表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

学校に勇者がやって来た。そして別のが我が家に。



 どうも、実況のモブです。

 俺の隣の席には勇者が座ってます。


 訳あって見学、という担任の説明でクラスメイトは深掘りせず受け入れた。 

 女子は色めき立ったね。



 今回の勇者はご機嫌だった。

「王子様のパーティーに入れてもらえたんだ!」

 登校前夜に泊まりに来て開口一番、喜びを表す姿に悪態をつき損ねる。

 おまえ利用されてねえ? だいたい入れてもらったじゃない、入ってやったぞ三下ヤローが! だからな。


「う、うん? でも親切だし楽しいよ? 闘うのは楽になった。聖女様がいるから。聖剣もくれたし」

 せっかく嬉しそうなのに水差しちまった、いかんいかん。

「おまえが気にしないならいい」

 どこまで人がいいんだか。王子には釘差しときてーなあ。

「明日は楽しみだ」

 更にハイにさせてるのは希望してた高校見学だ。いい思い出になれば良いな。



 そんで俺は勇者舐めてましたその2。祭りで思い知ったよね? チートだと。いやスゲーわ。だって片言で会話してんだよ?

 勇者いわく「二人だと通じてしまうから、今まで学べなかった」と。

 近所のおばちゃんや買い物で道行く人、そしてテレビからちょっとずつ覚えたと言う。

 走らせればスニーカーで陸上部をあっさり超え。体育で俺の選択の剣道をやらせたら当然のごとく無敵状態。手加減が難しいようだ。顧問から入部を懇願されてた。

 スポーツは覚えれば何でもできた。やばいな、俺のモブ化がとどまることを知らない。



 同年代に囲まれた勇者は、イケメンだがごく普通に見えた。世界さえ違えば輝かしい未来があるんだ。

 ささっと魔王倒してもらい転移さすぞ!


 俺のルーティンに則り二時間目の休みに学食のタンメンを二人でかきこむ。午前のおやつ。体育会系部活組は弁当二つがマストだし。

 昼休みまで緩いまどろみが続いたが、寝そうになると勇者に突かれる。真面目か。



 昼は昨日買った弁当を屋上で広げた。和牛尽くし華御膳(特上)だ。話したい奴らが学食で待ち構えてるだろうが華麗にスルー。


「うっま。さすが高級デパ地下弁当」

「うん。けどやっぱりいつものご飯が美味しいよ」

 言動イケメンかよ。さすゆう。



*****************

 


 高校はすごくすごく楽しかった。僕が何かをすればみんな笑顔で褒めてくれた。いろんなスポーツを試したら、その部活? をしてる生徒や先生が勧誘してくる。『母さん』は笑ってそんな僕を見ていてくれた。ちょっと自慢げ? なら良いな。

 ……名前が呼べない。音は解るし言えるはずなんだけど、言葉にならない。

 何かしらの制限がかかっている感じだ。他のみんなみたいに呼びたいなあ。○○○って。

 僕の世界とは何もかも違う。魔物はいないしスラム街はない。

 誰も僕を虐めたり仲間外れにもしない、夢のような場所だった。

 ……絶対に来よう。そして彼の名前を呼ぶんだ。

 ───もし、もしも僕が魔王討伐に失敗しても、この日を忘れない。いや、今日だけじゃなく、彼と出会えてからの全てを僕は忘れないだろう。



*****************



 人疲れせんかと心配したが勇者は元気だ。前夜、感染症の心配をする俺に勇者が説明した。病気にかからない健康スキルがあるんだと。確かに勇者が病死とかシャレになんないもんね。

 ほんとに勇者ったらすごないか?話すごとにヒアリングもスピーキングもめきめき上達しとるし。

 え、ウチの勇者()最高では?


「高杉、絶対に転入させてね!!」

「あっハイ、まあ頑張ります」

 女子に詰め寄られるのはもっと別件が望ましいです。

「慎吾! うちの部を勧めてくれ」

「ばーか、ウチに決まってるだろ!」

「ざけんなよ、あの跳躍力見たろ」

「あのー、ヤツの好きにさせるんで落ち着け皆の衆」

 騒ぎをよそに机に向かう勇者。覗いてみれば何故かお絵かきをしていた。

 ニッコニコで見せてきた二体のクリーチャーの絵。自分と俺を交互に指すのから察して、俺と勇者らしかった。

 え、あんな万能勇者が絵は下手?

 なにそのギャップ萌え。

 こんな所まで含めて最の高では??


「絵は下手なんだけどね」

「手先は器用なのにな。でもこれ気に入ったわ」

 勇者衣装を縫ってる時に途中交替したの。俺の手つきが怖いんだって。倍の速さと倍の出来映えでした。

 恥ずかしそうな勇者に身悶える女の子たち。

「器用さと絵の上手下手はあまり関係ないよ。私すっごい不器用だし」と、アニメ絵を描かせれば売れるレベルの黒野さん。

 そんなもんかね。一流スケート選手が言ってたな、スケートと運動神経は関係ない、自分は運動神経ないと。

 どう考えても違うと思うが。



 和やかすぎて俺は忘れていた。有名な漫画も言うように、世界は残酷だということを。



 帰宅早々に勇者は戻ると言う。

「神殿に行かなきゃだから、後で神の実を持ってくるよ。ちょっと苦労するけど仲間がいれば楽に取れるんだ」

「無理しないで明日でいーぞ」

「……明日はね、いよいよ魔王城なんだ」



「大丈夫、僕は負けない」

 覚悟はしてたが心臓がひゅっとなる。俺の動揺をよそに力強く頼もしく勇者は宣言した。

「美味しい食べ物たくさんもらったおかげで、みんな万全なんだ。待っててね。明日の前に気合入れてもらいたいから。すごく美味しいんだよ、その果物」

 笑顔の勇者を送り出した後は特別やることもない。あの食糧、王子も食ってんのか……複雑。

 こっそりとバラエティとアニメの録画予約してあったので、連続予約に変える。しかし順応早い。


 裏口に気配がしたので、忘れ物かとそちらに向かった。

「なんだ? 何か───、」



 そこには茫然とした風情の三人の異邦人がいた。



 さすがに勇者と違い身綺麗にしている。俺は無言で招き入れ(靴は脱がせ足を拭かせた)、ちゃぶ台に座らせた。


「ゆ、勇者から色々聞いている。」

 無言に耐えかねたように王子が話し始めた。

「はあ。で、なんか用すか。オージサマには支援物資いらないですよね」

 女子二名がメチャカワなのに苛つく。あいつが苦労してんのにハーレムかよと。

「……勇者への仕打ちに怒っているんだな。仕方ないが」

「ヤツはどうした。置き去りか」

 出たばっかだがまた時間歪んだか。

「違います! あの方は神殿で祝福を受けています。待っていたらこの家が。」

 シスター服の子は聖女様だろう。いくら可愛くても俺の心は動かない。

 お色気担当っぽい推定魔女にもな!

「それであたしたち、キミには話しておいた方がいいってなって」

「……茶を淹れます」

 なんだか長くなりそうだ。



「私は××国の第二王子、○○だ」

「名前聞き取れません。なんかストッパーかかってるんでは」

 そうか、と美形が溜め息をつく。別にあんたらの名前知りたくねーし。

「勇者様にご助力いただきありがとうございます」と推定聖女。

 紅茶出してやった。茶請けにポテチと麩菓子も。合わない組み合わせはわざとだ。

 たまたまいい和菓子にケーキもあるが誰が出すもんか。

「好きでやってるんで礼を言われる筋合いはないですね。つか礼すんならまずあいつを助けてやって欲しかったね」

「おい、聖女に対する無礼は──」

「それがなんだ? 俺の国は別であんたらに払う敬意はねえ。きちんと勇者を支えてれば俺も感謝したろうよ」



 俺の言葉に誰も返せない。

 仲間に入れたとただ喜ぶ勇者の代わりに言ってやってもいいだろ? 腹に据えかねてたんだよ、お前らの世界そのものが。



「そこまで勇者を思いやる者だからこそ、話しておくべきと考えた」

 不穏な空気に身構えた。これは良くない。とても嫌な予感に包まれる。

 だが王子の発したのは予想外のひと言だった。


「勇者の名前を尋ねたことは?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ