冒険者9 ⟨ϞK7·ΔμA9|R3Ω∴Xλ|0FΣ⟩
ボスモンスターは一度撃破すると、一定の時間が経過しないと復活しない。
これはボスによって時間差があり、ゴブリンキングの場合は一日は復活に時間が掛かる。
それが今正に復活したとなると、考えられる原因はただ一つ。
その予想を証明するように先に死んで砂になった小鬼達も砂山から再誕生した。
見た目は一緒。性能も一緒。こちらを見やるゴブリンキングの最初の眼差しは愉悦に満ちていて、まるで時間が巻き戻ったかのような錯覚を抱く。
違いがあるとすれば、俺の状態か。
ナイフの予備はあるにはある。小鬼から奪った角も一回しか使っていなかったので壊れてはいない。
だが肉体と魔力の消耗は両方あった。まだ魔力は尽きていないことは感覚で分かるも、巨体を倒すとなるとやはり尋常ではない力が求められる。
敵が復活した理由は、ダンジョン自体に魔力の余裕があるからだ。
ダンジョンそのものに意思は無いが、自己防衛のシステムが搭載されている。このシステムの起動には一定量の魔力が必要となり、即時復活は機能として存在していた。
だがそれは、ダンジョン内の雑魚に限定されていた筈だ。ボスが即時に復活するなんてことがあれば、冒険者の死傷者数はうなぎ登りになっていただろう。
ここから推測するに、ボスの復活に条件がある。もしくはボスの復活そのものに大幅なリソースを注がなければならない。
頭の中で二択が出るが、俺個人としては後者が最有力だと思っている。
ゴブリンキングがボスの最初のダンジョンでいきなり特殊な仕様があるとも考えられない。そもそも、そんなことがあれば未来のネットで情報共有はされていた筈。
「――――ッ!!」
ゴブリンキングが咆哮を上げる。
棍棒すらも復活して相手は力の抜けた一撃を放つ。
付与をせずとも今のレベルなら回避は出来る。棍棒が小さなクレーターを作るのを見もせず、俺はステータス画面を一瞬だけ呼び出した。
ボスを撃破した経験値は確かに俺の身体に蓄積されている。
現在レベルは八。ソロの安全域まで後二レベルであり、それに合わせてか自身の感覚器官も全て強化されていた。
特に分かり易いのは目だ。通常の人間が走る速度程度に見えていた雑魚の小鬼の動きが、今では歩いて見える。
ボスの攻撃動作も見慣れているのもあるが、そうでなくとも遅過ぎるように認識していた。
速度上昇を身体に付与。力を入れてボスを無視して小鬼に接近しようとして、次の瞬間には目と鼻の先に敵の頭が見えていた。
「っと、!」
胸に持っていた角を突き刺す。
身体には細くとも確かな風穴が出来上がり、貫通した時点で核は完全に砕け散っている。
小鬼に反応した様子は無い。いきなり俺が目の前に出て来たように見えたのか、俺が刺した小鬼は信じられぬ相貌で事切れてしまっていた。
目で追えていたのは、恐らくゴブリンキングのみ。
相手がこちらを向こうとしたのを目で確認して、次と一気に走り出す。
「二!」
角が小鬼の身体を貫く。
核を破壊した感触が一瞬だけ腕に伝わり、次の瞬間に小鬼と一緒に角も押し折れた。
移動する。片腕にはもう一本ある。
ボスが棍棒を薙ぎ払って小鬼が襲われるのを防ごうとするも、相手の攻撃が見えていれば回避するのも難しくない。
飛び、棒を回避した勢いで三体目の胸を貫く。
雑魚から奪った武器だったが、敵を殺すには必要十分。
残りの一体に視線を動かし、風の刃が形成されているのを認識して角を投げる。
接近すると相手は思っていたのだろう。小鬼は何の防御も出来ずに核を破壊され、その場で倒れた。
これにて雑魚は終了。
ボスの足蹴りを回避してリュックのある場所まで移動し、追加の角を二本用意。
「エンチャント! 行けェ!!」
全能力上昇。攻撃上昇。速度上昇。
後は全力で投げる。
空気を切り裂いて進む一本目の角はボスの咄嗟の防御によって腕を貫いてみぞおちを僅かに抉るだけに終わったが、一瞬の間に着弾した二発目が腕の穴を通過してみぞおちを正確に撃ち抜く。
今度は核に届き、一気に砕いた。
供給源の無くなったボスの肉体は急速に砂に戻り、経験値の光が流れ込む。
だがそこで終わりだと俺は思わない。
一度目があったのなら二度目三度目があって当然。それくらいの気持ちで次弾の準備をしていると、砂の山が急速に持ち上がった。
『レベルが上昇しました』
『挑戦者は防御上昇(五)を獲得しました』
『レベルが上昇しました』
『挑戦者は全能力上昇(十)を獲得しました』
肉体が再構成される。
出来上がったボスがこちらを認識する前に、俺は成長したステータス任せに角を投げた。
弾丸を超えて砲弾並の破壊力を持った一撃にボスは瞬時に核を破壊される。
砂になって、しかし雑魚が復活する前にボスを殺した所為か復活しない。
三回目の構成が始まる。
砂が腕を、足を、胴体を、頭を。
まるで変わらない再生速度に不安を覚えつつ、それでも倒さねば話が終わらないのだから角を射出した。
もう雄叫びを上げる暇すら与えない。
砂の身体に青白い肌が広がった瞬間にみぞおちは撃ち抜かれ、やはり身体が砂に戻った。
「はぁ、はぁ, はぁ、はぁ」
息が上がっている。
自分のスタミナに底が見え始めていた。
レベル自体は上昇するので最大値は増えるものの、それで肉体の全てが完全回復するような都合の良い機能はない。
残りの体力で果たしてゴブリンキングを殺し切れるのか。
そう思う俺を他所に、肉体の再生がまた始まる。
ダンジョンの規模自体は小さい。つまり蓄えられる魔力量も他のダンジョンに比べれば少ない。
更に頻繁にボスを倒していれば、貯金は急速に崩れていく筈だ。
限界は絶対にある。
そう信じる俺の前で、砂は異常な行動を起こし始めた。
肉体を構成しようとして、しかしどこかの部位が崩れるのだ。
先程までなら次々に治っていった筈なのに、構築が完了するまでに明らかな間が出来ている。
「魔力切れ? …………いや、それならそもそも治らないよな」
なら、こんなに遅いのは何故だ?
回復の時間を貰えるのは良い。だがこんなバグを起こしながらの復活など、不安に思わない方が不自然だろう。
魔力不足で回復が出来ないのではない。
肉体の構築は徐々に進んでいる。
遅いのは魔力の産出に合わせているから?
なら今、ダンジョンの魔力は極めて少量になっている。
途中から雑魚が出て来なくなったのも魔力のリソースが減ったからだろう。
こんな状況でボスを優先するなら、きっとますますリソースの削減はする筈。
ならば外のモンスター達の魔力をダンジョンは回収するだろう。
自衛隊が壊滅状態になる前に敵が消えれば、その分だけダンジョンの探索予定は早まる。
やれるか。やれないか。――――いいや、やるんだ。
角を握り締める。
幸い、レベルは安全域に到達した。
懸念は俺の体力のみであり、それ以外は全て攻略に支障はない。
ならここで。
例え気絶することになったとしても。
無理を承知で身体を動かす。
全ては勝って家族の下に行く為に。
勝って、勝って勝って勝ち続けて。
「帰るんだ」
マスクをむしり取る。
呼吸に意識を向け続け、相手の復活の瞬間を目は捉え続ける。
やろう。
俺は冒険者で、未来の俺も冒険者。
冒険するのが俺達の日常だったのなら、前に出た人間こそが勝利をその手に掴める。
だからどうか、その目で見ていてくれ。
だからどうか、力を貸してくれ。
未来の俺が齎した予言を、俺が必ず破壊する。
『挑戦者は⟨ΔKμ|7ΩϞ∴λ|ΣF⟩を獲得しました』
『挑戦者は⟨ϞK7·ΔμA9|R3Ω∴Xλ|0FΣ⟩を獲得しました』




