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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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11/12

高校生5 経験を求む

「おはようございます。 本日のニュースは此方になります」


 縦にずらりと情報が並ぶニュースが土曜の日のテレビの液晶に映る。

 朝九時のニュースの時間は常と変わらず始まり、普段は気にしない俺が三十分も前から始まる瞬間を緊張しながら待っていた。

 未来での俺は、基本的に呆けていることの方が多かった。

 テレビを常に点けっぱなしにしていて、ただ無言で何時までも液晶に映る情報を右から左に流していたのである。

 立ち直ったのは三年の終わりだ。それまでは引き摺っていたことを思うに、未来を知らない状態では抜け殻になるくらいには咲のことを好いたままだったのだろう。

 情けない姿だったが、そのお蔭で今の俺に情報が山程届いた。そして今、その未来情報の一部がニュースの形で出力されたのだ。

 

 ニュースキャスターの女性はすらすらと淀み無く集まった情報を語っていく。

 政府関係、経済関係、芸能人のやらかし――――そして事件。

 発生は昨日の二十二時。場所は千葉県のとある駅。一台の車が信号無視をして駅の入り口へと突撃し、拉げた車体から這い出た男は頭から血を流した状態でポケットに入れていた折り畳みナイフで一般人を突如として襲い始めた。

 直ぐに警察が出動することで死者は生まれなかったが、負傷者の数は重軽傷合わせて七人。

 逮捕された男は多額の借金を抱え、どうやっても返済する目途が無いことから自暴自棄な行動に出た。

 恐らくは一般人達の幸せそうな表情に我慢出来なかったのだろう。自分はこんなにも不幸なのに、連中が幸福なのは許せないと暴れた可能性がある。

 

 兎も角、事件は未来で出て来た情報通りに発生した。

 これはまだ始まりに過ぎないが、少なくともファーストステップは成功だ。

 安堵の息が出るのを避けられない。ふぅとリビングのテーブルに置きっぱなしにしていたペットボトルに口を付けて一気に飲む。

 母親も父親も今は家に居ない。仕事と買い物に出ているからこそニュースに一喜一憂する様を見られずに済み、携帯で例のSNSを開いても大丈夫だ。

 件のアカウントには、普段とは違うコメントが来ていた。

 純粋に当たったことに驚く文字。どうして当てることが出来たのかの疑問の文字。そしてこれは偶然だと否定してくる文字。

 一種類が三種類になったことは俺にとって確かな前進だった。これから更に未来は現実となって表に出るだろうことを思うと、自然と表情も緩んだ。


 そしてその日から、俺の日常には表には見えない変化が起こっていった。

 学業を熟しながらネットニュースに目を走らせ、予定されていた未来の出来事が確りと記事となって世に出る度に俺のアカウントに何らかのコメントが送られる。

 的中率は今のところ十割。災害系は特に無かったことにすることが難しいため、必然的に的中が発生する。

 芸能系は本人やその周囲が見ていれば回避されるものの、今のところはまだ認知度の所為で問題は散見されなかった。

 この予言で一番外れる可能性があるのは、やはり事件や事故。アカウントを見ることでもしも自分のことだと思ってしまえば、対策されて外れたことになってしまう。

 その後に被害者本人から予言は真実だったと言われれば問題にはならないが、そんな面倒な真似をするとは考え難い。

 

 何れは個々人の被害については言及しない形にしていき、命中精度を八割で維持していきたいものである。それが難しいのは勿論であるが。

 動画投稿サイトを見てみるも、まだ始まったばかり故に一つもヒットしない。あくまでも認知度はSNSの中だけに留まり、そこから出て行くには大きな事件や災害を的中させねばならないだろう。

 しかし、正直そちらについては時間の問題だ。何れ中国で先にダンジョンが発生するのだから、事前に投稿しておけば流石にもうこのアカウントは騒がれる。

 何せ文字通りの滅亡の危機だ。解決手段を見つけるまでには虐殺が繰り返され、使える情報を探る過程で此方を捕捉する。

 その後の反応次第にはなるが、俺は彼等に解決方法を伝える気はない。対岸の火事に目を向けていられる余裕は此方にはないのだ。


「問題無く世の中は動いてる。 なら後は――」


 己を磨くのみ。

 携帯を手に、俺は一人外出の準備を整える。

 母親にはチャットアプリで出掛ける旨を伝え、夕飯までには帰ると締め括って玄関の扉を開けた。

 外は曇っている。普段よりも暗い外を駅へと歩き、携帯のメモアプリを起動しては指を動かす。

 普段使っている未来が書かれている欄とは別の欄。

 誰にも見せないように別けたメモには、家周辺や学校周辺で起きる騒動についてが細かく記載されている。

 内容は単純な露出狂から殺人犯と数多い。この地帯や学校の周りが特別治安が悪い訳ではないものの、それでも起きてほしくない不幸は起こっている。

 

 未来の情報はニュースや情報誌だけで集めていた訳ではない。

 学校であれば教師の注意喚起、家であれば近所の噂話。使える情報が何処に転がっているかも解らぬ現状、手当たり次第にメモには事件の内容を記してある。

 これを投稿しなかったのは、単純に自己研鑽の為だ。

 俺は未来の映像からモンスターとの戦いを見てはいる。だが実際の命のやり取りを経験することは出来ておらず、何もせずにその日を迎えた結果としてモンスターに恐怖しては計画が泡と消える。

 俺は確りと戦うことを意識しなければならなかった。その日を迎えた瞬間に身体が動き出せるように。

 

 目的地は学校近くのコンビニ。

 今日この日、約一時間後に一人の客が強盗を働くらしい。

 格好は解らない。刃物を振るって店員を脅し、金を奪ってどうやってか逃げるようだ。

 結局は逃げた瞬間に巡回中の警察に捕まってしまったそうだが、その前に相手を捕まえることが出来れば万々歳である。

 身体を鍛え始めてから実戦を考えないことはなかった。

 今回は武器を持っていくことが出来ないので素手での戦闘になるも、そちらも未来の映像である程度は形になっている。

 経験以外で不足があるとすれば、やはりまだ硬さの無い肉体。未来では戦闘の必要があった為に強靭な身体が自然と出来上がっていったが、単純なトレーニングしかしていない今の俺の身体は心許無い。

 

 土曜の休日は学生だろう人々が私服姿で歩いている。

 昼の時間であるからか休憩中と思わしきスーツ姿の人間も複数見え、彼等はこれからこの近くで事件が起きることなどまったくと知らないままだ。

 手汗が広がる感覚を覚えた。吐く息を酷く意識してしまい、歩き出す自分が誰かに見られているような錯覚を抱く。

 コンビニは学校から一分程度の距離にある。件の事件が休みの日に起きたからこそ学校ではそれほど騒がれてはいなかったみたいだが、平日の昼に起きれば大事件になっていた可能性も高い。

 そもそも起きていなかったのであれば学校で騒がれることもないよなと内心で呟きつつ、見えてきたコンビニの中に極自然に入り込んだ。


 客の数は少ない。元々は学生向けのコンビニなので弁当よりも軽食が目立ち、特にホットスナックの類は山のように積まれている。

 店員は表に出ている限りでは三人。揃って女性ばかりではあるものの、それ自体は不思議ではなかった。

 漫画雑誌のコーナーで立ち読みをしながら携帯で時間を確認。

 事件が起きるまでは後五分程度。これが初犯であれば緊張でもって暫く店内を彷徨っている筈だ。

 さっと視線を巡らせると――――一人の男性が目に入る。

 白のタンクトップシャツに濃紺のズボン。肩にショルダーバッグをぶら下げ、顔の下半分は黒のマスクで覆われている。。

 鷹のように目は鋭い。両手をポケットに突っ込んで商品を眺めている様子は、普通に商品を探している客にも見えた。


 この男が果たしてそうなのだろうか。他の客も盗み見してみるが、強盗をするにはあまりに容姿が丸見えな者達ばかりだ。

 事態が進むのを待つしかない。最悪は噂話だけで何も起きなかったことになるが、それならそれで別の場所を狙うだけだ。

 近隣の事件はまだ幾つかある。それが良いか悪いかは兎も角、金を掛けずに経験を積める場があるのは俺にとって有難いことだ。

 結局、マスク男は何も商品を選ばずにレジへと向かった。

 まだタバコやネット商品の受け取りの線があるも、携帯を取り出すこともタバコに目を向けてすらいない。

 相手の視線は、三人の店員の中で一番若い女性で固定されていた。

 

 十代に見える若々しい姿を見るに、学生バイトだろうか。

 客が近付く様子に営業スマイルを向けている。そんなことなど無視して――――男は徐に両手をポケットから抜いた。

 その手には折り畳みナイフ。腕の勢いで一気にナイフを展開した男は、店員の目と鼻の先に凶器を突き付けた。


「金を出せ!!」


 男の大声に場の雰囲気は急速に変化していく。女性店員の顔色が一気に青くなっていくのを目で捉えつつ、俺の足は反射的に行動を起こしていた。

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