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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者17 冒険者組合

「今日この日、私が君に会える可能性は絶対ではなかった」


 ベンチで距離を空けながら座った俺に、立ちっぱなしの老人はそっと告げる。


「君のことはある方から聞いていた。 その存在を追い、観察し、ゆくゆくの未来の為に共闘の姿勢を作れと」


「共闘?」


 老人は己の名を語る気が無く、そして本人は誰かに言われて俺を追っていた。


 一体何時からなのだろう。俺は冒険者になって感覚器官が強くなったが、それでも老人のような存在は影も形も知覚していなかった。


 共闘の意味も解らない。字面だけなら一緒に戦うことだと思うも、相手が解らねば何とも言えない。


 人か、組織か、そもそもダンジョンか。


 この場合はダンジョンが敵だと考えるべきだが、それだけだと固定するのは悪手だ。この老人が、実際はダンジョンとは無関係の線はある。


「あの方――これからはミヤ様と言おう。 ミヤ様は幼少の頃より不思議な力をお持ちだった。 無数の人間の未来を語り、それが大事件を未然に防いだ。 殆どの日本人は知らないが、今日まで日本が無事だったのはミヤ様の御言葉のお蔭なのだ」


「未来……予言者?」


「曖昧なものではないよ。 真実、先を見通す眼をあの方は持っている。 それは君も一緒だろう?」


 ミヤ様が誰なのかも老人は語らない。


 ただ、その内容が俺にとって無視出来ない内容だった。確かに未来では予言の能力を持った人間が居て、具体的な人物像は一切非公開にされている。


 出て来ていたのは予言の内容だけ。正体は一度も世間に露見せず、ネットの人間は貴重過ぎて軟禁されているのではないかと噂していた。


 だが、この老人の口調。俺に対しては普通でも、ミヤ様に対しては尊敬を滲ませている様子から一般人だとは思い難い。


「君はどうして、あそこであのアカウントを作って未来を語り、今も政府に探されていないか解るかい?」


「……」


「運が良かったと? ――いいや、違う。 ミヤ様が止めていたのだよ」


 俺のアカウントは今やもう破棄された筈だ。


 復旧も望めず、やるなら一からのスタートになるだろう。とはいえ、そうなる前から俺を探っていたのなら出来ない道理はない。


 老人の語る言葉がどこまで真実かは不明だが、警察が俺を見つけていても不思議ではなかった。


 如何にただのアカウントであったとしても、あそこには不思議の一言では片付けられない情報が山と積まれている。


 警察組織も利用していたくらいだ。可能なら手元に置いて情報を発信させず、内々で全てを解決させようとしたかったはず。早い段階で警察が俺に接触すれば、逃げるのは難しかったろう。


 勿論、俺には拒否権があった。これが刑罰による奉仕活動だったなら強制力を持っていたが、ただ人を助けていたような人間を無理に束縛する権限は無い。


 であれば、裏からの非合法な手段で従わせようとしただろう。露見すれば大事では済まされないが、今更警察が真っ当な手段だけしかしないとも考えない。


「ミヤ様は、君の姿を予言で見たと仰っておられた。 携帯で未来を綴り、実際に動いて闇夜に悪人を仕留め、ダンジョンに飛び込んでモンスターの攻勢を止める姿を」


「そりゃまた……」


 とんでもない能力だ。


 今老人が話したのは、俺個人に焦点を当てた予言。つまり、一個人を対象として相手は未来をある程度先まで見ることが出来る。


 嘘の挟む余地の無い情報は、相手が予言を持っていると確信させてくれるものだった。


 であるならば、余計な否定はするだけ無駄。既に調べがついているなら、桜にしたのと同様に真っ向勝負で話をつける。


 はぁ、と息を吐いた。自分の中の意識を切り替えて、冒険者としての俺を引っ張り出す。


「接触に成功したのなら、次は何を俺に望む」


「……ダンジョンが出現するのはミヤ様達にとっては昔からの決定事項だった。 とはいえ、それを解決する具体的な方法を見つけられなかったのが実情。 政府の一部の人間と意見を交わしてモンスターに通用する武器を作ろうとしたが、それも全て失敗に終わっている。 ミヤ様自身の能力もあまり露骨に広めることも憚られ、そんな時に君が現れた」


 渡りに船とはことのことだと、老人は小さく笑う。


「君の存在は、ミヤ様が解決策を模索する中で偶然発見されたものだ。 自身と同様にダンジョンの問題に向き合い、君は一人で全てを解決する道を選んだね。 それはあの方では選べない道で、なればこそミヤ様は君を尊敬している。 特にダンジョンを一人で止めた姿を初めて見た際には拍手すらしていたぞ」


「話が長い」


 老人を睨む。俺が求めているのは本題であって、誰が何を思っているのかではない。


 他者の俺への心情などどうでもいい。重要なのは、俺が嫌だと言った上で関わってこようとするかどうかだ。


 そして、老人は苦笑しながら悪いなと軽く返してから杖で一度地面を叩いた。


「本題は、先にも言ったように共闘だ。 ミヤ様はこの日本で更にダンジョンが現れることを予言しておられる。 それに今直ぐ備えるには現状の組織構造では不可能。 長い時間を掛けるのが難しいのであれば、そもそも新しく作るしかない」


 警察も自衛隊も派閥がある。


 トップの言葉ではい解りましたと即座に動ける程には柔軟ではなく、故に新しく始めるには最初からダンジョンそのものを前提にした組織を作るしかない。


 言いたいことは解る。実際、その方が何をするにも迅速だ。相手がどれほどの権力を有しているかは不明であれど、これを作って組織として回せると判断するくらいには家としての位は高い。


 十中八九、政府に深く根を下ろす存在。或いは複数の人間。


 ダンジョンへの対策を個人の範囲で終わらせず、組織で動かんとする姿勢は正しく社会的だ。


「君に頼みたいのは教練だ。 予言の力で未来を見れたのなら、数多くのダンジョンに関係する知識を有している筈。 それを用いて今後新しく増える人員を肉体的にも精神的にも鍛え上げ、ダンジョン攻略の最先端を走ってほしい」


「無茶なことを――」


「無茶なのは百も承知。 だが、世界でもダンジョン攻略に成功したのは今のところ日本だけだ。 ……君が攻略したダンジョンだけなのだ。 その意味がどれほど重いかは、君にも解っている筈」


 現状、日本はダンジョンの襲来を唯一跳ね除けた国家だ。


 その価値は計り知れず、どうやったのかを世界は知りたがる。きっと外交官はこの出来事で多忙を極めているだろうし、スパイはそれを重視して探りを入れているだろう。


 今はまだダンジョンが現れていない国は、必死になって対策を考えている。その最適解が日本にあると解れば、入手に死に物狂いになる。


 下手をすれば同情作戦を使うかもしれない。


 俺達は今後も大変なのに、日本だけは大丈夫なんだと。


 そしてこれで一番荒れるのは、現在国が蹂躙されている中国だ。


 文句だけなら可愛いもんだ。中国政府が生きている内に他国と交渉して日本を孤立させないとも限らない。


 中国は色々と言われている国ではあるが、このダンジョンという存在で纏まる懸念はきっと日本政府にもある。故に、その懸念を吹き飛ばす存在が欲しい。


 それが老人の語るダンジョンを攻略する組織。未来風に言えば、冒険者組合(ギルド)


 未来ではその誕生は政府によって成し遂げられたが、今回はその人物によって起こそうと言っている訳だ。


 早期の解決は、俺も相手も恐らく一緒。平和が第一とそのミヤ様とやらが掲げていれば、俺も賛同はするだろう。


「興味がない」


「立花君」


「お互いに今日は会わなかった。 それで終わりだ」


「立花君。 冷静に考えてくれ」


「考えたとも。 その上で、俺に大したメリットは無い」


 ギルドを作る苦労は恐らく普通に生きて経験するよりも多くなる。


 そんなのは御免だ。折角冒険者として生活する手段があると解っているのだから、その手段に舵を切っていた方が間違いなく生活は楽だ。


 何より、俺の役割は間違いなく多くの人間の人生を変えることになる。


 そんなのは俺の望むところではなく、如何に多額の金銭が払われるとも承諾する気は無かった。

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