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Flight 012: 交わる想い、夜明けの誓い

◆ 試練を前にして


夜のノル村。


宿 『風見亭』 の一室で、隼人とエリシアは向かい合っていた。

テーブルの上には地図が広げられ、真ん中に置かれたランプの灯りが部屋の隅を静かに照らしている。


窓の外には、風が木々を揺らし、夜の静寂が広がっていた。


「…… ‘嵐の塔’ か」


隼人が呟く。


「どんな試練が待っているのか、まだ何も分からないのよね」


エリシアは腕を組み、深く考え込むような表情を見せた。


「 ‘風の心を示せ’ っていうのも、曖昧すぎるな」


「 ‘塔を越える’ だけなら、単純な ‘登山’ か ‘強風の中の移動’ かもしれないけれど……」


エリシアは小さく首を振る。


「そんな単純なものじゃない気がするの」


「……俺もそう思う」


隼人は真剣な表情で地図を見つめた。


「リィナの言い方からして、 ‘魔法的な何か’ が関係してる可能性が高い。単に ‘風を耐える’ だけじゃ ‘試練’ とは呼べないだろうしな」


「 ‘風の民’ が ‘試す’ ということは…… ‘何かを克服しなければならない’ ってことよね」


「克服、か」


隼人はしばらく考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「 ‘飛ぶことを諦めない心’ を示せ、ってことなのかもしれない」


エリシアは隼人の横顔を見つめる。


「あなたは…… ‘試される’ ことを怖くない?」


「怖くない、とは言わない」


隼人は苦笑する。


「正直、何が待ってるのか分からない以上、不安はある。だけど——」


彼は拳を握る。


「俺は ‘飛ぶため’ に、ここにいるんだ。どんな試練が来ようと、やるしかない」


エリシアは静かに微笑んだ。


「あなたらしいわね」


「お前はどうする?」


隼人が尋ねると、エリシアは少しだけ視線を落とした。


「私は ‘試練を受ける資格’ はない。でも……あなたが ‘飛ぶため’ に、私は ‘導く者’ として全力で支えるわ」


「……ありがとな」


隼人は自然と笑みをこぼし、エリシアの肩を軽く叩いた。


「お前がいてくれるなら、どんな試練だろうと乗り越えられる気がする」


「ふふ、頼ってくれていいわよ」


◆ 近づく距離


話し合ううちに、二人の距離は自然と縮まっていた。


隼人がふと気づくと、エリシアの肩がほんのわずかに 自分に寄り添っている ことに気づいた。


エリシアも、ふとした瞬間に隼人の視線が自分に向けられていることに気づく。


だが、どちらもすぐには言葉を発しなかった。


沈黙。


それなのに、妙な心地よさがあった。


「……なに?」


エリシアがふいに小さく微笑む。


「いや……お前が ‘近くにいる’ のが、当たり前になってきたな、って思ってさ」


「それって……どういう意味?」


エリシアがわずかに頬を染める。


「分からねぇよ。ただ……お前と一緒にいると、自然に ‘前に進もう’ って思えるんだ」


「……私も」


エリシアはそっと隼人の手を取った。


「あなたと一緒にいると…… ‘風’ を感じるの」


「風?」


「ええ……あなたは ‘止まらない’ 人。空を求めて、どこまでも進もうとする。その ‘風’ に私も引き込まれているのかもしれない」


「……俺は、そんなに ‘影響を与えてる’ つもりはなかったけどな」


「自覚がないなら、それは ‘本物の風’ よ」


エリシアの瞳が、優しく隼人を見つめる。


「私は、そんな ‘風’ に導かれているの」


隼人はふっと笑った。


「……なら、俺も ‘お前の風’ に導かれてるのかもな」


「……隼人……」


エリシアの瞳が揺れる。


静かに、お互いの距離が縮まり——


唇が触れた。


◆ 結ばれる夜


触れるだけの口づけが、やがてゆっくりと深まっていく。


お互いの 体温を感じる距離 。


言葉はなくとも、二人の間にある感情が交わる。


隼人はエリシアの頬にそっと手を添える。


エリシアも、隼人の手に触れながら 静かに身を委ねた 。


——この瞬間、二人はただの ‘旅の同行者’ ではなくなった。


◆ 夜明けの誓い


朝。


静かに陽光が差し込み、二人は目を覚ました。


エリシアは、隼人の肩にもたれながら、ゆっくりと起き上がる。


「……おはよう」


「おう」


二人はお互いの顔を見つめる。


そして——


「行くぞ、 ‘嵐の塔’ へ」


「ええ。 ‘風の心’ を示すために」


二人は決意を新たにし、宿を後にした。


風が吹く。


それは、まるで ‘二人の未来’ を祝福するかのように——。

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