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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者21 政治的縛鎖

 政府が懸念を口にしたのは早かった。


 秋が流れ、冬を迎えたある日。テレビの会見では、ダンジョンの規模と強さが想像を凌駕している事実が明らかにされ、同時に自衛隊が獲得した職業の中で、生産職に分類されるものが発見された。


 生産職はダンジョンで採取した草や石に触れると、脳内に材料が揃えば生産可能な物品のリストが浮かび上がるという。


 これにより回復薬や解毒薬の類が発見され、特に回復薬は一度生成に成功した。


 出来上がった回復薬は、生産職を獲得した者によると肉体の傷と体力を回復するとのことで、医療機関との協力で調査した結果、皮膚の裂傷や破れた血管が即座に修復された。


 これは通常の過程よりも迅速に進み、更なる調査を行った上で問題がなければ、病院で一般人に提供することも視野に入れるらしい。


 解毒薬も、今はまだ材料が不足しているため生成は不可能だが、ダンジョンへの突入を積極的に行うことで問題を解決したいと語っている。


 だが、回復薬の原料がいるのは二層より下だ。必然的に冒険者の数を揃えなければならず、自衛隊がその役目を担い続けるのは、そもそもの任務とは異なる。


 彼らの役目は国防であって、ダンジョンを探索するのは少し筋違いだ。今は他にできる組織がないから彼らがしているだけで、冒険者を中心とした別組織を作れば、話は間違いなくそちらに移る。


 そして、ミヤ様とやらは実際に動いた。本人が表に出たわけではないが、会見内で冒険者を管理し、ダンジョンを調査する組織を作る話が出ている。


 建物や責任者の話は出てきていないものの、それがギルドの前身になるのは間違いない。


 ちなみに俺は何も知らなかった。老人が情報を送ることもなく、つまり「分かっているだろう」と思われていたわけだ。


 実際に俺も作るだろうとは分かっていたのだが、しかし何か一言くらいあってもいいだろうに。


 助言をする側とされる側ではあるものの、口を挟んでほしくないに違いない。俺の余計な介入が事態をややこしくすると考え、こうして口を噤んでいたのだろう。


 それはそれで別に構わない。


 こうしてくれたからこそ、俺は無関係を貫くことができる。例え構成材料の中に俺の情報が混ざっていたとしても、それが一割にも満たないなら誰も気付かない。


 何なら老人が、これでしばらく連絡を寄越さない可能性も出た。彼の役職がどんなものかは定かではないが、きっと高い椅子に座っている。


 本当なら俺と顔を合わせる機会なんて微塵もなかった。あちらからすれば渡りに船であると同時に、不安の種そのものだ。


 大人しくしている間は本来の職務に専念するはずで、その間は俺も平穏に過ごせる――――なんて思っていたのは、普通に愚かだった。


「…………」


「ここが、今後冒険者組合になる予定のビルだ」


 唖然とした表情で顔を上に向ける。


 昼前の東京の都心近くに建てられているビルは、「大きい」と呼ぶには巨大すぎた。


 壁は焦げ茶色で、ガラスは建物のサイズと比較すると少ない。ビルの高さは首を痛めてしまいそうで、にもかかわらず横にも広い。


 立派なビルと同色の門と塀も建てられ、入口には警備員と彼らの詰所が見えた。


 裏に回れば駐車場もあるらしい。そちらを使う気はまだないが、ともかく俺は彼らの本気を完全に舐めていた。


 日本って、もっと始めるのに時間を掛けるものじゃなかったのか。


 政治家同士で激論をぶつけ、裏で幾度も取引を交わし、これを数か月も続けて、SNSで「いい加減にしてくれ」と国民が愚痴を吐いた段階で、やっと前に進むんじゃなかったのか。


 俺と老人が会ってから、まだ半年も経過していない。穴が出てきてからだと一年がやっと過ぎたくらいで、まだ混迷に陥っていると俺は想定していたのである。


 なのに、この動きの速さは一体何なのか。


 疑問の視線を俺が老人に向けると、当の本人はにやりと口を歪めた。


「通常の時間の流れであれば、もっと時間は掛かった。ここまで事態が早く進んだのは、ミヤ様と君の予言で物事をある程度スキップできたからだ」


「……回復薬か?」


「鋭いな。ダンジョンが国益になるかもしれないと、皆も察したのだよ」


 何も言わずにここまで来いと言われた身であるが、目の前にあるものが何なのかを理解すれば、頭も自然に回っていく。


 そして老人の言葉から推測するなら、やはりダンジョンから生み出されるアイテム群だろう。


 ミヤ様がどこまでの未来を見たのかは分からない。だが少なくとも、今より数年先までは確実に見ることができる。


 その中でダンジョン産のアイテムを見る機会も多かっただろうし、今すぐに入手可能なアイテムについては、俺が老人にアドバイスとして伝えてある。


 俺としては「怪我を負ったならこれを作れ」くらいの気持ちだったが、それが政府にとってはクリティカルヒットになった。


 彼らは考えたのだ。回復薬は緊急時の治療で確かな効果を見込める。解毒薬の情報も手にしたことで、既存の毒物にも迅速な回復効果があるかもしれない、と。


 政府はゲーム開発会社やプロのゲーマーを有識者として利用している。


 彼らの齎した「もしもの可能性」がこれで高まり、日本政府はダンジョンを資源の宝庫と半ば見なしたのだ。


 戦力の増強、未知の魅力的なアイテム群、そして何かをする上で好都合な土地。


 流石にダンジョン内で事業は行えないものの、内部は監視カメラ一つも置けない環境だ。こっそり取引をするには打ってつけではある。もちろん、それは国民にとってもだ。


「今は冒険者管理施設となっているが、ゆくゆくはここを中心としてダンジョンの管理も行っていく手筈だ。……あと、これを君に」


 老人は懐から一枚のカードと黒いサングラスを取り出した。


 差し出された二つを受け取り、何だこれはと目で問いかける。


「片方はカードキーだ。今後、君をここに呼ぶ機会も増える。門を越えるにも、中の部屋に入るにもカードキーが必要になるから、忘れずに持ってきてくれ。そっちのサングラスは、まあ人相を少しでも隠すためだな」


「それはどういう意味だ?」


「君はここで冒険者として設定されている。だが、今日本で冒険者になった人間は、自衛隊員とミヤ様の護衛――あとはダンジョンを完全攻略した英雄のみだ」


「……おいおい、冗談だろ?」


 背中にあるリュックに手を伸ばす。サイドポケットから取り出した黒いマスクで鼻から下を隠し、さらにサングラスを掛ける。


 初めて付けたサングラスは、黒いせいで少し視界が悪い。


 だが今は、そんなことはどうでもいい。ここにいる最も大きな理由を、この老人は当然のごとく口にした。


「俺は教練をつける気はないと、先に言ったよな?」


「もちろんだ。君に誰かを教育しろとも、政治的な立場に置く気もない。ただ、国の上にいる人間は、すでに機密事項として君の存在を知っている。それがどんなふうに利用されるかは、私でも予測不能だ」


「ッチ。恩を着せるつもりか」


「そんな気もない。そもそも、その気は私になかった。すべては、何も行動しなかった英雄に言うんだな」


 政府の上層部は気付いたかもしれない。


 あの日、モンスターがなぜすべて消えたのか。創作畑の人間や、彼らの用意した困難を踏破する人間から可能性を得て、迷宮の奥で英雄が尽力したのではないかと考えた。


 ボスを倒せばダンジョンは大人しくなる。そんな予測を立てて調べ、きっと俺が脱出した時のセンサーの異常を見つけたはずだ。


 つまり、予言のアカウントの持ち主は英雄でもあったと彼らは誤解し、政治的なカードとして確保したいと思うようになっても不思議ではない。


 実際、中国のダンジョンは難しい部類ではない。レベルを上げる必要はあるものの、今冒険者になった人間でも攻略そのものは可能だ。


 俺を筆頭としてチームを作り、ボスを攻略してモンスターの出現を可能な限り削る。


 既に肉の身体を得ている個体は消えてくれないが、それでも次の流出は抑えられるのは間違いない。


 だが、そんな真似をする気は俺にはなかった。老人もミヤ様も、俺がそう考えていることを理解して、故にこの場を用意したのだ。


 利用されたくないなら、されないだけの力を見せろ。


 冒険者を蹂躙するほどの強さがあれば、迂闊に手出しは避けようとするだろう。加えて新人冒険者にアドバイスでも送ってやれば、少なくとも利用価値はあると考えるはずだ。


 あとは相手の意思次第。無理にでも予言を欲しがるのであれば、老人やミヤ様には悪いが縁を切る。


「マズくなるなら、アカウントを作って暴露してやるからな」


「分かっている。だから君も、さっさと実績を作りたまえ」


 再度舌を打つ。


 そして溜息を吐き、カードキーを目の前の扉に付いている機械に通すのだった。

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