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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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5/12

始まり5 未来に向けて

 ――――夢の如き空間で見た自分の一生を思い返す。


 高校生活を中身の無いまま過ごし、大学にも然程ランクが高くない場所を受験した。

 合格はこれまでの貯金があったからこそ難しくはなかったが、けれど入学式の当日に出現したダンジョンによって俺の片腕と両親は殺されている。

 そこからの生活は地獄そのもので、世の中が安定していく中でも俺自身の生活は常に苦しかった。

 落ち着いたとはいえ高騰している物価。片腕喪失というハンディキャップ。普通以下の才能。

 全てが俺を底辺に落とし込み、サポーターとしての道を強制させた。故に何処かで俺が死ぬのは必然で、四十を迎える手前で死んだ事実は客観的にも不思議には見えなかったろう。

 

 それがこの先で待っている。映像通りに過ごせば、俺はあの未来と一緒の末路を辿る。

 最悪な気持ちだ。どう死ぬのかを確り見せ付けられたからこそ、与えられる恐怖はこれまでの比ではない。

 何より、家族が死ぬのだ。あの優しい家族が、まったく意味の無い理由でモンスターに蹂躙される。

 如何に現実味の無い情報が並べられても、家族が死ぬことは容認されるべきことではない。回避出来るのなら回避して、彼等には苦しい世の中でも生きていてほしい。

 浮気されるよりも、ずっと俺は自分と家族が死ぬことが恐ろしかった。最初はただの悪趣味な映像程度に思っていたものも、真実となった今では震えて震えて仕方がない。


 家族には全力で隠した。卒業式を迎えるまでの残り日数も、俺はなんてことのないように過ごしてみせた。

 咲は幾度となく俺に話し掛けようとしていたが、そんなことなど気にしていられる余裕もない。

 どうせお前は成功するのだから、心配するだけまったくの無駄だ。――――誰よりも何よりも、俺は未来を変えて明日を掴み取らねばならなかった。


「はッ、はッ、はッ……!」


 走る、走る、ただ走る。

 咲と並んでも遜色の無い自分になる為にしていた日課。上下に揃えた黒のスポーツウェア姿で走り、その距離はこれまでよりも長い。

 息が切れる寸前まで。いや、更にその先を目指す為。

 己の身体を酷使して限界を目指し、本当に立っているのもやっとなくらいになったらルート上にある公園のベンチで休憩する。

 

 腰のベルトには電子マネーと携帯が入っているポーチとペットボトルを入れるホルダー。

 ボトルの中にあるのはスポーツ飲料だが、乾いた肉体は一度飲みだすと一気に消費される。

 視線は常に中空。何も考えたくない気持ちであるが、そうすることを未来は許してくれない。

 これから先に出現する敵、自分よりも強靭な冒険者、無数に現れた成長システム群。

 休憩をしている間はそれらを常に思い出す。本能が忘れるなと叫んでいるようで、実際に全てを意識せずに引き出せるようになれねば俺は安心することが出来ない。


 この世界の住人がステータスを獲得するには、ダンジョンから現れるモンスターを一体でも倒さねばならない。

 より正確に言えば、零から一にレベルを上げねば戦う土俵に立つことが出来ないのである。

 まるでゲームであるものの、そのお蔭で日本では特にシステム周りは解り易かった。今では外人でも慣れ親しんだシステムによって人はモンスターに対抗する力を獲得していき、一定まで強くなれば無双の域にまで己を高めることが出来る。

 ここで問題となるのは、最初のモンスターを殺すことだ。

 日本は殺人が日常茶飯事ではない。ニュースや新聞で見ることくらいはあるが、実際に自分の目の前でそれが発生するとは考えられない。

 平和を何よりも重視することで軽犯罪は度々目にすることはあっても、人命を奪う行為そのものには過度な忌避感を覚えてしまう。


 故に、日本人は特に最初の一歩を乗り越えるのが大変だ。

 そしてそれを乗り越えても、レベルが零の状態でモンスターを倒すのは難しい。

 小鬼が居たとする。ゲームで見慣れた彼等は世の中では雑魚に思えるが、それを一体倒すだけでも常人には莫大な労力が掛かってしまう。

 彼等は生命力も普通ではない。即死狙いで心臓や首に刃物を突き立てても、暫くは傷口を抑えて行動を可能にする。

 真に何もさせずに殺すなら首と胴体を泣き別れさせるしかない。それが如何に大変かは、未来の映像で嫌という程見せられた。

 

 未来の俺の装備はナイフ。

 モンスターから作られた小振りなナイフは鉱石だけで作られた代物よりも性能が高く、片腕の俺でもモンスターに致命傷を負わせることが出来た。

 それがあれば然程困ることはないけれども、ダンジョンが発生した当日に手に入れることは流石に不可能である。これは剣でも槍でも弓でも一緒だ――――今の状態でダンジョン産の武具を手にするのは奇跡を願う他ない。

 そして当然、そんな奇跡が自分に降り掛かるなんて甘い考えをする筈も無し。

 故にするのは肉体改造。高校の呆けていた時間を全て鍛錬に当てることで僅かでも未来より優勢を取り、最速でモンスターを殺してレベルを上げる。


「でも、それだけじゃあ」


 駄目だ。

 例え優勢を取れても、自分は一人。一人で出来ることなんてたかが知れているし、一度でも小鬼の軍勢に囲まれれば袋叩きで速攻あの世行きである。

 ダンジョンから溢れるモンスターの侵攻を止めるには、大元を非活性化させねばならない。

 つまりダンジョンの制覇。階層を下り、ボスを殺すことのみダンジョンは沈静する。

 幸いなのは最初に出現するダンジョンは後々に出現するモノよりも弱いことだ。

 階層も少なく、ボスも威力重視の単調な攻撃ばかり。ソロでも打倒することが出来ると知れていれば、レベルを上げる機会があれば俺でも倒せるかもしれない。

 だから肝要なのは溢れ出たモンスター達をどれだけ素早く抑え込むか。

 犠牲者が少なくなればそれだけで未来の芽は増える。最初の段階で死んでいった者の中に有用な冒険者候補居たのであれば、彼等が今後の未来を塗り替えてくれる筈。


 ならば、俺は何をすれば良いだろうか。

 この際馬鹿な真似でも良い。周りが必死になってくれるような状況を、どうやってか作り出すことが出来はしないだろうか。

 ポーチから取り出し、携帯を動かす。

 検索エンジンに要素を打ち込んで探してみるも、どうにも的外れな結果が返ってくる。

 当然と言えば当然。俺が未来を知った理由なんてまるで解らない。意味不明で、怪しくて、眉唾物だと言われれば言い返すことも無理だ。

 未来の映像の中で俺がこの能力を使っている様子は無かった。それはつまり、この未来の映像を見る力は今の俺のみに与えられていることになる。


「特殊スキル」


 個人、または特殊条件下でのみ発現する通常とは異なるスキル群。

 これを持っているかどうかで冒険者としての格は一段も二段も変わる。中身は様々だが、俺が映像で見た限りの情報でも有用なモノが並んでいた。

 その中に一秒先の未来を見るものがある。戦闘時に有利に立ち回ることが出来るこのスキルは、主に接近戦を好む冒険者が使用していた。

 俺の力も未来を見る方向性だ。だが、モンスターを倒さねば基礎能力もスキルも増えてはくれない。

 生産職はまた違った方法でのスキル発現であるも、それでもやはり一体は流石に殺しておかなければ何も出て来ることはない。

 ならば、やっぱり俺のこれはスキルではないのか?


「やめやめ。 ……今そんなこと考えてもしょうがないだろ」


 脳裏を過る疑問を顔を振って吹き飛ばす。

 今必要なのは、如何に始まりをマシなものにするかだ。逃げるだけ逃げるでも良いが、その理由を用意するのも難しい。

 どうしたものか。なにもない場所を眺め、溜息が零れた。

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