家にまた空き巣が入った
「おいしい……」
見慣れない民家から盗んでしまったパン。良心が咎めるが、自分には使命があると割り切った。
自分が戦わないと、どのみちあの家の人にも未来がない。もっともあれは話に聞く「家」のような気がするので、大丈夫だろうけど。
「水ももらってしまった。何だろうと思っていじってたら水が出てくるなんてびっくりした。凄いな」
鑑定すると飲めるとあったので革製の水入れに汲んできた。
「分離」
癖のある薬臭さは成分を切り離し捨てる。
言い伝えにある、とある「家」。
旅人が飢えたり何かしら困ったとき出現するという。持ち出しを遠慮する必要はないらしいが、やはり気にはなる。
「変わった家だったな。見慣れないモノに文字。本もあったし明らかに文明が進んでた」
一人旅が長いので、独り言も多くなる。寂しく人恋しい。十六歳の少年が先を知れぬ旅路を辿る、それは精神に多大な負荷をかけていた。
(でも最近、人の気配を感じる)
決して近くには来ず、見えもしない。
(話したいけど、逃げてしまう)
本当はあの家に、誰かいないか期待していた。紙と書くものがあったので手紙を置いてきたが、住人に読めるだろうか。あそこの書物の知らない文字、自分には不思議にも読めたが。
「───休憩は終わり、か」
遠くからの土埃が魔獣の接近を報せる。背中の大剣を手に取り、勇者は魔獣を待ち構えた。
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泥棒侵入の一カ月後。再犯あり。
『あれから十日、またこの家に出会いました。』
あの石の代金、理央さんはしっかり払ってくれた。百万もらって残りはゲンさんに預けてある。叔父さんが戻ってきたら話し合いしよ。ちょっと現実についていけない。
基本的には全額ドロボーさんに渡したい。が、手段がない。
自分は若者のつもりのファンタジー好き外人ちょいボケ爺さん@旅行中が家宝を置いてったと俺は推理したね! 今頃家族で大騒ぎなんじゃないか。
どうにかして代金を渡さねばと悩んでたが、まさかまた来るとは。円安だけど許されるかな。迷惑料で数万円くらいくれるだろうか。万が一返せと言われたら理央さんと交渉してもらおう。
『また水をもらいます。パンすごく美味かったです。あの魔石は売れましたか。ちょっと怪我をしてしまい、床を汚してしまいました。拭いたけど跡が残ってしまった。すみません。』
すげえ金額で売れましたが。てか大丈夫かよじいちゃん。転けたのか?
『テーブルに薬が入った箱があったので、包帯と消毒薬をもらいます。』
もうじき置き薬の取り替えに来るから出しっぱだったやつ。
待てよ、十日? あれから一カ月ですが。ぼけてるからだろうか。
『色々盗んでごめんなさい。また魔石を置いていきます。キマイラのです。それと、』
あ、ホントだ。五千万がある。───いや、以前の石より更にキレイなの。
やめてよねえええ!! なんなのコレほんと!
読んでる途中でガラッと玄関が開けられる。勢いよく土間に転がり込んだオカm……じゃない仕事着の理央さん。俺はとっさに石を座布団に隠した。
玄関から土間続きで茶の間のプライバシーない作りなんだよなあ。
「ちょっと慎吾! あの石もっとねえか!」
ピンポン押せや。
「なんだよ昼っぱらから何してんだよ仕事しろ」
「テメーこそ高校どうしたよ!」
「テスト期間だっての」
遠慮なしに自ら茶を淹れ一息ついた理央さん。話を聞くと、石を見た占い仲間や仕事相手の人らが「何それ欲しい」と騒いだそうな。
「倍は出すってよ」
「ば、倍……、いや、まだ代金渡せてないし」
ヤバい怖い。まずブツを隠そう。
そう考えた次の瞬間、理央さんの手が素早く座布団に伸びてきた。ちょっと視線をやっただけなのにアサシンかよ!
「なんじゃこりゃあああ!! 前のやつよかパワー盛り盛りじゃねえか!! オレがもらうわ!!!」
人んちで騒ぐなオッさん。どうすんべと頭を抱えてたら着メール音。叔父さん用のは本人指定で競馬場の本馬場入場曲だとか。けっこう好き。
一カ月ぶりの叔父確認。もうちょいマメに寄越せ、生きてるか分からんぞ。ライヌじゃないのなんでだ。
……は? 何だって?
『ドラ◯エとかの勇者に似てるいうか本物じゃないです?』
メールなんだからもっと詳細にしろや。なんだよこれ。
なんとなく、恐々と傍らのメモを横目で見た。
『それと、僕は魔王城を目指している勇者です。』