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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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高校生33 日本滅亡と英雄探し

 俺にとって日本が騒々しくなるまでは予定通りだった。


 水を引っ繰り返したような、巣穴を突いたような、と形容すべき程に事態は混迷の一途を辿っていき、最も慌てることになったのは穴の発生圏内の人達だ。

 何せ中国では全てが飲み込まれた。家族や友人、資産の全てが穴の底に落ちていったのであれば、彼等には何も残されないことになる。


 そうなるのは御免だ。故に引っ越しが始まり、退職が始まり、上から見れば蟻の行列かの如く四方八方に列が生まれているだろう。

 夏休みの終了間近だったこともあり、家に帰る者達も居る。そちらともぶつかり、特に東京付近は混雑を超越した渋滞ぶりを見せていた。


 俺の周辺でも何も影響が無い訳がない。

 東京側に極めて近くはないものの、それでも離れ過ぎているとは言えないのが実状。逃げる人間は居るし、学校から転校した生徒も数多い。


 三年生の中でもそれは目立ち、残ったのは純粋に金の無い奴か、避難先を確保出来なかった奴ばかり。


 俺の場合は避難先を確保することは出来た。南側に親戚がおり、そちらと話し合いをした上で避難先として了承してもらえたのだ。

 あれこれ引っ越し先をどうしようと考えていたのが馬鹿だった。そりゃ、俺とは違って両親であれば誰かを頼るのは当たり前だろう。


 だが残念な事に、今はまだ避難が始まったばかり。直ぐに移動するには道は開かれていない。

 もどかしいが、逃げるのは数ヶ月先になるだろう。――――ならばと、それを利用して俺は学校への転校手続きを阻止した。


「今後、学歴が必要かはさておいて、逃げられないなら学校には通っておいた方が良い。卒業するまでに荷物とかを全部向こうに送れたら、後は俺達だけだから身軽だろ?」


「……翔、なんだか落ち着いているな」


「何時かこうなるんじゃないかって思ってたんだ。まさか夏休みが終わる直前だったとは想像してなかったけど」


「――度胸があるじゃない、翔。流石ね」


 母親と父親の呆れ混じりの目から視線を逸らす。

 ここで昔の性分が生きるとは思わなかったが、それで納得したのであればやりやすい。


 流石に今回の事態では父親も咲の父親に電話を掛けていた。双方が離れてしまうのであれば、今後会わねばならない事態に陥っても会えなくなる。

 とはいえ会わなくなっても別に構わない。既に俺の父親がこれまで手助けで出してくれていた分の金は払われている。


 何故か何割か上乗せで払われたが、それは謝意として受け取っておいた。

 貰う物が無く、咲と俺がこれ以上会う道理が存在しない。


 なら関係性としては希薄化するのが自然だ。今も連絡が取り合えるのは、咲が何かしてしまった場合を考慮してのものである。


 ちなみに咲の両親も引っ越しは既に決めていた。場所も新たに一軒家を購入し、此方と同様に私物を徐々に送るそうだ。

 卒業するまで居るかは不明であるも、咲もまだ学校に残ることになる。


「ふーん、そんなことになってるのね」


 学校は以前と比較すると閑散としていた。

 ウチのクラスの生徒の転校率は五割を超え、田舎の学校のように机と椅子が空き放題になっている。


 今では席を好きなように座れるし、自習となる回数も増えていた。

 生徒だけでなく教師も避難しているのだから当然かもしれないが、そちらへの陰口は数多い。


 真っ当な教師程残っているので、残っていないのはちょっとよろしくない噂のある教師ばかりだ。

 これが保身だと言われればその通り。けれど、生き延びる為と言われれば何も反論することは出来ない。


 昼休みの時間では小森と飯を食べる機会が増えた。

 可愛らしい弁当を広げている彼女は箸を口に加えて、あまり気にしていない素振りをしている。


 実際、他人のあれこれについて彼女は大して気にしていないようだ。

 今は彼女の家も騒がしいらしく、学校で過ごすのが一番落ち着いていられる。


 なら友達と飯でも食べろよと言ったのだが、そう言った瞬間に溜息を吐かれた。


「女の子同士って大変なの。多少なりでも演じなきゃならないし、数が増えたらヒエラルキーも考慮しなきゃならなくなるの」


「此処は教室だが、言って良いのか?」


「私の友達は皆引っ越した後。なら、素でいても問題無い奴と一緒の方が気が楽でしょ」


「そんなもんかね」


「そんなもんよ」


 確かに俺に話し掛けてくる人間は殆どいない。

 友人を作らず、拒絶することで今話をする人間は小森のみだ。


 咲は俺の近くに居ること自体を避けて、昼休みも図書館に行っている。

 図書館での飲食は禁止なので今頃は何処かで食べているだろう。


 彼女が今後どうなるかは、もう俺には想像することも出来ない。


 小森との掛け合いは楽ではある。隠すべきことは隠さなければならないが、それを抑えておけば素直な感想を言っても彼女は拒絶しない。

 嫌なら離れれば良いし、彼女はそれについて遠慮はしない性分だ。


 少々気の強さが見えるものの、それ自体は俺にとって問題はない。


「……アンタの言っていた通りになったね」


「ああ。まさかこんなに短期間になるとは」


「テレビも新聞もネットも今じゃ予言、予言、予言よ。日本滅亡だって話も多いし」


 下手な事故や事件よりも今じゃ予言の方が重要度が高い。

 少数の問題事より日本全体の問題だ。


 日本滅亡を本気で語っているのはネットの人間ばかりだが、それがまるっきり嘘であるとも誰も言えない。

 実際、中国の国力は低下の一途だ。


 大国は荒れに荒らされ、一つ二つ台風や地震が起きただけではああはならなかった。

 全てはモンスターが無作為に蹂躙を繰り返した結果だ。


 あれが全国に現れでもすれば、滅亡が脳裏に過るのも致し方ない。

 そして、だからこそと言うべきなのか。


「お蔭で英雄探しも活発。誰がそう言われるのかって日々議論の的」


 俺が最後に心情を語った部分。

 やるべきをやった。ならば後は、後の英雄が解決してくれる筈だ。


 願いも籠った言葉は違う意味で受け取られ、今では英雄候補を探す毎日である。

 彼等が向けている対象は世界的に有名な人間ばかりだ。


 只人の中から出て来ることはないと思い込んでいるのか、中には最初の人間が舞い戻るなんてオカルトも語っていた。

 人々にとって、英雄とは最後の希望だ。


 それ無しにはもう生きられない、縋れる象徴だった。

 俺の何てことのない吐露がこの状況を生み出すなど、流石に予想外にしていなかった。


 あまりな流れに自分が白目を剥いてしまったこともある。

 ここまで乾燥しているのかと思う程に、乾いた笑い声まで出てしまっていた。


 小森としても気になるところなのだろう。

 その話題を出した時点で、ちらちらと此方に視線を向けている。


「アンタ的にはどう思う?」


「そうだなぁ……」


 飯を食う手を止め、考えるように腕を組む。

 わざとらしくない仕草をしてみるも、答えは既にある。


 悩んでいる素振りは一分くらい続け、頬を指で掻いて解らんと返した。


「そもそも現状の人間で何とか出来るのか?仮に出来るとして、じゃあなんでその動きを誰も察知出来ていないんだ?」


「知らないわよそんなの。私に聞いてどうするの」


「いやね、誰も怪しい動きをしていると騒いでいないんだ。今が今だから仕方ないかもしれないが、だとして英雄を探すならもっとくまなく見なきゃならんだろ」


 現実的に、英雄だと言われる人間は既に何かしら功績を残している。

 であれば、世間の人間は有名人が何をしているのかを気にするものだ。


 だからゴシップ誌は消えないし、ネットで嘘か本当か解らない噂話が世に出回る。

 なのに今回は何も出てこない。


 殆どが予言で流され、英雄については推測だけで終わっている。

 探す時間が無いと言われればその通り。


 でも探したいのなら、有名人だけを見ているべきではない。


「意外に英雄は一般人だったりするかもしれないぞ?」


 未来の英雄は一般人の中から出た。

 だから俺は、彼女に推測としてそれを与えた。

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