冒険者4 電光石火
『魔物を撃破した挑戦者には経験値が与えられます』
『挑戦者には魔力貯蔵器官がありません』
『挑戦者にはステータスがありません』
『挑戦者には職業がありません』
『システムが正常に起動できません。 正常起動の為、経験値を使用して挑戦者にアップグレードを施します』
ウッドフェアリーを撃破してから、眼前には青く薄い板が現れた。
それは正にゲームで見るような画面であり、未来でよく見たお知らせ機能だ。
結晶が砕ける。それは小さな光となって俺の周りを漂い、最後には光は体内に消えていった。
肉体には何も変化は無い。熱を発することも痛みを引き起こされることもなく、自分が強くなった感覚はまるで無い。
『アップグレードに成功しました』
その一言と共に視界全体に青い画面が映る。
俺の名前。レベル。職業欄。技能欄。
今はまだ空白だらけの一覧でゲームとの違いは基礎能力の数値が記載されていないことだ。
基本的な攻撃力や防御力の数値は記載されず、それらは感覚で掴んでいくしかない。とはいえ、レベルが上がればどうしたって意味不明な強さを手に出来る。
重要なのは職業と戦闘スタイルだ。これが生き残れるかどうかの鍵になる。
技能は所謂特殊スキルではあるが、あれば良いくらいのもの。先天的にも後天的にも獲得する機会があっても基本的に手に入れられないのがデフォルトだ。
俺の予言は技能欄に掲載されていない。つまり、これ自体はシステムの判定内に収まっていないことになる。
こんな超能力めいた力がシステム内の能力でないとしたら、いよいよ意味が解らない。
じゃあこの予言は一体どんな理由で俺に生えてきたというのか。何だか不気味に感じるものの、今はそれを深く考える時ではないと頭を振った。
「職業は……」
ステータス画面内の職業に指で触れると、画面が変化して三つの選択肢が出て来る。
初心者は敵を倒して冒険者になった時、先ず職業を選択しなければならない。候補は三つであり、出て来る職は過去の経験を基に出現する。
俺の場合は暗殺者、付与師、生存者の三つ。
確か未来の検証で暗殺者は暗所で奇襲をする経験が一定以上あること、付与師は偶然であれ現実的でない方法で他者に何かをあげること、生存者は危険を乗り越えることだと判明している。
この中で付与師は珍しい部類であり、狙っていなければ出せないものだ。
つまり、俺はこれを狙っていた。モンスターをこの段階で打倒するのに、最適なのは暗殺者でも生存者でもなく付与師だ。
思い付いたのは予言のアカウントを作って暫く経った後。これを使えば普通ではない手段で他者に救いを与えることが出来ると解った俺は、出て来ることを日々願っていた。
それが出たのであれば勝ちだ。
思わずガッツポーズをして付与師を選択し、自身のステータスの職業欄に付与師が出現した。
途端、画面に職業関係の能力が現れる。特殊な技能以外の確定で入手可能な能力は現状で一つのみであり、全能力上昇(二)とそこには書かれていた。
言葉だけだといきなり強い能力を得たように思えるが、括弧内の二に注目だ。
これは付与師なら上昇量を示す。つまり、全能力を二%上昇させるのがこの能力の概要だ。
正直渋い。せめて一割上昇くらいは欲しいのが本音だ。
未だレベル零なので贅沢な話であるが、それでもスタートダッシュは順調でいたい。中盤で躓くなら兎も角、序盤で躓くと立て直すのが大変だ。
「とはいえ、力は手に入った。 後はレベルを上げていくだけだ」
『魔物を撃破した挑戦者には経験値が与えられます』
『挑戦者には魔力貯蔵器官がありません』
『挑戦者にはステータスがありません』
『挑戦者には職業がありません』
『システムが正常に起動できません。正常起動の為、経験値を使用して挑戦者にアップグレードを施します』
ウッドフェアリーを撃破してから、眼前には青く薄い板が現れた。
それは正にゲームで見るような画面であり、未来でよく見たお知らせ機能だ。
結晶が砕ける。それは小さな光となって俺の周りを漂い、最後には光は体内に消えていった。
肉体には何も変化は無い。熱を発することも痛みを引き起こされることもなく、自分が強くなった感覚はまるで無い。
『アップグレードに成功しました』
その一言と共に視界全体に青い画面が映る。
俺の名前。レベル。職業欄。技能欄。
今はまだ空白だらけの一覧でゲームとの違いは基礎能力の数値が記載されていないことだ。
基本的な攻撃力や防御力の数値は記載されず、それらは感覚で掴んでいくしかない。
とはいえ、レベルが上がればどうしたって意味不明な強さを手に出来る。
重要なのは職業と戦闘スタイルだ。これが生き残れるかどうかの鍵になる。
技能は所謂特殊スキルではあるが、あれば良いくらいのもの。
先天的にも後天的にも獲得する機会があっても、基本的に手に入れられないのがデフォルトだ。
俺の予言は技能欄に掲載されていない。
つまり、これ自体はシステムの判定内に収まっていないことになる。
こんな超能力めいた力がシステム内の能力でないとしたら、いよいよ意味が解らない。
じゃあこの予言は一体どんな理由で俺に生えてきたというのか。
何だか不気味に感じるものの、今はそれを深く考える時ではないと頭を振った。
「職業は……」
ステータス画面内の職業に指で触れると、画面が変化して三つの選択肢が出て来る。
初心者は敵を倒して冒険者になった時、先ず職業を選択しなければならない。
候補は三つであり、出て来る職は過去の経験を基に出現する。
俺の場合は暗殺者、付与師、生存者の三つ。
確か未来の検証で、暗殺者は暗所で奇襲をする経験が一定以上あること。
付与師は偶然であれ現実的でない方法で他者に何かをあげること。
生存者は危険を乗り越えることだと判明している。
この中で付与師は珍しい部類であり、狙っていなければ出せないものだ。
つまり、俺はこれを狙っていた。
モンスターをこの段階で打倒するのに、最適なのは暗殺者でも生存者でもなく付与師だ。
思い付いたのは予言のアカウントを作って暫く経った後。
これを使えば普通ではない手段で他者に救いを与えることが出来ると解った俺は、出て来ることを日々願っていた。
それが出たのであれば勝ちだ。
思わずガッツポーズをして付与師を選択し、自身のステータスの職業欄に付与師が出現した。
途端、画面に職業関係の能力が現れる。
特殊な技能以外の確定で入手可能な能力は現状で一つのみであり、全能力上昇(二)とそこには書かれていた。
言葉だけだといきなり強い能力を得たように思えるが、括弧内の二に注目だ。
これは付与師なら上昇量を示す。
つまり、全能力を二%上昇させるのがこの能力の概要だ。
正直渋い。
せめて一割上昇くらいは欲しいのが本音だ。
未だレベル零なので贅沢な話であるが、それでもスタートダッシュは順調でいたい。
中盤で躓くなら兎も角、序盤で躓くと立て直すのが大変だ。
「とはいえ、力は手に入った。後はレベルを上げていくだけだ」
リュックを背負う。
ナイフを手にゆっくりと事務室を出ると、鼓膜を揺さぶる程の爆音が一気に聞こえてきた。
無数の銃声、モンスターの叫び声、建築物が削れて崩壊する音。時折爆発音が聞こえる辺り、手榴弾や砲が使われているのだろう。
この建物も衝撃で揺れている。今にも何か攻撃が飛び込んで此処も無事ではいられなくなるだろう。
スーパーに裏口があるのは確認していた。この分なら音を立てても問題無いと外に飛び出て、早速分散していた小鬼に見つかる。
「――ッ!」
「見えてんだよ!!」
一斉に飛び掛かられ、小鬼の握ったモンスターの角が無数に襲い掛かる。
相手は速い。なったばかりの自分では、仮に何も知らない状態では全てを回避するのは困難極まる。この小鬼のレベルがどれほどなのかは定かではないが、少なくとも零より下ではないだろう。
とはいえだ。相手の攻撃は全て直線的。
足に力を入れて飛び、一気に三メートルの上空から相手の頭上を取って刃に付与。
付与師は物に付与するのが基本だ。そして、これがあるからこそ通常武器でも魔力を帯びて相手を傷付けることが簡単になる。
刃の先端で背後の小鬼の心臓を狙う。跳ねながらの攻撃なので力はあまり込められないが、背中に吸い込まれるように切っ先は小鬼の心臓部分にある核に届いた。
傷が付けば、小鬼の肉体は維持出来なくなる。
もっと大型の核であれば多少の傷は許容出来るのだが、小鬼程度ではナイフのダメージでもかなり危険だ。
ウッドフェアリーよりも簡単にナイフが通った事実に内心で喜ぶ。
やれると確信し、マスクの内で笑みを浮かべて走り出す。景色の全てが吹き飛んで行くような速度を楽しみつつ、準備運動として動作の鈍い小鬼にナイフを振るう。
質は良いとはいえ、ウッドフェアリーを倒すだけでも苦労していたナイフは、どんな品よりも切れ味が鋭くなっている。
魔力が通っているのは勿論、能力上昇のバフも受けている所為で、紙を切るように肉を切断した。
安全策として足を切り落として動けないようにしているが、そうでなくとも立ち回りを少し意識するだけで簡単に相手を殺し切れる。
途中で更に出現した個体も合わせ、僅かな時間で小鬼の死骸畑が出来上がった。
『レベルが上昇しました』
『挑戦者は速度上昇(五)を獲得しました』
数にして十五は殺したか。一定の経験値を吸収したことで、零から一にレベルが上がり、更に能力が一つ増える。
速度が上がるのは今の俺にとっては有難い限り。とはいえ、能力の発動には何かしらの代償がある。
殆どは魔力消費となるが、職業によっては別の条件が能力発動時に求められてしまう。こればかりは職業を獲得してから確認する他ない。
俺の付与師は魔力消費だ。先程武器に付与した際は体調に変化は無かったものの、内から何かが抜けていく感覚があった。
これで体調が悪くなれば、即ち魔力切れ寸前になる。一度完全に無くなったら、完全回復に通常よりも時間が必要になるのだ。
ある程度確認が済めば、もう小鬼の相手をしている場合ではない。
彼等の武器であるモンスターの角だけをリュックに回収し、大地を蹴ってダンジョンを目指す。
煙が一帯を包み込もうとしている。鼻に入ろうとする臭いに眉を顰め、屋上に行きたい気持ちを抑えてこの視界不良を利用した。
今なら俺の服装が黒いのも合わさり、上からは視認がし辛い筈。
サーモセンサーを使っていれば見つけられるかもしれないが、モンスターの波から外れて走っていれば捕捉するのは簡単ではないだろう。
途中途中で現れる小型のモンスターや動物をナイフで切り伏せる。
的確に核を狙えば一撃で倒せる現状は有難い。使い慣れている得物と合わさり、順調である今は余裕がある。
切って、斬って、時々付与を掛け直して。
ダンジョンの入り口にまで近付いた俺は、穴の端から無数に出て来るモンスターの軍勢を見つける。
嘗ての入り口との差異も無い。ならば、内部構造もきっと嘗てのままの筈。
今からそこに飛び込むのだ――――それを再確認して、俺は自身に速度上昇を付与した。




