表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/58

高校生19 変わっていく毎日

 時間の経過は残酷だ。本当に訪れてほしくない時間程、気付けばあっという間に近付いてくる。


 中国に関する予言をしてからまた日数が流れた。表面上は何時も通りに過ごしつつ、年末のあの日が姿を見せようとしている現実に背筋が冷えた。


 二年目の終わり。十二月の半ば。


 もうじき三年に上がり、更に一年が経過すればいよいよ卒業は目前。通常なら進学や就職に意識を向けるべきところだが、今この瞬間はそれどころではない。


 ニュースは連日大騒ぎだ。中国国民の国外逃亡は止められず、政府が把握していない違法的な手段で世界中のあちらこちらに彼等の姿が見せている。


 予言が示した日時は、十二月二十五日。クリスマスに現れるとされる穴は未だ兆候の一つも見せはしない。


 けれども、出現予定の街に人気はどんどん無くなっている。


 開けっ放しの個人商店には品物が並ばず、マンションやアパートには契約解除の連絡が相次いだ。


 会社が街にある経営者達は別の場所に移転するか、そんなことは起きないと思い込むかのどちらか。いっそ手放してしまった方が損失は小さくなると考えるも、稼ぐ手段の喪失は何より避けたいのだろう。


 反面、経営者ではない社員やバイトは脱兎の如く逃げ出した。今では経営そのものが回っていない会社の方が多いに違いない。


 必然、政府からすれば甚大なダメージを与えることになった。事の原因が原因なので普通に考えれば政府は俺を見つけ出して逮捕するであろうが、それをする余裕も今は無い。


 兎にも角にも自国の混乱を抑える。精一杯の努力で何とか国としての体裁を保っているものの、それでもダンジョンが出現した瞬間には最後の抵抗も虚しく崩れ去ってしまう。


 こればかりは俺が予言をしなくても起きていた事だ。寧ろ予言をしていない状態の方がよっぽど悲惨な結末を辿ることになる。


 最終的には国土の維持が難しくなることで他国に管理を頼むことになってしまうのだから、中国の未来はマシになったようなものだ。


 勿論、この騒ぎに余波が起きたのも無視してはならない。


「うっわ、値上がりが酷いな……」


 学校の帰り道、偶に寄ることもあった雑貨屋の商品は軒並み値上げをしていた。


 少し前なら中国産と言えば安さの象徴みたいな印象を抱いていたものだが、今ではもう日本製の物と大きな差は無い。


 そうなれば結局日本製の商品を皆買うもので、直ぐに壊れても仕方ない値段だった商品がやがて売れ残ってしまうのは避けられまい。


 俺としても中国産の商品を今後買うことはないだろう。日本でのダンジョン発生の所為で余計に物価が上がるのだから、長持ちしない製品を買っても無意味だ。


 ただ、現時点でも家庭への金銭的ダメージは大きい。我が家でも母親が頭を悩ませ、父親も一ヶ月程前から飲みに行くことを避けていた。


「翔、悪いんだけど今月のお小遣いは無理かも……」


「まぁこんな世の中だからね、気にしないで」


 此処で家計の為にバイトに精を出すのが理想的な息子なのかもしれない。


 小遣いの捻出が難しくなった以上、俺がこれから金を稼ぐにはバイトをするしかないのである。だけれども、それに結果が伴うことはないと俺は知っていた。


 知っていたから、ここでやるかと自宅の俺の私物を売り払った。


 ゲームも、着なくなった服も、咲との思い出のアクセサリーも、処分可能な物は残らず。


 咲との品は特に高く売れた。それに何かを思うこともなく、俺は口座に入金された十数万と小遣いで貯まった分で次に買う商品の優劣を作る。


 大前提として、飲食物はもう集めていった方が良いだろう。これからダンジョンが攻略されていくまでは値上がる一方どころか貨幣経済が一時的に消失する。


 ダンジョン資源が使えるようになっていけば今の社会よりも豊かになっていくが、そこまでは苦難の時から逃げられない。


 服は丈夫な物を数着用意しておけば良い。スーツなんて論外だ。ダンジョンの攻略をしていくなら動き易く露出面積の少ない物にしておかなければならない。


 防御力なんて期待するだけ無駄だ。最初はどの服でも簡単に破かれる。


 武器は肉厚で頑丈なナイフ。ダンジョンの資源を用いない武器でモンスターを倒すのは不可能の域であるが、解決策はこの数年の中で一応は見つけ出した。


 それが確実に成功する保証は無いものの、他よりはよっぽど可能性は高い。少なくとも最速でスタートさせたいなら今の俺はコレしか思いつかなかった。


 後は拠点に、常備薬。医薬品の類は購入可能。拠点ははっきり言って俺の金じゃ用意不可能。


 東京近郊に出現するダンジョンを自衛隊は囲んで警戒するだろう。周辺は侵入禁止となり、範囲内の建物から人は居なくなるに違いない。


 そこを利用するのが、取り敢えずの俺の解決方法だ。危険ではあるが、そもダンジョン攻略を早期に済ませるのであれば軍人の警戒網を抜けねばならない。であれば発生直後になるべく近付き、一先ずの拠点を見つけ出す。


 博打要素の塊だ。成功する確率なんて計算するまでもない。


 でもやらねば達成は難しくなる。最速でステータスを獲得することこそ、将来の安息に繋がるのだ。


「最近、帰るの遅いけど何かしてるの?」


 夜。夕飯を三人で食べていると、母親に唐突に質問された。


 食べる手を止め母親に視線を向け、心配気な彼女に安心させるように笑みを浮かべた。


「何時ものトレーニングだよ。それに最近は中国のあれこれがあるからさ、学校でも筋トレとかが流行ってるんだよ」


「へぇ。じゃあ翔は頼りにされちゃうんじゃない?」


「いや、そんなことはないよ。俺が鍛えてるってのは誰にも言ってないから」


「そうなのか? 体育の時間とかでバレそうだと思うが……」


 家族には俺が一人で過ごしていることを話していない。


 加えて鍛えていることを知っているのは両親だけで、学ランや長袖の体操服で身体を隠している。


 最近、学生の中では鍛えることが流行りになった。俺の予言の所為で中国に危険な化物が出現すると言われ、万が一日本にそれが出現した場合を考えての行動だ。


 今から始めたとしても殆ど意味は無いものの、将来を見れば頑健な肉体の価値は極めて高い。


 その分だけ勉強が疎かになる学生も増えたようだが、それで成績が下がっても致し方ない。自業自得だ。


「最近は何かと物騒だからあまり帰るのが遅くなってほしくないんだが、そのトレーニングを室内で行うことは出来ないのか?」


「うーん、床の軋みで二人が迷惑するかも。それに広い空間が必要でさ、俺の部屋だけじゃどうしてもね」


「そうかぁ……。広い場所が必要じゃなかったら全然家でやってもらいたいんだが」


「毎日やってたら流石に鬱陶しいでしょ。ま、そんなに気にしないでよ。周りの目も多い公園でしてるからさ」


 父親の言葉は有難い。だが、俺が求めているのは自然環境そのものだ。


 人工的な建物の中で己を鍛えるのではなく、自然の地面等を踏み締めて慣らす。ダンジョン内が自然環境であることが多いのが最たる理由だが、直近の訳としてはキャンプに行った時に人工と自然のギャップで疲れることを防ぐ為である。


 そんなことを知らない二人は心配そうにしながらも仕方無いと頷いた。金を掛ける訳でもないし、危険な経験を過去に複数体験していることを両親は知っている。


 俺の危険に対する意識の高さを二人は知っているのだ。だから止めろとは言わないし、懐の深い親には感謝している。


「その内一人キャンプなんて行きそうね。――――ま、翔の場合は彼女と行くか!」


「……ははは、そうかもね」


 母親の軽い一言に俺は一瞬の間を空けて無難な答えを返した。


 彼女の話をするのはまだ先で良いだろう。卒業した後か、或いは卒業間近くらいかが良いかもしれない。


 もしかしたら家の引っ越しの為に理由付けとして使うかもしれないことを脳裏に過らせ、俺は努めて和気藹々とした雑談を楽しんでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ