冒険者44 予想外の収穫
「……」
唖然と驚愕。
それが俺が今晒している表情だろう。誰も入らないようにしていたお蔭で見られることはないが、しかし驚いて当然の映像が画面には映っていた。
足を引き摺って部屋を退出する咲の姿を見る。ここまで参加してくれた受験者とはまったく異なる実力を示してくれた彼女は非常に頼もしく、されど俺の知る未来の咲とは変化していた。
彼女の本来の職業は僧侶だったはず。しかし現状は肉弾戦に明確な才を感じさせ、このまま試験が続いて採用されれば戦士のような近接職を取るかもしれない。
何が彼女を変えたのかは、傍に居なかった所為で俺には分からない。だが何かが彼女の未来に影響を及ぼし、性質を捻じ曲げてしまったのは事実だ。
その原因を明らかにしない限り、俺の知る姿とは異なる人間が幾人も出て来ることになる。
予言者としての立場に居る身として、それは真実――――危惧に通じる。
未来を当てることは簡単ではない。その行為を簡単なものに落とし込めているから、俺は尊敬されるし信頼もされている。
この前提が崩れた時、果たして俺は皆にどういう目で見られるのか。それは未来を見ずとも簡単に分かる話だ。
「……はぁ。 こればっかりは今と未来での差異で片付けるしかないか」
まだ俺は咲の未来の職を断定していない。
ならばそれは伏せておき、聞かれたタイミングで答えれば良いだろう。今はとにかく、このテストを全てつつがなく終わらせることに集中すべきだ。
咲の件を脇に置き、その後の俺は変わらずモニターを注視し続けた。
有名になる予定の冒険者の姿が現れた際には携帯のメモに纏め、逆に将来有名な犯罪者になる人間は別のメモに記録しておく。
犯罪者になる人間をギルドに入れる気はない。例え筆記と実技で好感触だったとしても、俺は俺の責任によって彼らを排除する。
犯罪を犯す冒険者は生み出してはならない。まだ具体的な捕獲手段も講じられていない以上、それが確定するまでは危険な橋は渡れなかった。
記録を取っていると、見知った男が入ってくる。
我妻の表情はやはり真剣で、ますます未来の姿に近付いていた。
武器は長剣。姿勢は剣道を主軸にしているらしく、構えは綺麗に揃っている。迷いの無い仕草には経験が伺わせ、時間の経過に胸を高鳴らせる。
試験開始と同時に我妻は前に出た。相手からの攻撃が無いと分かっているからこその真っ直ぐな攻撃だが、山田はそれを身体を逸らして回避する。
続けて二撃三撃と剣が振るわれるも、山田はその全てをあっさり躱し切った。
これは我妻自身の実戦不足が影響しているだろう。試合と殺し合いでは戦いに対する熱意が違う。
前者は純粋なスポーツマンシップに則った熱意があるが、殺し合いには綺麗な熱は殆どない。誰かの命を奪う意味を理解しながら武器を振るう以上、肩に乗る重圧は試合程度の比ではないのだ。
必然、技量にも差は出る。
我妻の真っ直ぐな姿勢は試合をする上で好感を得られるが、殺し合いでは綺麗過ぎて直ぐに対策されてしまう。
現に山田は一発目から回避を選択していた。その後の攻撃も受けるのではなく、避け切って次の一手が出て来るのを今か今かと待ち受けている。
当然、俺も気持ちは一緒だ。我妻は未来で勇者になれた逸材であり、その素質自体は今の我妻だって持っているはず。
条件を既に達成しているかは定かではないものの、未来でなれたのなら可能性は零ではない。
だから見せてほしいと思いつつ見守り――――我妻は最後まで何も見せてはくれなかった。
「こっちもこっちか」
我妻にも何か変化が起きている。
今の彼にあったのは勢いだけだ。練度の差を考慮したとしても、今の我妻の技量は拙い。
俺だって人のことは言えないが、だとしても別方向で戦おうともしないのは流石に思考が固まり過ぎている。
演技をしたのか?
けど、こんな場で拙い振舞いをしてメリットがあるとも思えない。或いは、あの厳しい未来があって初めて我妻は覚醒したのかもしれない。
答えは不明であるも、取り敢えず採用リストには入れておく。他に良いので埋まらない限りは面接の後に採用となるが、この第一回の試験ではかなり良い人間が揃っている。
例えば、将来は日本の一軍の内に入る企業所属だった槍使いの女。武器に氷と水の属性が付与されていて、この二つを駆使して先陣を進む役目を担っていた。
例えば、将来は自分で会社を立ち上げた魔法使いの男。属性は炎特化であり、彼を中心として社員の全員が冒険者になっていた。俺が憶えている限り、会社の業務内容は冒険者限定の派遣業だ。
他にも召喚士という珍しい職を取得する女性も居たな。これは特殊職ではなく、取得方法は多数の動物に懐かれることである。
過去を知らないのでどのように条件を達成したのかは分からないが、動物に触れ合える時間を長く持っていなければこの職は手に入らない。
後、この職の難しい部分は召喚対象の確保だ。召喚可能なモンスターは全て自分の手で倒したものでなくてはならず、更にレベルも自分より下でなければならない。
格上を手に入れるのは不可能。しかし、数が増えれば複数の職を兼任することが出来る。
この利便性が買われて彼女は様々なダンジョンで功績を残した。この人物を手放すのはギルドにとって損失に繋がるだろう。
我妻と咲の予想外の結果もそうだが、今回の参加してくれた人間の質も予想外に良い。
彼らを早期に未来の状態に近付けられれば、日本どころか世界中のダンジョンを次々に攻略してしまえるだろう。
必然的に国の保有戦力の上がり幅がとんでもなくなるが、ダンジョンを思えば他国は何も言えない。一番喚く中国も現在は沈黙状態。アメリカには来年で恩を売れるだろう。
被害を最小に抑え込めれば、内心は兎も角日本に感謝してくれる。それがギルドの名声になれば、もう世界に誇れる組織と呼べるのではないだろうか。
勿論、全員を合格させるのは難しい。枠が決まっているのもそうだが、質の良い人間ばかりを取っていると何処かで冒険者は怪しむ。
調べられて俺が強く関与していると判明すれば、このテストを茶番だと批判するだろう。
だから普通の人も取る必要がある。けれど、この普通と呼ばれる人間の方が職務を回す上では絶対に欠かせられない。
冒険者は我が強い。強さを手に入れる程、どうにも全能感に酔ってしまう。
それが不祥事に繋がるし、最悪は犯罪に走って処罰される。稀に逃げ切る人間も居るには居るが、その生活がかつての状態より良いはずもない。
つまり、普通の仕事を回すのに苦痛を感じてしまうのが高位の冒険者だ。社会の歯車には不適格であり、ゆえに冒険者は冒険者を続けるのが未来の常識でもある。
常人には常人の、超人には超人の。それぞれ活躍する場が存在する。これを支配ではなく共存で回していかなければならないのが、今後のギルドの義務でもある。
大変な業務だ。ただ、人によってはやり甲斐を感じるだろう。俺は早くゆっくりしたいのが本音である。
「この人、この人、この人……あー、この人は無し」
携帯片手に作業に没頭して、実技試験が終わる頃には窓の外は暗くなり始めていた。
これから面接を受けて、彼らはそれぞれの家に帰っていくことになる。俺も一応は受験者なので帰ることになるが、ギルドの職員は深夜まで残業確定だ。
職員達には同情する。けど老人には同情はしない。精々この後の取引や交渉で苦労するがいい。
小さく笑って、実技と面接の間の休憩時間で目を閉じる。ソファで横になり、携帯に目覚ましをセットして仮眠に入ったのだった。




