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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者10 ただ、今は休息を

「これで、二十…………ッッ」


 ゴブリンキングの倒れる音がした。


 経験値が流れ込み、しかし最早俺のレベルが一度に上昇することはない。


 全身は血に塗れ、汚れていない箇所を探す方が難しかった。ナイフは予備の分も含めて全て砕け、最終的には手でボスの核を無理矢理体外に引き摺り出していた。


 相手に何もさせず、ただひたすらに殺す。途中からは作業となったこの殺戮は悲鳴の一つも上げさせず、最初は苦労していた行為にも徐々に慣れていった。


 だが、肉体の疲弊は避けられない。十五を超えた時点で限界だった身体を更に付与で動かしていた所為で、息をするだけでも全身が軋んでいる。


 手足は震えっぱなしだ。付与を解除した瞬間に倒れるのは目に見えていた。


 ボスの復活速度は殺す度に遅くなっている。今では復活に数分の時間を必要とし、見ている限りでは砂山が動き出す様子はない。


「そろそろ、終わってほしいんだけどなぁ」


 心からの本音が口から出た。


 その音を体外に出すだけでやはり全身に激痛が巡り、何度も手を開いては握りを繰り返す。


 十分が過ぎ、三十分が過ぎ、そこで俺の身体は限界を迎えて腰が落ちた。


 更に一時間が経過しても砂山は動かず、はぁと大きな息を出す。


 終わったかどうかは兎も角、少なくとも今のダンジョンに魔力的な余裕は無くなった。


 一度枯渇にまで追い込めば、再スタートまでは暫く時間が掛かることだろう。


 此処はチュートリアル扱いされる場所なのでボス復活まで一日くらいしか稼げないが、外にモンスターが溢れる程になると最低でも一ヶ月は必要になる。


 その間に自衛隊によるダンジョン調査でも始まってほしい。出来なければ今一度中に入らなければならない。


 身体が休息を欲しているのが解る。


 付与が切れて更に眠気まで襲い掛かってきた。


 座っているのも酷く億劫で、横になれば秒で夢の世界に旅立てる。


 だが、こんな場所で寝る訳にはいかない。


 最後の気合で付与を自身に施し、震えながら身体を立ち上がらせて引き摺りながら歩いて行く。


 一歩一歩を意識しながら踏み締め、ボスの部屋から出て洞窟内を進んだ。


 雑魚の気配は無い。僅かな足音も存在せず、今ならどんな人間でもボス部屋まで直行可能だろう。


 そして、四層と五層の間の階段で座り込んだ。


 階層間の階段は上下の空間とは別の空間になっている。


 ダンジョンとしても空間同士を接続しているこの場所を破壊されるのは嫌ったのか、戦闘の意思を示すと強制的に上下のどちらかの階に転移させられる。


 未来でもこの場所は緊急避難場所になっていた。


 冒険者同士でもこの場所に限っては戦闘が禁止され、広大なダンジョンの階段ともなれば途中にキャンプが出来る広間も存在している。


 言ってしまえばセーフエリアだ。


 比較的安全で、ダンジョンの外にモンスターが出ようとする際には階段に飛び込んだ瞬間に上の層に強制転移させられる。


 故に、俺は此処で気を抜くことが出来た。


 いよいよもって身体は動くことを拒否し始め、付与をしても関係無しに階段で倒れ込む。


 ステータスの確認をする気も起きなかった。


 ただただ頭は休むことを最優先にしていて、俺も拒否せずに意識を落としていく。


 次に起きたら家族に会いに行こう。場所は解っているから、今なら何駅分でも歩いていける。


「あ、リュック忘れた」


 そこでプツンと音がして、自分の意識が途切れた。


『挑戦者の⟨ΔKμ|7ΩϞ∴λ|ΣF⟩を発動します』

『挑戦者は⟨ΔKμ|7ΩϞ∴λ|ΣF⟩を発動出来ません』

『挑戦者は⟨ΔKμ|7ΩϞ∴λ|ΣF⟩の補助効果を発動します』

『挑戦者の⟨ΔKμ|7ΩϞ∴λ|ΣF⟩の補助効果が発動しました』

『⟨ϞΣΔ·9Kμ|ΩRλ∴X|A7F⟩の⟨μΔ7|ΩϞΣ∴λ|KF⟩が接触を始めました』

『⟨ΔKμ|7ΩϞ∴λ|ΣF⟩が⟨ϞΣΔ·9Kμ|ΩRλ∴X|A7F⟩の⟨μΔ7|ΩϞΣ∴λ|KF⟩との接触を遮断しました』

『……』

『…………』

『挑戦者には休息が求められます。ただちの会談は不可能と判断しました』

『今はゆっくり休んでください、翔』


「――――んぇ」


 意識が急速に浮上する。


 横になっていた場所が硬い石の階段だった所為で背中が痛い。


 変な呻き声を漏らしながら立ち上がろうとするも、肉体はまだまだ治ったとは言い難い。


 倦怠感の拭えない身体は高熱を引いた直後のようで、立っているだけでもバランスを保つのに一苦労する。


 それでも付与を施せばある程度確りするのだから、俺の取得した付与師はなかなか有用だ。


 最初に選んで良かったと思いつつ、階段を下ってボス部屋まで戻った。


 リュックを回収して、中を漁って携帯を見つける。


 あの戦闘で砕けても不思議ではなかったが、奇跡的に画面に罅が入ってはいても無事に起動してくれた。


 問題があるのは表面だけ。


 電波が入ってきていないので外からの情報を此処で集められないが、そんなものは後で良い。


 時間は、既に夜を過ぎて深夜になっている。


 寝ていた場所で再度腰を落としてリュックに入れたままの携帯食料を口に運び、ステータス画面を表示。


 現在のレベルは十三。


 十を超えた段階でゴブリンキング相手でも上昇は難しいと思っていたが、やはり作業と認識してしまった所為か取得経験値が少ない。


 それでも想定よりレベルが上がったのは有難いことだ。


 お蔭で次のダンジョンのパーティ適正レベルに到達しようとしている。


 内部で雑魚を殺していけば適性レベルに辿り着けるだろう。まぁ、それはパーティであってソロではまるで足りていないのだが。


「ん、なんだこれ?」


 ステータス画面には、見慣れぬ文字が映っている。


 まるで文字化けを起こしたかのような⟨ΔKμ|7ΩϞ∴λ|ΣF⟩と⟨ϞK7·ΔμA9|R3Ω∴Xλ|0FΣ⟩の二つの文字列は、技能の欄でさも当然のように存在して目立っている。


 未来情報でもこの文字化けのような現象は知らない。


 ネット情報にも転がっておらず、恐らく特殊過ぎる能力なので周りの人間に覚らせなかったのだ。


 そういう技能は国家が秘匿しているもので、知れるのは極僅かな人間のみ。


 保持者は家族も含めて保護されたり、衣食住の安定供給が確約される。


 その代わりに国家の為に能力を使わねばならず、噂では飼い殺しにされるとも言われていた。


 指でその技能をタッチする。


 殆どはそれで中身を見られるので解るのだが、この二つの技能は揃って現在は使用不可と書かれていた。


 眉を顰める。


 技能の獲得は嬉しいが、内容を知らねばどのように運用すれば良いのかも解らない。


 使える条件が不明なのも眉を顰めた原因だ。


 これでは技能そのものを発動することが出来ない。


 未来情報をもっと探れば手掛かりの一つか二つくらいは見つかるかもしれないが、今はそれよりも休息の方が大事だ。


 一度気絶したお蔭で最初よりはマシになったが、マシになっただけで健常者とは程遠い。


 今日は結局此処で一泊することになる。


 そう思い、リュックを枕にして横になった。


 上は石、下も石。左右も石で、明りは光る苔のみ。


 何も知らない人間であればこんな場所で寝るなんてとても出来はしない。


 改めて未来を教えてくれるもう一人の俺に感謝して――――不意に目から涙が零れた。


「え?」


 静かに、ただ静かに雫が下に向かって流れて行く。


 嗚咽を漏らす程ではない。


 本当に唐突に涙が出て来て、暫く理由を探してああと納得する。


 これで未来は変わった。


 少なくとも、この瞬間に家族が殺されることも俺の腕が無くなることも無くなった。


 それがきっと嬉しくて。本当に嬉しくて。


 泣きたくなっただけなのだ。

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