表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

家にまた空き巣が入った



「おいしい……」


 見慣れない民家から盗んでしまったパン。良心が咎めるが、自分には使命があると割り切った。

 自分が戦わないと、どのみちあの家の人にも未来がない。もっともあれは話に聞く「家」のような気がするので、大丈夫だろうけど。


「水ももらってしまった。何だろうと思っていじってたら水が出てくるなんてびっくりした。凄いな」

 鑑定すると飲めるとあったので革製の水入れに汲んできた。


分離アイソレイト

 癖のある薬臭さは成分を切り離し捨てる。


 言い伝えにある、とある「家」。

 旅人が飢えたり何かしら困ったとき出現するという。持ち出しを遠慮する必要はないらしいが、やはり気にはなる。


「変わった家だったな。見慣れないモノに文字。本もあったし明らかに文明が進んでた」


 一人旅が長いので、独り言も多くなる。寂しく人恋しい。十六歳の少年が先を知れぬ旅路を辿る、それは精神に多大な負荷をかけていた。


(でも最近、人の気配を感じる)


 決して近くには来ず、見えもしない。

(話したいけど、逃げてしまう)


 本当はあの家に、誰かいないか期待していた。紙と書くものがあったので手紙を置いてきたが、住人に読めるだろうか。あそこの書物の知らない文字、自分には不思議にも読めたが。


「───休憩は終わり、か」

 遠くからの土埃が魔獣の接近を報せる。背中の大剣を手に取り、勇者は魔獣を待ち構えた。



*****************



 泥棒侵入の一カ月後。再犯あり。


『あれから十日、またこの家に出会いました。』


 あの石の代金、理央さんはしっかり払ってくれた。百万もらって残りはゲンさんに預けてある。叔父さんが戻ってきたら話し合いしよ。ちょっと現実についていけない。

 基本的には全額ドロボーさんに渡したい。が、手段がない。


 自分は若者のつもりのファンタジー好き外人ちょいボケ爺さん@旅行中が家宝を置いてったと俺は推理したね! 今頃家族で大騒ぎなんじゃないか。

 どうにかして代金を渡さねばと悩んでたが、まさかまた来るとは。円安だけど許されるかな。迷惑料で数万円くらいくれるだろうか。万が一返せと言われたら理央さんと交渉してもらおう。



『また水をもらいます。パンすごく美味かったです。あの魔石は売れましたか。ちょっと怪我をしてしまい、床を汚してしまいました。拭いたけど跡が残ってしまった。すみません。』


 すげえ金額で売れましたが。てか大丈夫かよじいちゃん。転けたのか?


『テーブルに薬が入った箱があったので、包帯と消毒薬をもらいます。』


 もうじき置き薬の取り替えに来るから出しっぱだったやつ。

 待てよ、十日? あれから一カ月ですが。ぼけてるからだろうか。


『色々盗んでごめんなさい。また魔石を置いていきます。キマイラのです。それと、』


 あ、ホントだ。五千万がある。───いや、以前の石より更にキレイなの。

 やめてよねえええ!! なんなのコレほんと!


 読んでる途中でガラッと玄関が開けられる。勢いよく土間に転がり込んだオカm……じゃない仕事着の理央さん。俺はとっさに石を座布団に隠した。

 玄関から土間続きで茶の間のプライバシーない作りなんだよなあ。


「ちょっと慎吾! あの石もっとねえか!」

 ピンポン押せや。


「なんだよ昼っぱらから何してんだよ仕事しろ」

「テメーこそ高校どうしたよ!」

「テスト期間だっての」


 遠慮なしに自ら茶を淹れ一息ついた理央さん。話を聞くと、石を見た占い仲間や仕事相手の人らが「何それ欲しい」と騒いだそうな。


「倍は出すってよ」

「ば、倍……、いや、まだ代金渡せてないし」


 ヤバい怖い。まずブツを隠そう。

 そう考えた次の瞬間、理央さんの手が素早く座布団に伸びてきた。ちょっと視線をやっただけなのにアサシンかよ!


「なんじゃこりゃあああ!! 前のやつよかパワー盛り盛りじゃねえか!! オレがもらうわ!!!」



 人んちで騒ぐなオッさん。どうすんべと頭を抱えてたら着メール音。叔父さん用のは本人指定で競馬場の本馬場入場曲だとか。けっこう好き。


 一カ月ぶりの叔父確認。もうちょいマメに寄越せ、生きてるか分からんぞ。ライヌじゃないのなんでだ。

 ……は? 何だって?


『ドラ◯エとかの勇者に似てるいうか本物じゃないです?』


 メールなんだからもっと詳細にしろや。なんだよこれ。

 なんとなく、恐々と傍らのメモを横目で見た。



『それと、僕は魔王城を目指している勇者です。』




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ