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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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高校生35 人生のチャレンジ

 休みの日、俺は一人で電車ですし詰めにされていた。


 家族には遠くで格安セールがあると言って出ており、目的の駅までは一時間も掛かる予定だ。


 人の種類は様々。老いも若いも関係無く、皆が苦しい表情で電車に乗っていた。


 これが今の電車の日常だ。毎朝会社に出勤する父もこの過密とも言うべき状態には愚痴ばかりで、しかも扉が開けば出入りの波に簡単に呑まれる。


 呑み込まれない為には手摺に掴まるくらいなものだ。だからこそ行方不明者も多い。


 大抵はその日の内に見つかるそうだが、少ない割合で一日で発見されないこともある。その大部分はまだ小学生程の子供で、自分の身分を証明する物を持っていなかったからだ。


 後は痴呆症等に掛かっている老人も居る。此方は此方で子供よりも対処が面倒になりやすいので、最悪の場合である警察のお世話になってしまう。


 揺られ、波に抗い、無事に駅に到着した時点で俺の精神的気力はボロボロだ。


 服も乱れてしまい、髪も心無しか崩れてしまっている気がする。両手でそれらを直しつつ、駅の外へと足を動かした。


 外に出ると解るのは、駅周辺の人通りの多さだ。駅前の店には数多くの客が来店しているようで、常に多数の出入りを確認することができる。


 多くの荷物を持った人の姿も見えた。家族がキャリーケースやボストンバッグを持っている様子から、どうやらこれから泊りがけで何処かに行くのだろう。


 いや、そもそも引っ越すのかもしれない。何せ此処は、あの穴が発生する場所なのだから。


 具体的にはまだ歩く必要はあるものの、最寄り駅であるのは間違いない。被害を受けるとなれば此処が一番最初であり、恐らく未来でも生き残った人間は居ない。


 街並みは普通だ。都会の傍であるお蔭で此方にも洒落た店が立ち並び、生活する上で不足する部分は皆無だろう。


 幾つかの店は既にシャッターが降りていた。シャッター前には張り紙が残され、暫くは開店する予定が無いことが読むと解る。


 それでも人の顔色は悪いばかりではない。未だ明確に予言の成就が発生した訳ではないので、彼等の生存バイアスが事態を重く捉えさせないのである。


 とはいえ、限度はあった。どんなに大丈夫だと思い込んでも、不安を呼び込む存在が長い時間を掛けてゆっくりと迫ってくれば焦燥に駆られる。


 今はまだ楽観に浸れても、最終的にはバイアスを含めて吹き飛ばされるだろう。


 そこから暫く、道を覚えるようにゆっくり歩く。


 目的地までは歩いて三十分。出掛けたのは昼なので買い物も含めれば夕方に帰れるだろう。


 格安セールをしている店も見つけてある。まだ始まってはいないので行く意味は皆無であり、最悪見逃したとしてもそれはそれで構わない。


 そして、遂に俺はそこを見た。未来でしか見たことのない発生地を。


 道には緑のフェンスが立っている。高さは二メートル程で、登ろうと思えば乗り越えられる高さ。


 フェンスの周りに今は人は居ない。あちらこちらでフェンスを立てる作業を行う音が遠くに聞こえ、足下部分はわざわざコンクリートを抉って移動出来ないよう固定化させている。


 これはモンスター対策と言うより、悪戯目的の人間対策だ。


 好奇心の赴くままに動く人間は今も居る。特にこのフェンスが無くなっている姿を設置担当者が見たらどうなるか、なんてのは迷惑系動画投稿者が実際に行っていた。


 当たり前であるが、露見した時点で大事だ。


 折角注意書きの看板もあるのに彼等はそれを無視している。この悪戯は本当に命に関わるレベルなので犯罪者として捕まっているものの、長く拘留するのは難しい。


 こればかりは国がどれだけ被害を与えることになるのかを想像しきれないのが原因だ。


 一応は国家クラスに相当する筈なので重くしてもらいたいと思うも、やはり実際にどうなるかを見ないと法律を変えることも不可能だ。


 銃器を持った人間が威嚇をしないのも実に日本らしい。ここまで切羽詰まっているなら少しのリソースも許してはいけない筈なのに、周りが騒ぐ所為で自衛隊が一時的に基地を作るのも出来なくなっている。


「おいおい、五分歩いても人っ子一人居ないぞ」


 フェンス越しに左右に五分程歩いてみたが、自衛隊どころか警察の姿も無い。


 一先ず場所は区切ったから、後は本番に間に合えばそれで良いのか。今なら登って中に入り込んで近くの建物に潜伏することだって簡単だ。


 監視カメラが無い場所も狙えば見つかる前にモンスターの襲撃が始まるだろう。


 ガバというか、上はまだ物事を軽く考えているのだろうか。もしもそうであるなら、危機感の欠如も著しい。


 フェンスの内側は普通の街並みが広がっていた。


 何も知らない人間が見れば何の基準で隔てているのか意味も解らず、実際まだあそこは平穏そのものだ。


「えーっと、ダンジョンの中心は……」


 近くのデパートに入り込む。


 大型の店内の一階には休憩用の広場が用意され、丸型の机と椅子が複数置かれている。


 その内の一つに座り、携帯の地図で未来の地図と照らし合わせてダンジョンの位置を再確認。


 ダンジョンは巨大な穴の形になっているが、普通に飛び込んでは落下死することになる。


 安全に入り込める道は一つだけ。モンスターが昇って来る場所に石の階段が用意され、そこからダンジョンに入り込める。


 石段は外側の壁だ。螺旋を描く形でダンジョンの一階部分に続き、地面に到着した瞬間に攻略がスタートする。


 その前にモンスターが列になって階段に並んでいるので、先ずはそちらを回避するのが最優先だ。


「……やっぱり外で一匹殺らないと駄目か」


 俺が未来の自分のように動くには、やはり最低一体でもモンスターを殺してステータスを確保したい。


 そうなると外に出たばかりの油断している瞬間を狙いたいが、倒すべき個体は慎重に決めておかねば。


 最有力の候補としてはゴブリン。これを殺すことを第一に身体を鍛えていたのだから当然。


 第二に小型動物。中国よりも今回の日本のダンジョンは弱い。出て来る動物も兎や鼠ばかりで、核を破壊するのも難しくないだろう。


 とはいえ動物は皆俊敏だ。冒険者基準でもすばしっこい印象があったので、純人間では捕まえるのは不可能に近いだろう。


 罠を張って準備するにしても、その頃には自衛隊も待ち構えている。つまり出た瞬間を狙いたい俺の願望は無謀極まりない。


 やるなら敵が自衛隊を押し始めた段階だろうか。


 彼等がモンスターに集中している間にトドメを刺す。あるいは、自衛隊が遠距離で倒したモンスターの経験値を横からいただく。


 広範囲の攻撃が来ることも考慮し距離も空けておくとして、乗り越えるフェンスは五か所から十か所は決めておいた方が良いだろう。


「監視カメラ……人の目、はいいか。当日の自衛隊達の動き……んなもん解るか」


 情報が足りないのは最初から解っていた。


 未来情報を漁ってもそんな情報は出てこない。あの当時の彼が重視したのは生きることで、その後もすったもんだがあった所為で過去を振り返る時間は多くはなかった。


 その少ない過去も殆どがダンジョン周りのみ。結局発生当日の具体的な人間の流れを把握することは叶わず、殆どをアドリブで解決することを迫られている。


 成功するのはどれくらいだ?百分の一か、千分の一か、万分の一か。


 高くはない確率が脳内を駆け巡り、しかし口が自然と歪んでいくのが解る。


 携帯を動く指が止まらない。頭が解決策を捻り出そうと回転していく。


 結局、その日は夕方までデパートの広場で過ごしていた。


 格安セールは何時の間に終わっていて、帰ってきた際に両親に誤魔化すのに時間が掛かった。

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