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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者43 全ての掌の上

「時間通りだな」


「ああ。 何か問題は?」


「外が騒がしい以外に別段問題は無いとも。 まぁ、強いて言えば君と関係のある人間が受けに来たくらいなものだ」


「俺と関係?」


 最上階の執務室はこの施設の力強さを示すように広い。


 置かれた調度品は最低限だが、仕事を重視する老人らしく遊びは一切含まれていなかった。


 それが人によっては真面目過ぎると思われるかもしれないが、俺にとっては好ましい。


 が、老人の発言で俺の中での意識が切り替わった。


 俺の知る人間で冒険者になるとすれば、思い付くのは咲と我妻だ。両名が冒険者になるために環境が逼迫しているとは思えない。


 あの二人のどちらが冒険者になるかと言われれば我妻ではある。しかし、彼が態々その道を選ぶかと問われると即座に勿論とは返せない。


 よく分からないが、受けに来たのであれば追い返す道理は無い。そもそも彼等は冒険者か事務員になるのを目指して来ている訳で、俺が居るとは夢にも思っていないだろう。


「我妻さん、品野さん……後は根岸さんだ」


「根岸?」


 予想外の苗字に疑問符が出る。


 根岸が冒険者になる未来は見ていない。一体どんな理由で彼女は此処に来たのだろうか。


「どうやら家がダンジョンの影響で困窮しているみたいでね。 金銭を目的として受けに来たのだろう」


「困窮……」


「ああ、根岸さんの父親の会社が倒産したそうだ。 父親本人は仕事を探しているみたいだがまだ見つかっていないようでね。 このまま貯金も尽きてしまうからと大学も中退してしまったようだ」


「な、るほど……」


 ダンジョンで生活が苦しくなる人間は居る。


 そんなことは分かっていた。分かっていて、でも知り合いがそうなっている現状に言葉が詰まった。


 老人が真っ直ぐに俺を見る。此方を試すような視線に、俺も心を落ち着かせた。


 借りを作る訳にはいかない。弱味を作ってもいけない。この世界で生きていくには、可能な限りどこにも恩を売らずに一人で立っていかねばならない。


 根岸には悪いが、助けの手を伸ばすことは出来ない。――――いや、これは俺が彼女を馬鹿にしているな。


 自分が凡人であることを忘れるな。変な立場に居るが、俺は本来人の未来を左右する程の男じゃない。


 強くなる気はあっても、結局才能によって他者に抜かれていくだろう。どんなに足掻いても中堅どころで止まってしまう可能性が高く、故にこんな思考は無駄でしかない。


「問題はない。 彼女なら自力で合格する。 もしも落ちたところで別の仕事で生活していくだろうさ。 俺やあんたが関与する必要もない」


「――そうか。 それは良かった」


 ふっと口を綻ばせる老人を無視して、俺はこの後の予定を確認した。


 この建物の一室に急遽モニタールームを作り、そこで俺は今日一日を過ごす。試験開始は午前十一時であり、先ず最初に始まるのは筆記だ。


 筆記を見ることも可能だが、俺はそちらを見る気はない。榊原には面接だけと言ってはいたものの、本当は実技も見るつもりだ。


 如何に未来で活躍するとしても、世の中には有名になれなかった強者も居る。


 様々な環境の中で己を高めていっただけで、姿を見られなかったら話題に挙がりもしない。特に大量に冒険者が居る未来では自己アピールは大事であり、黙々と金を稼ぐことに集中していた人間は高レベルでもまったく話に出てこない。


 一応、未来の俺は底辺側だ。下に居たからこそ、少しでも強い人間を現場で見る機会はあった。特に金を稼ぐために何回もダンジョンに潜り込んでいたお蔭で知っている顔自体は多い。


 それでも数回未来を見ただけでは覚え切れないので、仕事を辞めて準備している間も何回も未来を確認した。


 変わらぬ映像を何回も繰り返して頭に叩き込んでいるが、はっきり言って全員を覚えるなんて出来ない。


 十人二十人なら兎も角、未来の中では何百人の冒険者と俺は会話をしている。その全部を把握するには、最早別に記録を取らねばならないだろう。


 そんな真似が出来ないのは分かっているので、頼れるのは自分の脳味噌だけ。そして俺は自分の脳味噌のスペックが高いと思っていない。


 故に、取り零しは絶対に出る。全部は無理だろうなと決め、それでも拾える分は拾っていこうと老人と別れた。


 建物の中を進んでモニター室の前に着くと、扉には一人の人間が居る。


 スーツ姿の男性は眼鏡を掛けて髪をオールバックに整えており、物騒な顔と合わせてインテリヤクザを彷彿とさせる。


 彼は俺を視認するとにこりと笑みを形作るも、およそ好意的とは思えなかった。


「どうも初めまして。 高次サンからの命令で此方に派遣されました。 笹森って言います」


「高次……ああ、爺さんの部下か」


 老人――高次の部下。


 彼は高次の命令でモニターを見ている俺の世話を担当するようで、食事や飲み物の用意やこの施設内の人間への連絡も行ってもらえる。


 俺の正体も既に把握しているらしく、説明を終えた直後に手を合わせて演技っぽい祈りを捧げていた。


 一体何をしているんだと呆れるが、まぁ俺があちこち動き回って変な事になってしまっては堪らない。


 早速室内に入ってみると、スチール製の長机に三台のモニターが並んでいる。椅子の代わりに黒のソファが置かれ、明らかに複数人が座るのを想定していた。


「なんでソファ?」


「見るだけなのも退屈でしょうし、女の職員を呼んで遊べるようにもしておきました。 ちなみにこの施設で働いている女性の一覧はこちらです」


 自分の携帯を弄って顔付きの女性一覧表を見せてくるが、いらんとだけ言って断った。


 反論の余地も無くセクハラだしパワハラだ。女性とあんなことやこんなことをする気なんてとてもではないが湧いてこない。


「人に会わないためにとお前が居るのに、人を呼んだら元も子もないだろ」


「大丈夫ですよ。 遊んだら秘密保持契約を結びますんで」


「そういう話じゃない。 第一、こんな真似をされて女性側が黙っていると思うか?」


「金さえ貰えりゃ意外と黙ってる女は多いですよ。 ……それに、予言者サンのファンってのは存外多いもんです」


「くだらないな。 お前は入り口で待機していてくれ。 用があれば呼ぶ」


「はいはい。 ノリ悪いですねー」


「ぶっ飛ばすぞ」


 笹森の態度に適当な雰囲気を感じ取れるが、今回限りの付き合いだろうし我慢だ。


 後で老人に文句を言ってやると誓いつつ、嫌になる程座り心地の良いソファに座ってモニターの電源を付けた。


 画面には監視カメラからの映像が九分割されて送られてきている。


 モニター下には三本のリモコンが用意され、一から九のボタンを押すと分割されている内の一つが拡大された。


 分かり易い機能だ。お蔭で態々笹森を呼んで説明を頼むこともない。


 老人や笹森と話している間に正門は開かれたのだろう。建物の内部で受付を終えた人間が続々と筆記試験の会場に入り込み、直ぐに一室が満杯になった。


 今回は政府側からの大々的な援助を受けたお蔭で、受ける人間の数を把握してから会場を用意している。


 事前予測を必要としなかったお蔭で不必要な会場を借りる予算を削減し、実際に借りた他の会場はたった一つだけだ。


 この建物には約七割の人間が入り、残り三割が別会場で試験を受けている。


 そちらは俺が見れないので、もしも実力者が居たとしても見つけることは出来ないだろう。そっちの分の映像も回ってくれば見ることは出来るものの、流石に数が多くなり過ぎる。


 ただでさえ一人が見るには過剰な状況だ。増やしたところで取り零しが多くなるだけだ。


「さぁて、気合の入れどころだな。 じゃんじゃん良い人材を見つけるぞ」


 午前十一時。試験が始まった。

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