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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者47 何を失うか

 一週間。


 この時間で出来ることは少ない。当日までダンジョンに潜れない以上、他の手段で戦力の強化はしなければならなかった。


 その手っ取り早い方法は薬と武器だ。


 既に生産職は少ないながらも生まれ始めている。彼らは最近になって自衛隊の中から出現した冒険者であり、薬師を始めとして武器や防具の研究も別の場所で行われていた。


 今回、老人に頼んで武器の発注を俺はした。防具は未だ必要素材の入手量が少ないらしく、一週間で用意をするのは不可能だったので頼んでいない。


 通常の荷物に偽装して運ばれてきた武器は、俺用の試作ナイフだ。


 武器職人と呼ばれる生産職は、出来上がった武器の完成度で特別なボーナスポイントを獲得することが出来る。


 これは元々の武器の基礎値に上乗せ可能なポイントであり、これを使用してダンジョンで獲得する武器よりもより能力の高い武器を作り上げることが出来るのだ。


 ただし、これで追加能力を得ることは出来ない。それが出来るのはまた別の職であり、魔法的な職の持ち主でないと属性の追加付与は不可能だ。


 俺が求めたのは頑丈性だ。拘った武器を作るには素材が足りず、無理に作ろうとしても中途半端な性能の武器しか手に入れられないと考えての判断である。


 金属の刃はその辺で売っているナイフと変わらず、その価値を一般の人間は分からない。


 だが知っている人間であれば十万でも金を払う武器だ。製造は完全に政府が秘匿していて、俺もどこで彼らが武器を作っているのかは知らない。


 これを五本頼み、鞘も黒くて無骨な物に仕上がっていた。代金は老人側から拒否され、代わりに使用感を教えてくれと頼まれている。


 タダなのは有難いが、このナイフ自体は将来誰にも見向きもされなくなるだろう。


 今だから高額になっているだけで、未来じゃ千円でも誰も買いはしない。質としてはせいぜい、低級の回復薬と一緒くらいだろうか。


 とにかく、武器が準備出来たのであれば次は回復薬だ。俺が作った粗悪品ではなく、薬師が作るような質の高い薬が欲しい。


 これは桜に頼むことで解決された。サンライフは既に老人との取引を経て、正式に回復薬を生産する許諾を得ている。


 その生産量は多くはなく、まだ一般の間で出回るほどには作れていない。作られた薬は全て政府が買い取って自衛隊やギルドで使われるそうで、その一部を俺に売ってもらった形だ。


 流石にこっちは商売人。いかに関係値があったとしても、無償で薬をくれる訳がない。


 実証実験はもう終わっている。政府が買い取ってくれるから一般に出回らないだけで、さらに量を用意することが出来れば病院に販売するはずだ。


 俺がこの薬でこれ以上の何かを差し出すなら、それは桜の足問題を解決する方法くらい。それをする気が今はまだない以上、例え向こうに落ち度があったとしても引く気にはならない。


 桜としてはタダでも良いと思っていたが、対価が存在しない限りは俺も無償は回避することにしていた。


 幸い、老人や政府から貰っている金のお蔭で回復薬の代金は払える。無理せずに欲しい物が手に入るのは、この生活をしていて数少ない良い事の一つだった。


 ちなみに、購入の約束をしてから桜に理由については問われている。だが内容がはっきりせず、しかも外部に漏らすのもどうかといった部分が多いので伝えてはいない。


 彼女は集合場所の駅前喫茶店で頬を膨らませていたが、言えないものは言えないのである。


「さて、行くか」


 愛用のリュックではなく、分厚い生地の灰色リュックを背負う。


 中にはいつものセットに回復薬が五本入っている。衝撃で割れないために容器はプラスチック製で、試験管の形でリュック内のポケットに放り込んでいた。


 試作ナイフもこの中に入れてある。警察に職質されたらかなり怪しまれるが、見掛けは普段のベージュのジャケットに黒のズボン姿であるのでよっぽど変な真似をしなければ大丈夫だ。


 サングラスとマスクも準備して、目的の地であるダンジョンの最寄り駅に移動する。


 家族にはギルドで泊まり掛けの説明と現場講習と嘘を吐いておいた。これで怪我でもしたら大騒ぎになるだろうが、余計な心配をさせたまま出るのは悪い気がして黙っている。


 目的地の近くでサングラスとマスクを付け、ダンジョン目指して真っ直ぐ進む。時刻は午後の四時であり、次の日が会談の指定日だ。


 もっと詳細な時間を教えてくれればギリギリを狙ったが、こればっかりは文句を言っても向こうは対応してくれないだろう。


 最寄り駅を出ると、街の雰囲気は一気に静かになった。


 やはり近くでダンジョンが発生した影響は強いらしく、姿を消した住人も数多い。倒産したり場所を移した会社もきっとあるだろう。


 今も人自体は居る。スーパーもコンビニもあるが、それはあるだけだ。経営が出来ているのはこの場に長く留まってくれている自衛隊員や警察官が物を買ってくれているからこそで、自前で何とかすると言われてしまったら間違いなく閉店していた。


 少なくなった人通りの中を進み、老人が教えてくれた封鎖されている壁の唯一の入り口に向かう。


 金網で囲われていない空間は広かった。車両が通れる道の右側にプレハブ小屋が立ち、そこが守衛用の建物になっているのだろう。


 建物に向かっていくと窓口にいた自衛隊員が鋭い目で此方を睨む。


 ダンジョンへの接近は今でも禁止だ。不用意に近付いた場合、その人物は捕縛されて罰金を支払うか、警察によって牢の中に叩き込まれるらしい。


 そういえば何人かの配信者が近付いて捕まったニュースがあったなと思い出して、窓口の傍でギルドの室内を自由に移動出来るカードを取り出した。


「高次警視監殿に頼まれて参りました。 此方のカードで確認をお願いします」


「――――! し、失礼しました。 確認をさせていただきます」


 カードには別段、何か記載がある訳ではない。


 ただ純粋に真っ白いだけだ。本来はここに所属だとか名前だとか、後は顔写真を載せる。しかし隊員は、急に背筋を正してカードを慎重に受け取った。


 そのまま小屋に戻り、僅か数分。カードが無事に返却された頃に一台のジープが近付き、中から私服姿の榊原と山田が姿を現した。


「お待ちしていました! 此方でダンジョンの傍まで行きましょう!!」


「解りました! ……もう通っても?」


「っは、大丈夫であります!!」


 隊員の突然の対応の変化に内心戸惑いつつ、ジープの後部座席に乗り込む。


 二人以外には他に乗っている人間は居ないようで、前に山田と榊原が座っているだけのジープは緩やかに目的地へと目指し始めた。


「出迎えありがとうございます。 ……どこまで話は聞いていますか?」


「高次警視監からおおよそは聞いております。 にわかには信じ難い話ですが、予言者殿からの情報提供であれば無視は出来ません」


「私達は数日前から待機として此処に居ました。 当日は自衛隊は引き、冒険者のみで会談に向かう予定です」


「成程、解りました」


 あの老人が予定を組んでくれたのであれば、もう俺が何かする必要もないのだろう。


 自衛隊を引かせたのは明確にギルドが対処したことを示すためなのだろうが、恐らくはそれに加えてギルド内のみで情報を独占したいからだろう。


 今回は未来の情報は当てにならない。全てが予想外になるのは誰しも想像しているはず。


 最悪のもしもも想定しなければならない。この始まったばかりの環境では、榊原たちのみで見極めて動くことは不可能なのだから。


 胃に重いものを感じた。肩にも嫌な重圧を乗せられ、溜息代わりに長く息を吐く。


「明日は長くなるかもしれません」


 俺の言葉に、二人は黙り込んでいた。

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