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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者13 未知の時間

「翔!」


 遠く、俺を呼ぶ声がした。


 顔を向けると今にも泣き出してしまいそうな母親と父親の顔が見えて、力加減をしつつ走り出す。


 数日の間でも母と父の服装に変化はなかった。それぞれ白と紺の冬用の厚手ジャケットを身に纏い、荷物の入ったバッグもそのままだ。


 母親は俺に近付いて全力で抱き着く。


 風呂にも入っていない俺の身体は臭いはずなのに、親はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに頭を撫でて、何度も何度も良かったと呟いていた。


 災害が起きて、行方不明になる家族も多い。今回の件は特に災害を超えているほどだった。


 父親も母親も嘗て大震災を経験している。俺が生まれる前なので具体的な部分は知らないが、誰かと死別した経験はない。


 だから、もしかしたら俺が初になっていたかもしれない。よりにもよって大切な一人息子が、避難の際に行方不明になって、そのまま見つからない可能性があったのだ。


 その心労は察するに余りある。


 覚悟はしていたつもりだが、母の今正に泣いてしまいそうな顔を見ると、刺激されっぱなしだった罪悪感が更に過激に主張してきた。


 俺も母を抱き締める。顔は父に向けて、大丈夫だと首を縦に振った。


 それだけで父も安堵したのだろう。静かに顔を両手で覆って、人が数多くいる中で無言のまま泣いてしまった。


「よかった……よかったよぉ…………ッ」


「ごめん、ごめん母さん。 俺は大丈夫だ、どこも怪我をしていないし病気に掛かってもないよ」


「うん、うん、……」


 母親もついに涙腺が決壊してしまった。


 両親揃って泣き出してしまい、俺としては苦笑するほかない。


 ただ、心には暖かいものがあった。両親は確かに俺を愛してくれていて、そこに疑う余地は一片も存在しないのだと。


 分かっていた事実が補強されただけではあるが、それでも俺は嬉しい。


 心から信じられる家族が確かにそこに存在していて、今この瞬間も確りと心臓が動いている。


 冷たい死体はここにはなかった。俺の腕は二本で、両手で抱き締めることが出来ているのは控えめに言って奇跡だ。


 この瞬間の為に俺は頑張ったとも言える。――――そして、なればこそ俺は今一度奮起せねばならない。


 俺がいた地点からここまで、約三日が経過している。


 電車で数時間掛かる距離を人間の足で三日で踏破するのは些か現実的ではないが、そこは道中で車に拾ってもらっただとか、寝ずに歩いたとかでごり押すつもりだ。


 身体を鍛えていたのも今回は使える。フィジカルの高さが説得力に繋がるかもというのは笑ってしまう話だ。


 ともかく、三日近くも経過すれば流石に世の中にも多くの情報が流れ込む。


 政府発表では理由は定かではないものの、穴から出現したモンスターが消滅したことを会見で話していた。


 被害範囲は予言されていたエリアよりも小さく、隔離された地区より僅かに外に出た程度。


 中国ほどのダメージはなく、しかし自衛隊に多数の死者が出てしまった。


 死んでしまった者たちに対して悲しむ声がある中、そも根本的な疑問が人々の間にはある。


 モンスターが消滅したが、一体どうして消滅したのか。中国では暴虐の限りが尽くされているのに、日本が受けたのは一部の土地と軍人だけだったのは何故か。


 様々な予想がSNSでは特に世に出てきていた。その中でもやはり有力扱いされたのは、予言のアカウントが残した英雄の二字である。


 あの場で、英雄がいた。英雄が全ての難事を解決してくれた。


 だから日本は今も日本のままで、致命的な傷を国民は受けなかった。


 それは自衛隊を軽んずる言葉だ。本当なら今この状況で口を噤まなければならないのに、ネットの人間は感情より先に現実的な話を選択した。


 安心を得たいのだ。政府が発表してくれた情報だけでは何も分からず、予想は所詮予想止まり。


 モンスターが消滅したとして、もう出てこない道理はない。何なら今この瞬間にモンスターが再度穴から湧き出ても不思議ではない。


 今、この状況が小康状態の可能性はある。故に安心安全の為に国民が意見を交わし合うのは自然の流れだ。


 この流れは止められない。無理に止めようとすれば無駄な反発を生み、最悪国家の敵にされかねない。


 政府も止めはしないだろう。寧ろ政府としては玉石混交の中であり得そうな予想を拾いたいかもしれない。


 まあ、近い内に自衛隊が部隊を再編して内部に突入するのは既に決定している。


 普段なら手を出すのに無駄に長い議論を国会でするのに、今回ばかりは即断即決で動き出した。


 日本にとってはまたとない好機。ここで穴の正体をある程度掴めれば、暫定的な対策も捻り出せる。


 この際、死者が新たに生まれることは許容範囲だ。


 いよいよ、ダンジョンを前提とした社会が生まれようとしている。


 敵はもう生まれ直しているだろうが、一層ならまだ対処は可能。


 その敵を倒して経験値を獲得し、冒険者になることを国が理解したのであれば、先ず軍人全員を冒険者にしようとするだろう。


 そこからレベルの概念や職業を知っていき、恐らく大部分がこれはゲームと一緒だと勘付く。


 そうなれば後はゲーム会社やプロのゲーマーに意見を求め、そこから社会に情報の流出が始まる。


 軍人では緘口令が敷かれて言えなくても、一社会人や配信者であれば、契約していても破って暴露する人間は出てくるはずだ。


 攻略サイトも出る。それが俺が見ていたものと一緒かは定かではないが、出てくること自体が重要だ。


 その先はどれが最初になるかはまだ分からないものの、きっと未来と似た世の中が形成されていくのだろう。


 未来の俺は周りを気にする余裕を持っていなかった。だから俺も具体的にどんな施設があったかを全部知り得ている訳じゃない。


 だがそれでも、知っているだけの施設でも大分社会は様変わりしていく。


 アメコミのコスプレがガチになったり、武器に関する法律が緩められ、素材の取り扱いで企業と政府がガチバトルに発展する。


 ブラックな会社が余計にブラックになったりと良い面ばかりではないが、若者が夢を掴む云々については今よりも現実的になるだろう。


 一度特殊な職に就ければ、そこから先は安泰になりやすい。


 俺の予言があまりにも多くの人間の注目を集めたように、有用な人間の価値は今よりも爆発的に上昇する。


 特に冒険者育成学校なんてのは、有用な人間を見つける為に作られた側面が強い。


 そして、世界的に価値のある人間を多く保有する国ほど舐められなくなっていく。


 日本は価値としては最高ではなかったが、中々上位にはいた。おかげで輸出入では随分と得を受けたものである。


 ひと頻り泣く両親を宥め、その後は家族一緒で親戚の家を目指す。


 駅からは少し距離はあるが、それでも徒歩圏内なので俺にとっては駅近も同然だ。


 街は都会と田舎の中間ほどの規模だ。


 皆が知っているような店は少なく、個人店やその地域限定のスーパーや家電量販店が目立つ。


 今は田舎に避難する人間が多いおかげで人の数も多く、年齢層も若い人間が増えたはずだ。


 俺たちが今回お世話になる家は、父親の兄が所有する一軒家らしい。


 若い頃に投資を積極的にしていたおかげでお金は大量に持っていたらしく、勢いで大きめな家を買ったそうだ。


 ただ、買った家が大き過ぎた。


 一人暮らしにはあまりに過剰で、無料で友人に部屋を貸していた頃もあったという。


 今はその友人も別の場所で生活しているらしく、それ故にこちらを受け入れるのをOKしてくれた。


「そういえば俺は会ったことないんだけど、伯父さんはどんな人なの?」


「ああ、そういえばそうだな。 ……まあ、かなり優しい人だよ。 少なくとも理不尽な理由で喧嘩をしたりだとか、不良だったなんてことはないね」


「へぇ」


 父の言葉に迷いはなかった。含むところがあればこれはと疑ったが、この分なら大丈夫だろう。

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