逃げたいけど、向き合いたい
第一話からの続きです。
「ごめん。今気持ち悪いの。」
「あっそうだよな。いきなりきてごめんな。 でも、どうしても伝えたかったんだ。 」
私は翌日学校に登校した。
登校中、真昼に話しかけられた。
その隣に屑見がいた。
屑見は高い声で私に抱きつき謝ってきた。
怖い。
なぜなら、屑見が私を見る目が鋭く強く憎しみを持っているように睨んでいたからだ。
確かに私は屑見に呼び出されて謝罪を受けた。
だけど、そのあとが地獄だった。
屑見は友人グループの人間に協力を仰いだ。
真昼の目を盗んで、以前より酷いいじめを私にした。
悪質なのは屑見がいじめをしたってバレないように私をいじめたということだ。
昼ごはんを捨てられたり、生ごみを机の引き出しに入れられたり、たまに強く肩パンされたり、教師が使っている定規で顔を殴られたり。
昼ごはんと生ごみは屑見がしたという証拠がないし、暴力は事故として片付けられる。
だからこんな犯罪まがいのいじめでも私は誰にも言えないしこれ以上悪化するのはあまりにも恐ろしかった。
事件は起こった。 屑見の化粧ポーチがなくなった。
そして女子たちが着替えている時に女子のみんなで教室の中を探したんだって。
そしたら私の机の中に化粧ポーチが出てきたんだって。
屑見は受験も控えていて、化粧ポーチを持っていたことを教師にバレたくなくて教師や保護者に言わなかった。
だけど、同学年の人はみんな知っていて 周りの人間に、泥棒だの。最低だの。おとなしい顔をしてよくやるなとか糾弾された。
私はやっていないし、もちろん否定したんだけど
事件当時の体育の授業は全クラス合同授業で私は体調不良で保健室にいて、私以外のみんなは体育の授業を受けていて私の机の中に入れる事はできないから、盗んだのは私だとクラスの大半が私を疑っていた。
私は、もう学校に行くのが怖くて怖くてたまらないし、いじめに耐えかね、不登校気味になった。
だけど真昼は私はやっていないと私を庇っていたみたい。
自身の株を下げてまでなぜ、私を庇う理由がわからなかった。
もう、理解できない。
私は周りに責められていることでかなり精神的に疲弊していた。
この人が何を考えて行動しているのか。
なぜ私を信じられるのか。
だから私は思い切って真昼に聞いてみた。
「なんで、そこまでしてくれるの?」って
「そ.れ........は.....美湖のことが好きだからだよ。」
「好きだから?」
「そうだよ。」
他の人ならその言葉を聞いたら大喜びするんだろうけど私は素直にその言葉に喜べない。
だって、私は精神的に参っちゃって、好きとか嫌いとか考えられないし、そんなこと言われる資格なんて私にない。
真昼のこと好きか嫌いかで考えたら好きだけどあんまり白黒はっきりつけられない。
「ありがとう。」
「でもどうして私が好きなの。」
「美湖といると、なんとなく本当の自分らしくいられるんだよ。
一緒に過ごしていると楽しいし。人を拒絶しない優しさを持っていると思う。」
「そうなんだ。」
でも、鈴木くんとも仲良いよね。
今朝も楽しそうにお話ししていたね。
私が女だからなのかな。
女だから好きなのかな。
女なら仲がいいって言っていた、
私のことをいじめていた屑見でもいいじゃない。
私じゃなくてもいいじゃない。
私は考えることから逃げたい。
解放されたい。
私は諦めるように
「ごめん。もう無理。全部無理。」
と言った。
「な、何が無理なんだ。俺にできる事はないのか。」
もう、何も考えたくない。
何にも気遣いたくない。
私は全てを遮断するように無言で真顔のつもりで扉を閉じる。
しかし真昼が手を扉の間に挟めて閉じるのを邪魔する。
「なっ、何すんのよ。手、どかしてよ。」
「嫌だ。学校行くって言うまで退かさない。」
「はあ?学校行かないわよ。」
「学校でいじめられたら、お前のこといじめるやつから俺が守ってやるよ。」
そういうことじゃないの。 私は女子の痛い視線が嫌なの。
私は周囲の視線を感じた。
近隣の住民がチラチラこちらをみている気がする。
周りの人に注目されている気がする。
もう、いや。みないでよ。
「あなたのせいよ!全部」
「え? 」
「あなたのせい!」
私は、必死に玄関にある催涙スプレーを手探りで探して真昼にふっかけた。
真昼は顔に両手をあて、扉から放した。
私は急いでドアを閉めた。
今の私はどんな顔してたのかな。
私の顔が真昼にどう映っていたのかわからない。
さよなら。真昼。
真昼は、わざわざ中学の話をするって事は私のことやっぱり許してないのかな。
受験にも影響受けて志望校変えたりしてないかな。
あんなに苦労して私のこと守ってくれたのに。
私が無下にしちゃったから。
今は少し拒絶しちゃって私は後悔してる。
私は思い切って聞いてみた。
「真昼って私のこと殺したい? 」
真昼が私を殺す気だったら今、作戦がバレてしまいヤケクソになり私をここで殺すかもしれない。
違うことを願う。
「は?え、急にどうしたんだよ。 殺したいわけないだろ。何言ってんだよ。」
真昼の体はとても震えている。
私の発言に怒っているの?腹を立てているの? 私が憎いの?私を殺したいの?
いや、バレることに恐れているの?
手の震えは演技が本気なのかはわからない。
私は思い切って真昼の手を自身の首に当てた。
「おい!何するんだよ。」
「どうしたんだよ。」
まだ手は震えているのか。
力を入れないのか。
殺す気なら絶好のチャンスなのに。
私、もし今日死ぬ運命なら真昼に殺されたいのかもしれない。
本当は真昼に殺されても嫌な気はしないのかもしれない。
生暖かい風が顔に当たる。
はぁはぁと怯えているような荒い息。真昼の息を感じる。
真昼の手が濡れている。
真昼の手を通じて私の首に水が掛かっている。
これは汗だろう。
私は真昼を見た。
真昼は顔を青ざめ、私に情けをかけるような、私を得体の知れないもののように見るような、なんとも形容し難い顔をしている。
そして、首だけではなく全身から汗をかいているように見えた。
真昼は混乱している。
もしかして真昼は違うのか。
私を殺そうとしているわけではないのか。
じゃあ、彼ではない別の誰かということか。
「誰なんだ。」
「はなせって!」
私は、突き飛ばされた。
柱に手をぶつけた。
幸い怪我をした方ではなかった。
不幸中の幸いだ。
「あっごめん。俺、そんなつもりじゃなくって。」
「いや、こっちもごめんね。
じゃあ、ね。 」
私は、肩と背中が痛かったがなんとか真昼の家から出た。
莉子ちゃんと真昼の家にいた時は狙われなかった。
屋内だから?
でも莉子ちゃんの家に行く時は狙われなかった。
もしかして複数人でいる時は狙われないのかな。
じゃあ、今の状況って。
「美湖ーっ。 」
真昼だ。追いかけてきた。 どうしよう 。
私は全速力で逃げる。
ああ、怖い。
私は、現状維持でいい。
これ以上の幸せなんて望まない。
死ぬなんて考えたくない。 怖いことは考えたくない。
あの家にいれば、平穏で何も起こらないけど、私はずっとずっと幸せなんだ。
でも、次はいつ真昼と会えるのかな?
次会うときは真昼はきっと誰かと結婚してるのかな。
じゃあ、もう二度と 会えないのかな
やっぱり、最後にー
私は後ろに振り返り、気づいたら足が止まっていた。
「よかった。止まってくれた。」
そもそも、私の体力と足の速さで逃げ切れる訳ないな。
「どうしたの。真昼。なんか用事?」
「あー....夜、危ないから送らなきゃなと思って。」
「そっか。ありがとう。 でも、今から行くところあるんだよね。」
「俺もついていっていい?」
えっ 真昼も来るの。
私は考え悩む。
微妙に気まずいし、 んー、ちょっと待てよ、私がさっき立てた仮説(複数人なら安全)立証されるのであれば真昼がいれば心強いな。
「いいよ。ちょっと歩くけど。」
強い風が吹く。早く占い師の元に行かなくてはいけないのに。風に邪魔されているみたい。
その上、ボロボロになった傘が飛んできた。
それは不安定にゆらゆら揺れている。
私の元にやってきた。
顔に当たりそうになる。
私は必死に避けようとし、真昼が顔に当たる直前で傘を取ってくれた。
「ありがとう。なんで守ってくれたの?」
「危ないし、顔に当たって怪我したくないだろ。」
うん。私って顔しか価値がないから。
だからそれを失ったら私なんの価値も無くなっちゃう。
私と真昼は占い師の元にきた。
占い師は驚いていた。
「お主!家に居ろって言っただろ! 良く死なずに生きていられたな!」
いえ、死にかけたけどね。
「えっなんで、美湖が死ぬんですか!」
「お主が彼女を連れ回していたのか?」
「違います。真昼は付き添いです。 それに、今はそんなことはいいですよ」
「よくないぞ! お主はもうすぐ死ぬんだ!」
「えっ」
真昼と私は同時に驚いた。
「 伏せろ!!!!」
占い師は、強く、鼓膜が破れるのではないかと思うくらい大声で叫んだ!
私たちは姿勢を低くした。
矢が私たちの目の前を通り過ぎた。
占い師がいなかったら私と真昼のどちらかに矢に当たっていた。
「 危なかったな。」
「 おい!そこの暗殺野郎!逃げるなよ。何が目的なんだ! この話は全部記録しているからな。
お前がワシたちを攻撃したのもキッチリな。 警察に突き出したらお前はどうなるんだろうな。」
敵は隠れようとしたが、姿を現した。
敵は大男で私たちの中で一番身体が大きい。
「ちっ」
大男は舌打ちをし、私を一瞥した後こう言った。
「私は未来が見える。 そこの占い師より、 明確に 正確に 精度の良いものがな。」
「だから私はお前を、倉井美湖を殺さなければいけない。」
「倉井美湖はこれから、裏の世界に行き、優秀な指導者によって今までの自分では考えられないくらい人を、男を惑わせる人間になる。
隠れた才能が目覚めるって奴だ。
数多の男を不幸に落としれ、権力者、大富豪、王子までもを自身の手の内に入れ凶悪犯罪者になるのだ。」
「そんな話聞かされても、困る。 今の私にはどうしようもない。」
「今はな。でも、倉井美湖は外に出た瞬間からその悪女になる可能性が高い
危ない芽は摘まなければいけないんだ。
私は、お前をひきこもりにするためにお前の机に同級生の財布を入れてお前を窃盗犯にしたてあげたりな。」
なんで?
驚愕の事実だ。
「許せない。あなたのせいだったのね。私があなたを殺してやりたいわ。」
「あんなの、ハッタリだ。美湖はそんな悪女にはならない。」
「はっ言ってろ。なんの苦労も知らないクソガキが。」
「ふざけんな! くだらない妄想ばかりしてるあなたの方がよっぽどクソガキだ!」
あの時、思い悩んだ時間を返してよ。
私はこの男に一矢報いたい。仕返しをしてやりたい。
その時、真昼は男に向かって石を投げた。
「てめぇ!痛ってぇな。」
大男は真昼の胸ぐらを掴む。
どうしよう。真昼、殺されるよ。
「お前って誰からも信用されてないんだな。
だから誰のことも信じることが出来ない。 可哀想だな」
真昼は冷たい声で言い放った。
「お前さ、あの女のなんなんだよ!」
「俺は美湖を信じてるんだ!」
「俺は美湖の理解者にはなれなかった。
でも美湖が悪いやつになってもならなくても俺は美湖を信じたい!俺だけは美湖の味方でいたいんだ。だから、美湖はお前なんかには殺されない!」
「戯言はやめろ!!!
お前は未来が見えないからだろ!!
お前は私の苦労を知らないだろ!!!
だからそんな、気楽なこと言えるんだ!」
大男は目をギラギラさせ、今にも真昼に殴りかかってきそうだ。
もう駄目だ。やだ。いやだ。誰か助けて
その瞬間 警察官がパトカーを乗りながらこちらにやってくる。
「大丈夫ですか?不審な男から暴行を受けたという通報があったのですが。」
「....はい」
私はホッとして胸を撫で下ろした。
パトライトが私たちの勝利を祝しているようだ 。
男は私にこう言った。
「くだらない妄想をしているのはお前もだろ。
私とお前は似てるんだよ。
お前は運命からは逃れられない。
私と同じように必ず使い捨ての人間となるんだよ。絶対。」
私とこの犯罪者が似ている? 信じられない。
こんな過激な思想を持っている奴と?
嘘だ。似てる訳ない。こんな妄想ばかりしている奴と?
妄想、空想、想像、虚像、幻想、夢想
私はひたすら言葉を連想した。
いや、私とこの犯罪者似てる。
私は妄想の中で生きている。
人の挙動に対していちいちレッテルを貼って決めつけている。
本当の相手じゃなくて自分の中で作り上げた空想の相手を見ている。
だから行動的で現実の世界を生きている真昼のことを理解できなかったんだ。
相容れなかったんだ。
私は絶望した。 私は普通になれなかったんだ。 辛い。ごめんなさい。
「俺は美湖を信じているからな。」
「絶対悪い奴にはさせない。
もし、万が一なっちゃったとしても絶対更生させるから!」
「何を根拠に言っているの? 」
「根拠!? それは、俺が信じたいっていう気持ちごと美湖を信じているんだ。」
「ねぇ、なんで石を投げたの?」
「だって美湖が悪く言われて許せなかったから。」
「許せなかったんだ。怪我するかもしれないのに。」
「大丈夫だ。俺が美湖を守るから。 」
いや、あなたが怪我するってことなんだけど。
真昼は 私の為にこんなに怒っているんだ。
この人は、いつも無条件に私のことを守ってくれるんだな。
ほんと、理解できない。なんでなのよ。
でも....嬉しい。
私は真昼を犯人だと疑ったことを反省した。
今は不安から解放され、素直に今の言葉を信じることができる。
「ありがとう。私のことを守ってくれて。」
真昼みたいに誰かを信じる気持ち 私にはそんなもの持ち合わせていない。
真昼を羨ましく思う。
だったら、真昼から良いところを吸収すればいいのかな。
そうしたらこんな風になれるのかな。
私は一筋の希望を持ちながらこれからを生きようと思う。