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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者2 潜伏

 足は鍛えてあったつもりだが、坂道や迂回を求められたことで足が痛い。


 時間には余裕があるので普段よりも緩い速度で進んできたものの、休憩もせずに歩けば痛くなっても不思議ではないだろう。


 だが、そのお蔭で目的地には到着した。


 人は減り、自衛隊員の姿を頻繁に見るようになり、フェンスの中から人は追い出されている。


 もしかしたらまだ隠れている人間は居るかもしれないが、そこまで探す時間は彼らには無い。放置された人間がモンスターに殺されたとて、最早誰も見て見ぬフリをするだけだ。


 それにどうせ、これから多数の死人が出る。そして死人よりも行方不明者が増え、その大部分がダンジョンのどこかで骸を晒すだけとなるのだ。


 やれることはやった。残りの日数は、ただ待つだけだ。


 どちらが終わるのか、どちらが勝つのか。それを決めるのは将来の英雄以外いない。


 建物と建物の間。裏路地を巡る形で自衛隊や警察の動きを見る。


 下見をした時と異なり、今ではフェンスに等間隔で警察が張り付いている。更には見回りまで居て、隠れていなければやり過ごすことは不可能だ。


 俺は裏路地傍の自販機の影に隠れていた。腰を屈めて変化を見るも、嫌になるくらい真面目な連中が辺りを警戒している。


 この分だと忍び込むのは時間が掛かるなと、そう思っていた。


 オカルトは既に現実の範疇に収まっている。嘘か本当を論じる領域は越え、人々は俺の予言を真実だと盲信する勢いで信じていた。


 ならば、呆れることも馬鹿にすることもない。それは警察でも自衛隊でも一緒で、寧ろ馬鹿にした方が笑われてしまうぐらいにこの世界では普通になっている。


 でも、そんな中でも人には楽観があった。


 数多くの身を守る術が自身の傍にあれば、己は生きられると安堵することが出来た。


 フェンスの周りを調べ始めて半日。もう夜も深くなる時間で、数人の警官が飲み物を片手に雑談に興じている。


 彼らに周囲を気にする素振りは無い。もうこの周りに人は居ないと確信しているのか、笑い声を発しながら帰った後の予定を互いに話している。


 なんなら一人は飲食物を買いに行っているそうだ。その気の抜けように呆れるが、同時に使える。


 今居る地点で無事に稼働している店は無い。その代わりに駅の方に食品を販売する自販機がある。


 改札前までであれば誰でも行けるので、警察が向かった買い物先はそこだろう。


 足音を立てずに駅を目指す。相手は既に買い物に行った後なのでどこかですれ違うことを危惧したが、行く途中の道で商品を抱えた警察を見つけた。


 袋を持っていないので人数分の商品を両腕で抱えるように運んでいる姿。


 その背後に音を立てぬよう忍び寄り――――気付かれる前に首に腕を回した。


「……っガ!?」


「ッ、」


 警察ともなれば一般人よりは鍛えられている。


 とはいえ唐突な奇襲だ。治安が悪い海外でもない日本では、緩い奴は緩い傾向にあるのを経験則で知っている。


 暫く暴れた警官は、絞められた首を外す前に意識を喪失した。


 一気に力が抜けた身体を放置し、食い物と飲み物を適当な場所で捨てて物盗りに見せかける。


 警官は放置だ。買いに行く場所を解っていれば、探しに行って見つけるのも早いだろう。


 俺は魚肉ソーセージを一本だけ貰って戻り、彼らが訝しんで探しに行くのを待つ。


 まだ残っている人間が多いから全員は居なくならないと思っていたのだが、警官は訝しんだ後に何故か固まって一緒に探しに行ってしまった。


 此処がヤバイ場所だから怖がって一人で動きたくなかったのだろうか。それなら買い物に行った奴は貧乏籤でも引かされたのか。


 理由は解らずとも、その場には一時的な空白地帯が出来た。


 姿を視認される前にフェンスに足を引っかけ、跳ねるように内部へと飛び込む。


 そのまま一番近くのビルに入り込み、一気に階層を上っていく。


 屋上が開いていれば道に選択肢が生まれるのだが、残念なことにビルの管理人はしっかり施錠していた。


 それならとビルの裏口から外に出て、フェンスに見えない位置を常に守りながら穴の発生場所に近付く。


 空にはヘリの姿も見えた。報道か自衛隊か警察かは不明であるものの、どちらも共通しているのは下を見ていることだ。


 此方を認識される訳にはいかない。頭上も気にしつつ、時間を掛けて一歩一歩進む。


 今この瞬間もテレビやネットでは現地の状況がリアルタイムで流れているだろう。


 卒業間近でSNSを確認した際には、有名な配信者が一緒に生放送を見ようなんて企画も立てていた。


 それが甚だ不謹慎だとしてプチ炎上をしていたものだが、言葉にしないまでも誰かがこっそり現地で生配信をしていても不思議ではない。


 幾つもの建物を抜けて、漸く穴の傍まで到達。


 無人の巨大スーパーに入り込むと二階建てになっているようで、上下は階段かエスカレーターで行き来が可能になっている。


 商品はそのまま。電源が落ちているので周りは暗く、携帯のライトを起動させなければ身体を幾度もぶつけることになっていた。


 店内を見回して使える品を確認していく。リュックの中身は絶対に使いたくなかったので、此処で全部用意することが出来たのは僥倖だ。


 残り日数は二日。その間、俺はスーパーを拠点にして行動することにした。


 寝る場所は事務室。ブレーカーを上げても電気は点かず、どうやら完全に遮断されてしまっている。


 もしも点いたら監視カメラで中を見ることも出来たのにと思いつつ、携帯を開いて電波が来ていることを確認した。


「此処が、俺の拠点って訳だな」


 水と食い物はある。トイレは流せないので一度したら放置することになるが、出来るは出来る。


 電池も大量になるのでモバイルバッテリーに繋げば充電も容易。残りの日数でインターネットで情報を収集するのも簡単だ。


 出来ないのは家族との連絡か。


 事務室でチャットアプリで文章を送ってみたものの、電波は繋がっているのにエラーが吐かれた。


 電話をしてみても混雑中で繋がらない。緊急用の回線も皆が使う所為でパンク状態だ。


 SNSを開いてみたものの、もうずっと前から更新出来ていなかった。


 僅かでも動いてくれればと願っていたものの、この分では当日も動かないだろうな。


 となれば、残るは動画配信サービス。


 普段使いの人気場所とは違う、ネットをしている人間が主に使う場所に赴けば、幾人もの配信者がそこに居た。


 椅子に座りつつ、配信を眺める。


 此処の人気ジャンルはゲームだ。というより、ゲームに特化した配信サービスになっている。


 出ている配信者もプロゲーマーが多く、現実で企画物をしている人間は居ない。


 海外の人間も多く参加している。彼らからすれば、中国で起きていることや日本で起きようとしていることなんて対岸の火事でしかないのだ。


 何とも自由なスタイルで配信をしている様子は平和だった頃のようで、今の自分との落差に苦笑してしまう。


 日本で今一番危ない場所に居るのは俺だ。自分で飛び込んだ結果とはいえ、何も考えずにゲームに没頭することが出来るなら、その方がずっと良かった。


 その後、俺は時間を潰す為に只管に配信を見続けた。


 こんな配信が今後見れなくなる。少なくとも十年近くはネットだけで生きていくのは不可能だ。


 ゲームをしている彼らは、それがどんなジャンルであっても本当に楽しそうである。


 MMOでは視聴者と協力してボスを撃破していて、FPSでは物拾いに明け暮れる配信者が居た。


 配信の途中途中で話題の予言について面白可笑しく話していて、自分だったら絶対に生き残ってみせるぜと堂々と宣言している。


 変わってくれるなら、俺は変わってほしかった。


 家族と一緒に居たい俺としては、予言の力を放棄して安全を買えるなら捨ててしまいたかったのである。

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