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Flight 002: 墜落と邂逅

◆ 目覚め


「……う……」


鋭い痛みが後頭部を突き抜け、相沢隼人は意識を取り戻した。

ヘルメットの内側にうっすら血がにじんでいる。頭を強く打ったらしい。


(……俺は……どうなった……?)


混濁する意識を振り払い、隼人はキャノピー越しに外を見た。


見慣れない風景が広がっている。


周囲は青々とした草原と深い森。遠くには石造りの城塞都市が見える。

雲の合間から差し込む夕陽が、その壁をオレンジ色に染めていた。


「……どこだ、ここは……」


コックピット内は異常だらけだった。

計器類はほぼすべて沈黙し、無線も通じない。

操縦桿を握るが、応答なし。F-15Jは完全に 「死んでいる」 。


(あの異常現象のせいか……)


隼人は大きく息をつき、シート横のコンパートメントを開けた。

9mm拳銃 、フレアガン、ナイフ、最低限の食料と水。

確認するだけで、ここが 文明世界ではない可能性 が頭をよぎる。


(どこであれ、生き延びなきゃならん)


キャノピーを手動で開き、機体の外へ。

陽光が直接肌に触れ、静かな風が頬を撫でる。


だが、その静寂はすぐに破られた。


「――誰だ!」


鋭い女性の声が響いた。


振り向くと、そこには ひとりの女 が立っていた。


◆ 彼女との出会い


彼女は長い銀髪を風になびかせ、深い紫のローブを纏っていた。

手には木製の杖。鋭い蒼の瞳がこちらを見据えている。


まるで……中世の魔法使いのような姿だった。


「おい、動くな!」


隼人は瞬時に拳銃を構える。


(どこの民族かは知らんが、奇襲を仕掛けられたらまずい)


しかし、彼女は微動だにしない。むしろ 興味深そうに 隼人を観察していた。


「……やはり、あなたは ‘外’ の者ね」


「外の者?」


意味が分からない。しかし、彼女の言葉には確信めいた響きがあった。


「あなたが空から落ちてくるのを見たわ。あの鉄の鳥に乗って……。普通の者ではないでしょう?」


(鉄の鳥、か……)


隼人は考える。

この女は F-15Jを知らない 。つまり、ここは現代世界ではない?


「私は エリシア。魔術師よ」


彼女は名乗ると、少し間を置いて問いかけた。


「あなたは?」


「……相沢隼人。航空自衛隊のパイロットだ」


「空を飛ぶ兵士、というわけね」


エリシアは杖を胸元に抱えながら、静かに言葉を紡いだ。


「あなた、ここがどこか分かっていないのでしょう?」


「……正直なところ、さっぱりだ」


「なら……教えてあげるわ。ここは エルヴァン王国。剣と魔法の支配する世界よ」


「……剣と魔法、ね……」


隼人は思わず苦笑した。

だが、目の前のエリシアは 本気 だった。


「あなた、王国の兵士に見つかったら ‘異端’ として捕まるわ」


「異端?」


「この世界には、鉄の鳥も、空を自由に飛ぶ技術も存在しない。あなたは ‘常識の外’ にある存在。放っておけば、間違いなく追われることになるわ」


隼人は内心、舌打ちした。


(確かに……)


落ちてきた戦闘機、異世界の住人らしき女、そして「魔術師」という存在。

何もかも未知数すぎる。


「それで、俺はどうすればいい?」


「私のところへ来なさい」


「……俺を助ける理由は?」


エリシアは静かに微笑む。


「興味があるからよ。空を飛ぶ兵士なんて、この世界にはいないもの」


「興味だけで、命をかけるのか?」


「あなたこそ、どうするの? このまま一人で生きていける?」


隼人は一瞬、言葉に詰まった。


(……今の俺に、この世界で生き延びる術はない)


一人では、どうにもならない。

ならば、エリシアの言葉に賭けるしかない。


「……わかった。しばらく、世話になる」


エリシアは満足そうに頷いた。


「決まりね。じゃあ、行きましょう。すぐにここを離れないと」


隼人は最後に、静かにF-15Jを振り返る。


(……すまん、お前を捨てることになるかもしれん)


機体はここに置いていくしかない。


だが、この世界に「空の可能性」を残すことは、まだできるかもしれない。


そう思いながら、隼人はエリシアと共に歩き出した。


――こうして、異世界に落ちたパイロットと魔術師の邂逅 は始まった。

この出会いが、後に 二人の運命を大きく変える ことを、隼人はまだ知らない。

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