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Flight 009: 焚き火の記憶

◆ 野営


「もうじき日が暮れるわね」


エリシアが空を見上げながら言った。

遠くの地平線がオレンジ色に染まり、次第に夜の帳が下りてくる。


「ノル村までは、あと半日くらいか」


隼人は地図を確認しながらつぶやく。


「このまま進めば、夜中には着けるけど……それは危険ね。夜の森は視界が悪いし、何より魔獣に襲われるリスクが高いわ」


「じゃあ、ここで野営か?」


「ええ。ここなら比較的開けているし、焚き火を焚けば獣も寄ってこないでしょう」


「了解。じゃあ、薪を集めてくる」


隼人は周囲の枯れ枝を集め、エリシアは魔法で小さな火を灯した。

やがて、焚き火がゆらめきながら燃え上がる。


◆ 焚き火の灯りの中で


二人は焚き火を囲み、持っていた干し肉をかじりながら静かに炎を見つめていた。


しばらく沈黙が続いたが、エリシアがふと口を開く。


「ねぇ、隼人」


「ん?」


「あなたの ‘昔話’ を聞かせてくれない?」


隼人は少し驚いたようにエリシアを見た。


「俺の昔話?」


「ええ。あなたの ‘空’ にいたころの話を聞きたいの」


「……俺の空、か」


隼人は焚き火をじっと見つめたまま、ゆっくりと息を吐く。


「……なら、俺が ‘大事な2番機’ を失った話をしよう」


◆ 俺の2番機


「俺は……自衛隊にいたころ、 2番機と飛んでいた」


「2番機?」


「簡単に言えば、 ‘ペアを組む相棒’ のことだ」


エリシアは興味深そうに頷く。


「飛行機ってのは、基本的に ‘単機’ じゃなく ‘編隊’ で動く。特に戦闘機は ‘2機1組’ で戦うのが基本だ」


「なるほど……相棒と一緒に飛ぶってことね」


「ああ。そして、俺の ‘2番機’ は 村上俊 ってやつだった」


エリシアは静かに耳を傾ける。


「村上は、俺より少し年下で、いつも俺の後ろについてきた。性格は真面目で、何より ‘空を愛していた’」


「……あなたと同じね」


隼人は苦笑する。


「そうかもな。アイツは、飛ぶことに純粋だった。俺たちは ‘翼を並べて飛ぶ’ ことで、何よりも信頼し合っていたんだ」


エリシアは黙って続きを待つ。


だが——


「ある日、アイツは ‘墜ちた’」


隼人の声が少し低くなる。


「訓練中、突然 ‘エンジンが故障’ して、コントロールを失った」


「……」


「通常なら ‘脱出’ すれば助かるはずだった。だが……アイツは最後まで ‘機体を捨てなかった’」


エリシアは息を呑む。


「機体が ‘市街地’ に落ちるのを避けるために、アイツは ぎりぎりまで機体を操縦していた んだ」


「……」


「最後の無線で、アイツはこう言った」


『すまん、俺……まだ、お前ともっと飛びたかった』


「そして……アイツの機体は ‘山の中’ に墜落した」


◆ 後悔と誓い


焚き火の音だけが響く。


「……俺は、アイツを ‘救えなかった’」


隼人は拳を握る。


「俺は ‘空を飛ぶ’ ことで、アイツと ‘いつでも一緒に飛べる’ と思っていた。だが……俺は ‘あのとき’、何もできなかった」


エリシアは静かに隼人の表情をうかがう。


「それ以来、俺は ‘飛ぶこと’ に執着するようになったのかもしれない」


「……隼人」


エリシアはそっと隼人の肩に手を置いた。


「あなたが ‘空を求める理由’ ……少し分かった気がするわ」


「……そうか」


隼人は苦笑しながら、焚き火を見つめる。


「俺は ‘もう一度飛ぶ’ ことで、アイツに ‘見せたい’ んだ」


「何を?」


「……俺が ‘まだ飛べる’ ってことを」


エリシアは目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。


(彼は ‘ただ飛びたい’ んじゃない……彼にとって、空を飛ぶことは、仲間との誓いの延長にあるのね)


「……あなたは ‘飛べるわ’」


エリシアは静かに言う。


隼人は驚いたようにエリシアを見る。


「お前……なんでそう思う?」


「あなたは ‘飛ばなきゃならない理由’ がある。だから、きっと飛べるわ」


隼人は、エリシアの言葉を噛みしめるようにうなずいた。


「……そうだな」


焚き火の炎が揺れる。


二人の間には、今までとは少し違う 深い信頼 が生まれていた。


◆ そして、夜が明ける


「そろそろ寝るか」


隼人は立ち上がり、薪をくべる。


「ええ。明日は村に着くものね」


「お前は寝てろ。俺が ‘先に’ 見張りをする」


「ふふ……じゃあ、お言葉に甘えて」


エリシアは寝袋に入りながら、小さく微笑む。


「おやすみ、隼人」


「……おやすみ」


そして、静かな夜が訪れた。


焚き火の炎がゆらめく中、隼人は空を見上げる。


(アイツなら、どう言うだろうな……)


遠い星の光の向こうに、かつての ‘2番機’ の姿を思い浮かべながら——。


二人の旅は、次の舞台へ進む。

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