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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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高校生2 学生中の彼

 携帯に文字を打ち込み続けてどれくらいの時間を掛けたのだろうか。

 最初はアカウントを作って意気揚々と始めるつもりだったが、遥か先の予定までの出来事を全て文字に起こすとなれば兎に角時間が求められた。

 一時間や二時間なんて短いものでは終わらない。特にダンジョンが絡むものも含んでは事件や災害なんて数限りなく、とてもではないが一日や二日を費やしても大して進まなかった。

 調整が必要だ、どうしたとて。

 そもそも俺がアカウントを作ったのは最初の滑り出しを順調なものにするため。別に彼等を有利にするために始めたことではないので、ダンジョン発生後についてまでを書く必要がない。

 アカウント名も三年後と設定している。ならば無駄に未来を書くのではなく、短くした上で絶対に他に深読みさせない情報を箇条書きで出すべきだ。

 

 周囲からはクラスメイト達の和気藹々とした話し声が聞こえる。

 昼休みの最中では生徒達は思い思いに過ごし、これからを考えている様子は無い。

 一応は俺の入学した高校も進学校寄りだ。他よりは頭の回る人間の方が多い筈だが、若人はやはり若人ということなのだろう。

 いや、俺も若人だろ。

 何となく自分にツッコミをしては、携帯を動かす指を止めた。

 保存したメモの数は合計で百。メモがメモである為に対して文字を保存出来なかったので複数に別れてしまったが、大小含めてもこれだけの事件や災害が起きている。

 多くは事件だ。日付、場所、種類、犯人の名前を除いたプロフィール、被害者の性別や年齢。

 名前を出すのだけは後々に起訴されることを考えて止めておいた。予言の精度を上げるのであれば全て公開すべきだが、表に出す部分だけでも曖昧さはまったく感じ取れない。


 これだけあれば一先ず構わないだろうとSNSを起動させた。

 予言のアカウントはまだ完全な空白だ。フォローもフォロワーも一切見受けられず、よくあるbotアカウントのような様相を呈している。

 まるで白紙のキャンパスに最初の一筆を入れるような感覚に、奇妙な緊張も覚えた。

 こんな学校の昼休みにやるべきではないようにも思えてしまい、されど指は予め頭で決めていた文面を入力していく。


『初めまして。 このアカウントは約三年後のある地点までの未来を入力していきます。 この情報を閲覧することで私が体験した未来から変化する可能性がありますが、それが良い方向に動いたのであれば喜ばしい限りです。 どうか皆様の未来に役立ててください』


 最後の追記にこのアカウントはある地点を迎えた時点で削除しますと書き、自己紹介文を反映させた。

 表示された文章に対して特に何か思うこともない。ただ胡散臭いなと感想を呟き、続いて一ヶ月後の未来を箇条書きで一つずつ投稿していった。

 その殆どが一般の人間には無関係なものだ。殺人事件、汚職事件、別の国のデモ、そして無関係ではない情報として突然のシステムダウンによる電話やネットの使用不可。

 全てを投稿して、アプリを閉じた俺は息を吐いた。

 始まりの一歩はこれで刻んだ。まだまだ何の意味も無いアカウントであるが、時間経過で少しは影響力を持った存在になれるのではないだろうか。

 これを見て、これが真実であると知って、彼等が更に俺の発現に耳を傾けてくれたのであれば。


「翔君」


 不意に入る自分の名前を呼ぶ声。

 携帯をスリープモードにして顔を背後に向けると、高校生になった咲が居る。

 彼女は気まずい表情をしていた。伸ばしていた髪は相も変わらず艶やかで、高校指定の服と合わさり大人らしさを感じさせる。

 複数の男女の視線が俺に注がれているのを認識して、内心で溜息を吐く。

 入学式も初登校時も彼女とは会話も挨拶もしなかった。あくまでも無関心を継続し、こうして会話をするのも随分久し振りに思える。

 

「あの、その……」


「――品野さん」


 何かを彼女は言いたがっていた。それは誰がどう見ても解ることであり、しかし俺はそんな無駄なことに時間を割きたくない。

 ましてや彼女とまだ繋がりがあるのは問題だ。他所の奴等も俺達二人の関係を探り始めて、何時か彼氏彼女だったことが露呈して騒がれるに違いない。

 この学校で味方を増やす気はなかった。……いいや、この表現は間違っているか。

 俺は誰とも関係を築くつもりは無い。関与しなければならないものには関与するが、それ以上のパーティめいた個人的な集団を形成する気が無かった。

 特に友人や恋人を作るのは無駄だ。コネは何処かで繋がるものだと言われているが、人間を信じることそのものが未来映像込みで強烈な嫌悪感を覚えてしまう。

 彼女に喋らせる暇は与えない。言葉を遮り、苗字呼びと共にそっと笑みで彼女を止めた。


 彼女は俺の顔を見て、表情が固まった。その胸の内にどんな感情が去来しているか定かではないが、関わり合いになることはないとそもそも俺は伝えていた筈。

 来るな、去れ。

 その意思を前面に押し出しつつも一見すると友好そうな笑みを見せる俺に、彼女は沈んだ顔でもって元の席へと戻っていった。

 だが視線は散ってくれない。寧ろこの対応で何かあると確信を抱かれた。

 去った彼女から顔を戻して舌を打つ。これで面倒な展開の一つや二つ出て来るようなら、最悪関係を暴露して周知の事実に変えてしまおうか。

 これで彼女への皆の目が変わってしまうのは確定となる訳だが、俺には関係無い。

 

 どうせ高校を卒業すれば我妻が救い出す。いや、在学中に会ってメンタルを立て直してくれることだろう。

 この二人は放置しても問題無い。生き残ると解っている以上、そこに意識を割く必要はないのは素直に有難いことだった。

 死ぬかもしれないと思わせない相手を事前に知れるのは未来を見ることのメリットの一つだ。

 変に関与することで拗れては自身の訓練にも支障が出る。特にこの学校には幾人か未来でも知っている人間が在籍していた。

 なら、学校はある程度安全圏と見做しても良いのではないだろうか。所詮は可能性の話ではあるも、そうできることは己の振舞いを気にしなくて良い理由になる。


 そのまま俺は昼休みをメモアプリに情報を入力することに集中し、生徒の誰にも声を掛けられることなく帰宅することに成功した。

 ぼっちで関わるなって雰囲気を垂れ流しておけば、噂好きの連中の矛先は自然と咲になる。

 彼女には事前に別れた理由を俺の所為にしてもいいと伝えてあるものの、それを実際にするかどうかはまったくの不明だ。

 だが、元来の彼女の性根は優しいものである。自分の保身の為に他者を悪者とすることを彼女の良心が咎めかねない。

 ――――その良心がそもそもあるのかどうかだが、俺はあることを確信していた。根拠は未来情報からだが。


 自室で寝転びアカウントを確認する。

 フォロワーは僅かに増えていた。とはいえ何か反応されたこともなく、してくれたアカウントもbotだったり普通の一般人と大したものではない。

 始まりとしてはこんなものだろう。後は時間を掛けて、このアカウントの予言が事実になっていけば気にする人間もきっと出る。

 俺は待つだけだ。身体を鍛え、装備を整え、家族があそこに現れない状況を作る。

 一番は大学に行かず、何処かに就職するフリをすること。とはいえ就職のフリでは家族をこの家から他所に避難させることは出来ない。

 最初のダンジョンからこの家までは然程遠くないのだ。車で一時間の距離だが、モンスターは一日二日も掛からずに到達出来る。

 安全な場所に避難させるなら、それこそ地方を目指す他ない。


「浮気、使えるかなぁ……」


 携帯を操作しながら使える札を考え、その日は穏やかに過ぎ去っていった。

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