚しつつ、この力を防御に使った場合を説明した。
「今は自分の身体しか強化出来ませんが、レベルを重ねれば武器の強化や相手の注目を集める能力も得ることが出来ます。 それを使って普通では耐え切れない攻撃を耐え、より多くの敵の意識を引っ張り、回復職と合わせてなるべく多くの攻撃機会を生み出す。 ゲームで言えばタンクですね。 ただ、未来ではこの役割を熟す戦士を重戦士と呼びますので、此方でもそうしましょう」
重戦士になると取得する能力が攻撃から防御寄りに変わる。さらに効果は低いが回復能力も獲得し、長い時間を耐え抜く壁として重要な役を担えるようになるのだ。
この壁が居るのと居ないのとではボス攻略の難易度は極端に変わる。魔法職は安定した火力を出せるようになり、さらに遠距離から狙撃する弓使いはその場から動かずに的確に敵を狙い撃てる。
二刀流になると職業としては双剣士になり、手数と速度による火力枠として活躍していく。ただし一発一発は弱いので余程能力を上手く使えていないと雑魚狩り役になることが多い。
他にも精神疾患やトラウマで暴走しがちな人間は狂戦士になる場合がある。これは基本的に周りに人が居ない場合でのみ真価を発揮するものの、大概は生き残れずに死んでしまう。
理性を削る程に能力が上がり、数少ない生き残りの証言では能力使用と同時に全員が敵に見えるらしい。
詳しい感覚は俺には解らないのでなんともだが、取りたくはない職業だ。
俺の説明を聞いて、何名かは考え込む。
戦士を選んだはいいものの、職業としてはそれで明確に攻守が決まる訳ではないと覚ったからだ。他にも自身の中で今後を決める余地が残されているのなら、それは悩み出すのも不思議ではない。
これが判明したのは比較的早かったそうだが、その過程で何名もの人間が本来の適性とは異なる道を進んでしまった。
戦士を取るのは金の無い人間や現実的にしか物事を考えられない人間だ。だが本来、戦士となるのは肉体的に優れていて近接戦のセンスが高くなければならない。
この噛み合わない事実は避けては通れず、故に我々が今後誰かを教育するのであれば間違った道を進ませてはならないのだ。それが本人の望んだ職ではないとしても、適切に選択しなければ後悔するのはその人物になる。
「戦士の枝分かれは多くなっています。 武器によっても立ち位置が異なる場合がありますので、そこは自身や仲の良い者同士で相談しながら決めてください。 ――私は皆様の決定に異を唱える気はありません」
俺は彼等を突き放す。
教育者であれば間違った道を進ませてはならないのだろうが、俺は別に教育者ではない。
ただ言うべきを言い、本人の決めたいように決めさせる。それが間違っていたとしても、敢えてそれを否定することもしない。
そこまで面倒を見るつもりはなかった。これで彼等が此方に憤りをぶつけてきたとしても、俺は知らんと崖から突き落とすだけだ。
彼等の絶対的な味方になるなど冗談ではない。幾度彼等と言葉を重ねたとて、所詮は人間同士。
些細な摩擦で拗れる懸念があるのなら、和気藹々と仲良しこよしな関係を築くつもりもない。
「さて、では次に数名のみですが魔法使いについて説明を始めます」
戦士としての話は一旦これで終了。
続いて魔法系の話に移り、悩む彼等を置き去りに口は動いていく。
魔法使いは最初、四つの魔法を取得することになる。これは四つの属性の初期魔法であり、地水火風の単純な攻撃魔法は本当に最初の内は誰よりも頼りになる。
ダンジョンを攻略していけば直ぐに使い物にならなくなり、必然的に魔法の種類や威力を強めていかなければならない。その過程で本人がどの属性を多く使っていたかにより最終的に魔法は一つだけ進化していく。
魔法使いの役割は後方での火力枠。
前衛が敵の足を止めてくれている間に魔法を放ち、殲滅するのが彼等の仕事だ。
魔法使いの職業が出現する条件は、高い知性を有することと肉体的に優れているとは言えないこと。
その為か比較的女性に現れ易く、未来で一軍に相当する魔法使いは女性の方が多かった。
「魔法使いの枝分かれは基本的に属性に寄るものが多いです。 特化した魔法使いともなれば戦略クラスの戦力となり、パーティーメンバーの中心になる場合もあります。 そしてここで注意事項です」
魔法使いは特化してこそ戦力になる。
複数の魔法を覚えようとすれば、その分攻撃方法に幅は生まれるが威力は落ちてしまう。
この威力の低下は致命的だ。高耐久のボスに対して有効打を出せない魔法使いになってしまうことで評価は落ち、冒険者としては失敗した存在だと思われてしまう。
魔法使いをやるなら特化は必須。ゲームみたいにやり直しが出来ない以上、ビルドで冒険するのは得策ではない。
魔法使いを選んだ人間は俺の言葉に首肯を示した。
これで五人の魔法使いはどれかの属性を特化させていくことだろう。出来れば全属性分の人員が居ればと思うが、こればかりは本人の選択である。俺が口を挟む話でもない。
「魔法使いは戦士よりは職については単純明快です。 特殊職であればもっと成長方針は解り易くなるでしょう」
一先ず口での話はこれで終わりで良いか。
そう思い、締めの言葉を口にすると何名かが首を傾げる。何か疑問があるのかと尋ねてみると、特殊職そのものについてを質問してきた。
ああ、と俺は内心で呟く。取り敢えず今彼等が就いている殆どの職だけを話す気だったので例外については話していなかった。
ただ、これについては詳しく話す気はない。ないというか、話す意味があんまりない。
「職業によっては本人だけが取得することが可能な特殊な職があります。 その内容は独自性に富みますが、ものによっては英雄と呼ばれる程の力を手にすることもありました」
例えば勇者。
複数職の力を行使可能であり、特殊に分類される勇気の能力はチート扱いされる場合が多い。
これは自己強化に分類されるが、周りがどれだけ応援するかで強化倍率が変わる。
その能力自体は不安定であるものの、マイナスにはならないのは強い。己一人でも少しは強化出来るし、しかも魔力を消費しない。
これを説明すると、周りからは羨望の声が漏れた。
自分がそうだったら良いのにと思ったのだろう。そんな簡単に手に入れられるかと内側で彼等を罵倒して、一人の人物が急に強く見つめてくるのを俺は感じ取った。
その視線の主は模擬戦で最も印象的だった女。彼女の目は話がしたいと雄弁に語り、眼差しの強さに脳裏に残業の二文字が過ぎった。




