冒険者26 職業の話①
生まれてから十八年目の年は、俺にとって未来を変えた劇的な年になった。
ダンジョンを攻略して、日本の崩壊を回避し、今は秘密裏に新人冒険者達にアドバイスを送っている。
このアドバイスの頻度は高い。上からせっつかれている所為か彼等の育成は急ピッチで、年を跨いだ正月でも老人を経由して質問が飛び込んでくる。
一度のメールで送られてくる質問は二十に上り、一つ一つ答えなければならない量が多い。
必然的にあの建物に赴く回数も多くなっていき、今では週に一度は必ず顔を合わせている。その度に彼等は申し訳ない顔をしていたが、強くなってくれる分には構わない。
それに彼等とて全てを俺に任せている訳でもない。手にした職業の力を調べ、自分なりの解釈を混ぜながら動きを作り上げようとしている。
チームプレイの練習も欠かしていない。特にダンジョン攻略では集団行動が基本となるので、そこは自衛隊の人間が中心となって形を作り上げている。
これで彼等が攻略を成功させれば、学んだ全てがダンジョン攻略の基準になる。
作り上げたノウハウはやがて市井の人間にも広まり、世界全体のルールにもなっていく。
勿論、その中で別の人間が新しい基準を作ることもあるだろう。俺がアドバイスした内容とて、未来の俺が見聞きした範囲の情報でしかない。
普通の職業ではない個人限定の特殊職が現れれば、流石にお手上げだ。あれは隠したがる人間の方が多く、表に出ている情報は全体の百分の一くらいだろう。
この攻略が軌道に乗るまでは特殊職が出て来てほしくない。仮に出て来たとして、俺が見たものであってほしい。
「来年で成人か……」
電車の中で呟く。
去年のクリスマス。そして今年の正月はあまり大々的には行われなかった。
歴史的悲劇が訪れた以上、空気を読んで自粛すべき。明るく振る舞うことは故人の身内達に失礼であり、故にお祝い事は来年にすべきだとする空気が日本全体に広まっていた。
中国では今もモンスターが猛威を振るっている。悲劇が量産されている現状、世界全体でこのモンスターを対策するのが目標になっていた。
電車を降りて、建物まで歩く。最寄り駅に着いた段階からマスクを付け、建物の前でサングラスをかける。
守衛の人にカードを見せると彼等は酷く緊張した面持ちで通してくれた。
無駄に丁寧な所作を見るにカードでその人間の地位の高さを表しているようだが、老人が渡したカードは思った以上に俺の立ち位置を上に押し上げているのかもしれない。
それはそれで気分の良いものではなかった。
偽りの身分なんて簡単に剥がれる。所詮は此処で自由に過ごす為のもので、建物から一歩でも外に出ればアドバイスを受けている側の方が世間的地位が高くなる。
本当に何をしているんだろうか。仕事と割り切っているとはいえ、他人と長く関わるなんて個人的にはしたくもなかった。
これからはダンジョンで細々とした生活を続けていこうと考えていたのに、最早俺がダンジョンで何かをしようとすれば監視でも付けられかねない。
まぁ、大元の大元は確かに自業自得だ。あの頃の自分はもっと考えて広げ方を決めるべきだった。
「あ! おはようございます!」
『おはようございます!』
「……おはようございます」
二階の筋トレルームに入ると、いの一番に気付いた女が挨拶を掛けてくる。
その声で他の人間も俺に気付き、揃って挨拶をしてくれた。彼等は今日も黒のトレーニングウェアに身を包み、汗を流しながら器具を使って肉体を虐め抜いている。
俺も挨拶をしつつ、皆に一度集まってもらうよう声を掛けた。
本日集まった人間の数は三十六人。最初と比較すると倍は増え、新しい顔が増える度に俺は自己紹介と合わせて実力を見せることになった。
最初は俺の見た目が細いことで調子に乗っている輩が多かったものの、一度死の淵に迫るような体験をすれば大人しくなる。
よっぽどネジが外れていなければ、恐怖は人間の思考を縛ってくれる。今回は俺の言うことを素直に聞かせる為に使ったが、やり方によっては戦闘でも優位に立ち回れる。
集まった人間の顔を見渡して、一度咳払い。
今日の予定は老人とのメールのやり取りで決めてある。既に彼等全員の職業を俺は知っており、その点はこの場に居る面々は承知済み。もしも明かしたくないと言われればアドバイスも難しいと匙を投げる気でいたが、最初から全員が俺への公開を承諾した事実に思わず天を仰いだ。
職業は個人情報だ。知っているか知らないかで戦い方も大きく変わる。彼等は職業を大事な情報だと思っていないのかもしれないが、どんな職業でも表に出すべきではない。
この辺は意識改革が必要だろう。共有するのは仲間内のみに留め、赤の他人にはそれっぽい職業で誤魔化せと言っておくべきだ。
「本日は三階の模擬戦ルームでより職業ごとに出来る範囲を説明しようと思っています。 皆さんにはこれまで冒険者やダンジョンについて様々な質問を答えてきましたが、職業に関する更に具体的な成長方針には敢えてあまり答えませんでした。 その理由は、現時点で皆の職業が被っている割合が多かったのです。 個々人に説明するよりも全体に纏めて説明し、更に実践させれば手間も省けると此方で判断しました」
メールで来る質問で一番に多かったのは、自分の職業でどう戦うかだった。
老人から彼等の職業名簿を見せてもらったが、現時点では特殊職は居ない。珍しい職業はあるものの、特殊職程の特別感は無かった。
さらに言えば選択した職業も被ってばかり。ダンジョンを攻略する為に攻撃向けの職を選択したのだろうが、ほぼほぼ近接職に偏っている。
魔法は僅かに五人程度。遠距離攻撃枠としてこの五人は貴重であり、居るのと居ないのとでは対モンスターとの戦闘で対応可能な幅が変わる。
さらに一人か二人程別の職も居た。彼等に対してはメールで答えても良かったが、どうせ説明するなら一気にやってしまおうとこうして老人に集めてもらっている。
ちなみに模擬戦ルームとは三階のトレーニングルームを指す。何時も模擬戦で使用する部屋だったのでそう呼ばれるようになり、筋トレ器具が多くあるこの部屋は何時の間にか筋トレルームと呼ばれるようになった。
ではとエレベーターで上に行って部屋に入ると、再度彼等は並んで俺を見る。
広い室内で三十六人の人間が一塊になっている光景は少し異様だ。彼等の目は意欲に燃えていて、これが人類に貢献すると疑っていない。
そして、疑っていないからこそ俺への尊敬が少し感じ取れた。その内実は定かではないが、個人的には勘弁願いたいものである。
引き攣りそうな頬を意識して抑え込み、先ずと口を開ける。
「職業については少し前に説明しましたね。 冒険者は絶対に一つの職業を持ち、これを変えることは原則出来ません。 皆さんも画面を見て三つの職業の中から一つを選んだと思いますが、出現する三つの職業は自身のこれまでの人生経験から決まります」
人生なんて人それぞれ。一人として同じ道を歩むことはなく、故に出現する三択も被り難い。
その上で母数が多い職業は、それだけ達成するのが簡単であることを示している。もしくは、何も実績の無い人間用の基本セットみたいなものが用意されているのかもしれない。
近接職で一番の母数を誇るのは戦士だ。この戦士は剣を持ち、自己を強化して戦うのが基本となっている。
「皆さんが選択した職で一番多かったのも戦士でした。 戦士の役割は複数存在し、そのどれもが他よりも単純です」
それでは、具体的な戦士の話をしましょうと俺は続けた。




