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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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高校生13 二人目にさよならを

 根岸の突然の告白に俺の心は静かだった。

 予想していた訳ではない。彼女は友好的関係を築こうとしていたが、その根底に恋愛が絡んでいることを俺は完全に察していてはいなかった。

 自分が好かれる筈がないと考えていたのもあるだろう。未来の映像とこれまでの自分を客観視した時、どうポジティブに捉えても女子ウケするとは思えない。

 だからこの告白に、根岸の本気は無い。より正確に言えば根岸は勘違いを起こしている。

 その感情は本当の恋愛ではない。吊り橋効果によって発生する錯覚だ。


「その告白を受ける気はありません」


 故に両断した。

 誤魔化すような姑息な真似はせず、彼女が目を見開いてショックを受けている様を見やる。


「先輩。 先輩と俺はそんなに深い間柄じゃありません。 良い面も悪い面も互いに理解なんてしていないでしょう。 今の先輩はコンビニの件で錯覚を起こしているだけです」


「そんなことは……ッ」


「先輩」


 優しく制止の言葉を投げ掛ける。

 情緒が不安定になる彼女を落ち着かせるように見つめ、彼女は荒げそうになる自身の胸に手を当てて何度も呼吸を繰り返す。

 この告白は前回の咲の時とは違う。彼女の場合は俺の行動を間近で見ていたし、喧嘩を起こした姿も罵倒をぶつけ合った様子も全部見ている。

 あの時は馬鹿な行動をしているクラスメイトを止める為であったが、それでもカッコよさとは無縁の子供の諍いでしかなかった。

 そんな俺を見ても咲は惚れてくれて、そして確り告白時に語ってくれている。彼女があの瞬間に向けていた恋愛を錯覚だと誤認することは誰にだって不可能だった筈だ。


 翻り、根岸の場合はどうだろうか。

 昔の俺を根岸は知らない。出会いは唐突と衝撃を齎し、以降も仲良くなるイベントなんて殆ど無い。

 離れていく理由はあっても仲良くなる理由が無いのだ。そんな状態で男に好意を持つなど、最早都合の良い恋愛創作物でしかない。

 高校生であればまだ恋愛に幻想を抱いても不思議ではなかったが、大学生になるならいい加減にその幻想を捨ててもらわなければ。

 感情的な共同生活なんて不安定に過ぎる。破綻と紙一重の環境で安心するにはどちらも常に努力しなければならず、その行為は疲弊を生むだろう。

 

「俺は貴方と積極的に関係を作ろうとしていましたか? ……他よりも特別扱いをしているように見えていましたか?」


「それは……ッ」


 俺の態度は一貫していた。

 過去を思い返しても彼女に何かプレゼントした記憶すら無いのだ。そんな俺達の間が特別だなんて、彼女だって思えはしない。

 告白をしてくれた事は素直に嬉しかった。こんな俺でも映像よりはマシになったのだと、そう認識することが出来た。

 根岸の告白は俺の変化を確信させてくれたのだ。その点は感謝しかない。

 だから終わりだと確り言わねばならないのだ。そしてこんな男に何時までも拘るなと、ちゃんと背中を押してやらねばならない。

 初恋を奪ってしまったのは申し訳ないと思う。この年齢であればきっと、男も女もこの瞬間を特別に感じてしまうだろうから。


「先輩。 そろそろ錯覚から起きましょう。 本当の貴方に戻るべきです」


「本当の、私?」


「ええ。 本当の貴方は俺みたいな奴に恋なんてしない。 本当の貴方は自分を大切にしてくれる、真に優しい男に惚れている筈です」


 立花・翔は貴方を笑わせはしなかった。

 立花・翔は貴方と遊んではくれなかった。

 立花・翔は貴方と並べる程の能力を持っていない。

 立花・翔は貴方と距離を取っていて、言葉だけ丁寧なだけで優しくはなかった。

 頭に染み込ませるように俺の駄目な点を並べ、俯かせ始めた彼女の偽の恋愛感情を破壊する。

 根岸は何も悪いことはしていない。幸福になるべき人間だ。そして幸福にする人間の条件に、俺はまるで合致していない。

 何度も何度も、洗脳を解くが如くに言葉を募る。聞いている根岸は無言で、それでも十分が経過した頃にゆっくりと顔を上げた。


「……立花、君」


「はい」


 根岸の顔は申し訳ない色に染まっていた。

 恋愛に燃える赤は抜け落ち、何処か青い表情は自身の真実に辿り着いたからだろう。

 そうだ、根岸は俺に恋をしていない。ただ、助けてくれた事実に感謝していただけだ。

 それに気付いてくれたのであれば、彼女が罪悪感を覚える必要は無かった。俺としてもこれで相手をせずに済むのでオールオッケーである。

 

「私、多分、変だったよね」


「そうですね。 随分唐突な行動に出ていたと思います。 でも恋愛に夢中になっていると考えればおかしなことじゃありませんよ」


「ご、ごめんなさい!」


「気にしないでください」


 目が覚めてくれたのなら問題無しだ。

 ベンチから立ち上がり、俺は軽く伸びをする。背中から聞こえる骨の鳴る音にどこか心地良さを感じつつ、じゃあ帰るかと振り返った。


「もうじき夜です。 家に帰りませんか?」


「……うん、そうだね」


 俺と根岸は、それから無言で駅に向かった。

 電車のホームはそれぞれ別で、複数のエスカレーターの集まる場でそれじゃあと軽く別れの台詞を口にする。

 根岸の顔色は少々の時間が経過しても元には戻らなかった。

 余程変な思考をしていた自分に恐怖したのか、それとも申し訳無さが強いのか。どちらにせよそんな記憶は将来で笑い話になってくれる筈だ。

 そして、根岸のルックスや性格であれば将来で結婚をしていても不思議ではない。

 彼女は俺に別れの台詞を口にはしなかった。静かに自身の家の最寄り駅に通じるホームに向かい、俺も俺で自分の家に繋がる電車に乗り込む。


 これで女性との関係を終わりにしたのは二回目。

 少しは胸に何か残るかと思っていたのだが、やはり最初から特別な要素が無いと解っているお蔭で心に重いモノが圧し掛かることはなかった。

 精神は平常。憤りも悲しみも浮かんではこない。

 明日も学校だ。もうじき地獄の世界が始まるのに、俺の周りは日常アニメのように穏やかに過ぎ去っていく。

 予言なんて日常を楽しいモノにする為のスパイス。真に受けはしても自分には関係無いと気にせず、当事者以外は当たり前の明日が来ると思い込んでいた。

 

 確かに、中国で発生するダンジョンに日本は直接的な被害は受けない。

 受けるとすれば中国製の商品が値上がりするくらいだが、それで直ぐに日本人の皆が即死する訳ではないので俺も正直対岸の火事だ。

 日本が無事ならそれでいい。故に、具体的な解決法もアカウントには載せていなかった。

 電車内でSNSを確認すると、俺のアカウントに寄せられるダイレクトメールの数は最早数えるのも億劫になる程。

 通知音を切っているから周りに怪しまれることはないものの、今も来るメールの文面の殆どは中国語で書かれたものだ。一部を翻訳して確認したものの、その内容の殆どは例の出来事に対する解決方法だった。


 あちらの国からすれば正に国家を揺るがす大事件。

 予言はオカルトではあるも、俺のアカウントの発言だけは予言が予定になってしまっている。

 確定されたスケジュールが事件や災害の類のであればまだ対処は出来たものの、どのように事を収めれば良いのかが解らない災厄が起きると知れば絶望もしたくなるだろう。

 とはいえ中国の人間は他よりもしぶとい。偏見だとか差別だとかではなく、生きることに必死になれる国民性は今後の世界で確実に必要になってくる。

 実際、未来の映像でも中国の冒険者は成果よりも生存を第一にする印象が強い。

 高位になれば話は違うだろうが、それでも時には信頼していた味方をあっさり敵の餌にするくらいにはあの世界での適性は高かった。


 きっと此方でも彼等は破滅を迎えずになんだかんだと生き残るだろう。

 人類を支える人柱として頑張れと内心でエールを送り、SNSのアプリを閉じた。

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