Flight 005: 魔法適性試験
◆ 隼人に魔法を教える理由
「魔法の訓練を始めるわよ」
焚き火を囲みながら、エリシアは隼人に向かってそう告げた。
「……魔法の訓練?」
隼人は怪訝そうにエリシアを見た。
「そうよ。あなたが空を飛ぶには、魔法が必要になるわ」
「いや、俺は飛行機のパイロットだっただけで、魔法とは無縁だぞ」
「今はね。でも、この世界では魔法を使えないと、飛ぶことは難しいわ」
エリシアは静かに続ける。
「私は、あなたを ‘空’ に戻す方法を探している。でも、たとえ ‘飛翔魔法’ を見つけたとしても、あなた自身が魔法を使えなければ意味がないわ」
「つまり……俺自身が魔法を習得しなきゃならないってことか」
「そういうこと」
隼人は腕を組み、しばらく考え込んだ。
だが、すぐに深く息をつき、静かに頷く。
「わかった。やってみる」
エリシアは満足げに微笑んだ。
「じゃあ、始めましょう。まずは、あなたに ‘魔法適性’ があるか確かめないとね」
◆ 魔力の感知訓練
「魔法を使うには、まず ‘魔力’ を感じ取ることが必要よ」
エリシアは、隼人の目の前に手をかざした。
「あなたの世界には ‘魔力’ という概念がないでしょう? だから、まずは ‘魔力’ を自分の中に見つけるところから始めるわ」
「……どうすればいいんだ?」
「目を閉じて」
隼人は静かに目を閉じる。
エリシアはそっと彼の手を取り、ゆっくりと魔力を流し込んだ。
「何か感じる?」
「……ああ、なんか温かいような……流れてくる感じがする」
「それが ‘魔力’ よ。でも、今は私の魔力を感じ取っているだけ。あなた自身の魔力を引き出せるようにならないと、本当の ‘魔法’ にはならないわ」
隼人は目を開け、少し考え込むような表情を浮かべる。
「つまり、自分の魔力を見つけて、それを ‘動かす’ 訓練が必要ってことか」
「その通りよ」
「……なるほどな」
◆ 魔力を引き出す
翌朝、エリシアは森の空き地に隼人を連れて行った。
「じゃあ、次のステップね。今度は ‘自分の魔力’ を感じ取る訓練をしましょう」
「具体的には?」
「まず、静かに呼吸を整えて……体の内側に意識を向けて」
隼人は目を閉じ、言われた通りにゆっくりと呼吸を整える。
「……何も感じないな」
「最初はそうよ。でも、あなたは ‘戦闘機の操縦’ をしていたんでしょう? 機体の動きを感じ取るのと同じように、自分の体の内側を ‘観察’ するのよ」
「……なるほど」
隼人は再び集中する。
だが、しばらくしても、やはり何も感じることができなかった。
「……ダメだな。全然わからん」
エリシアは優しく微笑む。
「じゃあ、次は少し ‘刺激’ を与えてみましょう」
そう言うと、彼女は手をかざし、隼人の胸にほんのわずかに魔力を送り込んだ。
すると——
「……おい、なんか変な感じがする」
「どんな感じ?」
「心臓の奥から、何か ‘じわじわ’ と広がっていく感じだ」
エリシアは満足げに頷く。
「それが、あなた自身の ‘魔力’ よ」
「これが……俺の魔力……」
隼人はゆっくりと目を開け、自分の手のひらを見つめた。
(こんな感覚、初めてだ……)
「さぁ、今度はそれを ‘動かす’ 訓練をするわよ」
◆ 初めての魔法
「次は ‘灯火の魔法’ を試してみましょう」
エリシアは、軽く杖を振ると指先に小さな青白い炎を灯した。
「これは ‘灯火’ の魔法。最も基本的なものよ」
「俺でもできるのか?」
「ええ。ただし、最初は ‘イメージ’ が大切。炎を思い描いて、それを魔力に変えるの」
「……やってみる」
隼人は手のひらを広げ、静かに意識を集中させた。
(炎を……ここに……)
だが——
バチッ!
「うおっ!?」
隼人の手のひらから、小さな火花が散った。
「ふふっ、惜しいわね」
「……今、何か出たよな?」
「ええ、魔力の ‘放出’ には成功したわ。でも、まだ ‘制御’ ができていないの」
「……なるほどな」
隼人はもう一度挑戦する。
今度はゆっくりと呼吸を整え、魔力を手のひらに集中させる。
そして——
ポッ……
小さな火が、ほんの一瞬だけ灯った。
「やった……!」
「成功ね」
エリシアは微笑みながら言う。
「あなたは ‘魔力の素質’ があるわ。これなら、魔法を習得することも十分可能ね」
隼人は自分の手を見つめ、ゆっくりと拳を握った。
(俺でも……魔法が使えるのか)
「さぁ、これから本格的な訓練をするわよ」
エリシアは立ち上がり、隼人に手を差し伸べた。
「あなたが ‘飛ぶ’ ために、魔法を覚えるのよ」
隼人はその手を取った。
「わかった。やってみる」
彼がもう一度空を飛ぶために。
エリシアの魔法訓練は、今、始まった。