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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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CASE3 品野・咲

 ――――高校二年になった実感を咲は感じていなかった。

 女性らしく成長した身体。難度の上がっていく学業。将来をより具体的に考えていくようになったクラスメイト。

 大多数が大学に進学する道を進み、咲自身も親との相談で大学進学を決めていた。

 希望した学校は彼女の今の学力で目指せる最高難易度。遊んでいる暇がまったく無いとは言わないまでも、勉学に意識を傾けていなければ受験は失敗するだろう。

 それは今の彼女にとって都合が良かった。余計なことを考えず、遊びを断る理由になり、ただ真っ直ぐに進むことを強制してくれている。

 心の内から責める自身の声も無視出来た。彼女を蝕む最も強大な敵から意識を逸らせる事実は、咲という人間に青春の味を感じさせていた。


「さっちゃん! 今日は遊べる?」


「うん、森さん」


 放課後となった時間に咲の背後で軽やかな声が掛けられた。

 振り返れば茶髪をおさげに二房下ろした少女が、実に柔らかな微笑で立っている。

 手には手提げ鞄が一つ。細腕で軽く持ち上げている様子から勉強道具の類は入っていないようで、復習をする気は皆無のようだ。

 小森(こもり)(もり)

 咲の同級生であり、同じ教室で一緒に勉学に励む友人だ。

 小柄で明るい雰囲気は快活に溢れ、他学年にも数多くの友人を作っている。彼氏も作りたいと常々語ってはいるものの、まだ好きになれそうな男子とは出会えていないそうだ。

 小森と咲の出会いに変哲な部分は無い。一年生の頃に咲の後ろの席に小森は座っていて、気軽な調子で昼食に誘ったことから始まった。

 

 咲にとって純粋に明るい小森のことは好いている。

 高校生になってから暗めの性格になってしまった自分を小森は簡単に遊びに連れていき、彼女経由で他の女子生徒と絡む回数も増えた。

 今正に咲が普通の高校生活を送れているのは友人が多い小森のお蔭であり、そのことに感謝も覚えている。

 二人は揃って学校の外に向かうが、周囲の男子生徒の視線はやはり多い。

 同級生以外にも上級生や下級生から注目を受け、彼女達の歩く道は自然と開かれていた。

 

「相変わらずだねぇ……」


「それはこっちもだよ」


 小森と咲は互いに半目を送る。

 同様に呆れを含んだ眼差しには常と変わらぬ日常に対する疲れも含んでいて、しかし止めてくれと言うのも難しいことは解っていた。

 二人の容姿はやはり周囲の視線を集める。一時は咲に彼氏の影があったことで告白の回数は減っていたが、それは違うと彼女が雑談の中で軽く放ったことで元に戻っていた。

 小森に関しては元々彼氏を希望しているので、告白されるのは必然。

 静かで清楚な美少女と、明るく元気な美少女の組み合わせは学校の華として正に十分。そんな女性と付き合うことが出来たのなら、例え別れることになっても自慢話の一つになるだろう。

 

「ほーんと、何処かに良い男は居ないもんかねぇ。 出来ればちゃんと本気で付き合ってくれる人が良いんだけど」


 本気で自分を大事にしてくれて、後はルックスや金に苦労しない人がほしい。

 小森の要求は世の女性全てが求める理想であるが、それに対して咲はツッコみなど言える筈もない。

 ただ無言を貫き、ちらりと様子を見た小森は何処か沈んだ雰囲気の彼女に不味いと手を振った。


「わ、わ、ごめんごめん。 デリカシー無かったね」


「え? ……ああ、良いよ。 逆にごめんね」


 咲には翔との一件がある。

 同じ学校に居る以上、迂闊に恋愛の話なんて出来る筈もない。それに、そもそも咲が恋や愛で真っ先に思い浮かぶ異性は一人だけだった。

 校門を出て、駅までの道を進む。慣れた道は多くの学生が通り、その為にコンビニや飲食店が多く建てられている。

 歩く二人は静かで、小森にとってはどこか気まずい。この程度で咲が怒るとまでは考えていないが、とはいえ小森としては静かな時間は少し苦手だ。

 元が騒がしいのを好む故に、彼女は何か話題はないかと自身の携帯を弄り――――不意に訪れた通知にちょうどいいと目を輝かせた。


「あ、さっちゃんさっちゃん!」


「んー?」


 急に声を大きくする小森に咲は顔を向ける。

 彼女の視線の先では小森が携帯の画面を見せるように向けていて、そこには一つのアカウントが表示されている。

 アカウント名は『拝啓、三年後の誰かへ』。

 アイコンは初期のモノが使われ、文面もプライベートな内容を綴っているというよりは事務的な知らせを伝えているかのようだ。

 時間、場所、出来事。この三つで構成された文は明らかに今の時間を語っておらず、常に未来に起こるであろう事柄を示していた。

 それを見て、咲はああと返す。

 

「さっき更新が入ったの。 今日は三件、くらいかな?」


「凄いよね、それ」


 件のアカウントは今正に世間を賑わせている存在だった。

 ただの一アカウントの戯言の枠を飛び越え、現代の常識を逸脱した未来情報を記す予言者。

 それ自体は眉唾物だと言われてしまいそうだが、しかしてこのアカウントが示した未来は基本的に外れることはない。

 外れたとして、それは事前に関係者がこのアカウントを見て準備したからだ。或いは犯人側が行動そのものを止めたことで外れたことになり、犯人自体は短い間に見つかることが多い。

 最初は動画サイトのオカルト系の中で有名だったが、少数の著名人が実際に事件や災害が起きたことを言及したことで知名度は大きくなった。

 更に実際に予言は起きるのかを試す配信者も現れ、特に事件に関係する部分では影に隠れながらそれが起きている光景を視聴者に見せた。

 

 咲とてそのアカウントは知っている。

 ニュースでも流れたものであり、友人同士の雑談の中でも話題はよく出ていた。

 信じている人間も数多い。ほぼ十割で的中させているのだから信じるのも無理はないが、アカウントを支持するコメントの中にはどこか宗教家めいた者達も居る。

 

「ウチの学校の近くでも最近予言があったみたいだよ。 警察が学校に頼んで待機所として使わせてもらって、強盗グループを一気に逮捕したって先生に聞いた」


「私の家の近くでも似たようなことをしてたみたい。 お父さん達はくだらないって顔をしてたけど」


「あー、まぁ、そうだよねぇ」


 アカウントの支持者は若者が多い。

 逆に三十代を過ぎた年代からは今もくだらないと思われ、あのアカウントを早々に消すべきだと有識者を名乗る別の予言者がテレビで語っていた。

 その気持ちは咲にも解らないことはない。咲も実際に信じているのかと言われれば微妙な反応になってしまうだろうし、それは隣の小森も一緒だろう。

 あれは一時的に盛り上がるだろうが、どうせ近い内に真相が明らかになる筈だ。

 現代には魔法は無いし、超能力も無い。不思議な力は確かに好奇心を擽るものの、そんなものが夢物語の範疇を超えないことを解っていた。


「――おろ、なんか画像が来た。 珍しい」


 新しい通知音に小森は携帯を戻して確認し、目を丸くした。

 その反応に咲も思わず気になって、一緒に彼女の携帯を覗き込む。

 普段は短く予言の内容を幾つか投稿するこのアカウントは、画像の類を投稿したことはない。コメントの返信も無く、ダイレクトメールを送っても返ってはこなかったとSNSでは言われていた。

 だからこそ、画像が投稿されることは珍しい。

 そこに一体何が映っているのかを確かめ、二人は揃って限界まで目を見開いた。

 画像にあるのは手紙だった。白紙にボールペンを走らせた手書きの文章は、今時珍しい程に手紙の印象を与える。

 文面は長い。普段の事務的なものと異なり、そこには人の感情が伺い知れた。

 

『この度は私の提供する情報をお使いいただき、誠にありがとうございます。 変化する未来は必ずしも幸福のみを齎すものではありませんが、しかし数多くの感謝のメールをいただいております。 お蔭で来る日を迎えるまで、私はこの役目を放棄することはないと確信を抱きました』


 予言者が人間であることは誰もが解っている。

 されどこうして感謝の言葉を述べる文は新鮮であり、多くの人々が安心を覚えることになった。

 少なくとも、この画像が最後の言葉になることはない。そう思えたが故に、来る日と呼ばれる時間が何時なのかを皆は気にした。


『そして、であればこそ。 私は皆様方にこの予言をお伝えしなければなりません。 これまでの出来事とは一線を画す、最悪な未来についてを』


 小さく息を呑む音を咲は聞いた。

 目は自然と左へと動き、予言の内容についてを頭に入れていく。

 今年の冬の〇月×日。日本から離れた中国にて、これまでの人類が遭遇したあらゆる災厄を超えた災厄が訪れる。

 街一つを飲み込む黒い穴。ブラックホールが如き穴は人の目では最奥を見ることは出来ず、飲み込まれた街に住む人は誰一人として生き残らなかった。

 それだけならばまだ良かっただろう。この穴の最も肝心な部分は、既存の人や動物と似ているようで異なる生物が外に排出されることである。


 怪物は無計画に中国の全土へと広がり、多くの人々を蹂躙した。

 多数の死者の血肉が大陸を赤く染め上げ、生き残った中国国民は他国へと避難することになる。

 それは空想の産物。それは夢想の怪異。それはゲームのモンスター。

 穴から出現するのは、我々が夢物語の中にしかいないとされる魔物達だった。

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