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Scene 6

 小説のモモカと異なり、わたしの入院は続いていた。院内では依然として歩行補助器を使っていた。まだ腰には負担をかけられないみたいな話を聞かされた。

 退院がいつ頃になりそうみたいな話はまったく出てこない。自分から医師に聞いてみればいいのだろうが、その回答を聞いて失望するのが怖くて踏み切れない。自分としてはなんとなく明日か明後日にでも退院してもいいんじゃないかという感覚なのだが、三ヶ月先ですね、という答えが返ってくる可能性もある。そもそも退院できない理由がわかってないのだから、どういう回答であっても別に不思議ではない。

 実のところわたしはそんなに退院したいというわけでもないのかもしれない。病院にいるのは気が滅入るが、自宅と学校のあいだを往復するだけの生活だってそんなに魅力的ではない。友達とくっちゃべったりする時間が楽しいのは確かだが、せいぜいそれくらいだろう、今のわたしに足りていないのは。

 わたしはほぼ一日中、タブレットと向き合っている。頻繁に休みを挟みながらではあるけども。

 小説投稿サイトでわたしのアカウントをフォローしてくる人がいたので、わたしもそのアカウントをフォローし返した。その人も書き手さんだったので、わたしはその人の作品を読んでみた。

 プロの書く文章とはどこか違うものを感じた――それが具体的にどういう点なのかはわからないのだけれど――が、ストーリーとしてはとても面白かった。わたしは「イイネ」をつけた。

 それから、もうひとり別な人がフォローしてきて、同じようなことが繰り返された。さらにもうひとり。だんだんとそれが加速してくる。

 なかにはめちゃくちゃな文章を書く人もいた。ストーリーも支離滅裂なんだけど、なぜだかやたらと勢いが感じられたり、とか。

 書き手にもいろいろな人がいる。さほど他の人が書くものに関心があるわけではなかったが、彼らの作品を読むことはプロの作品を読むのとはまったく別の意味で勉強になった。

 さらに衝撃だったのは、わたしの小説に対し感想を書き込まれたことだ。

「モモカとヌイ、これは恋の予感てやつですね〜。この先のふたりの関係がどうなるか、楽しみにしてます!」

 なんだろ、それは嬉しくもあったが、同時になにか、自分の作品にズカズカと足を踏み込まれたような、ざらりとした感触もそこにはあった。

 ああ、でも小説を公開するというのは、そういうことなんだ、と思った。

 その文章を公開した途端、もはやそれはわたしとは独立して存在するものになる――うまく言えないけど、そういうことなのではないか。文章は文章として、わたしの意図とか思考とかイメージしていたこととは関係なく、独立したものとして読まれるものなんだ、という。

 単にあたりまえのことに気づいただけなのかもしれないけど、わたしとしてはなにか重要な真理に到達したかの感覚だ。

 だからどうだということもないが――。


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