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【第二話】

[前回までの『わたしと死神』: 高二のわたし(モモカ)は学校帰りに交通事故に遭い瀕死の重傷を負ったものの奇跡的に一命を取り留めた。が、死神を名乗るヌイが病室を訪れ「本当はお前は死ぬはずだったが一年の猶予を与えた」とのたまう。死を回避するには「バースヴィジョンを探る」のがヒントだと告げた]


 バースヴィジョンとやらの内容はなんなのか、教えてくれよ、わたしの魂さん――。病院のベッドのうえでいくら思考を巡らせたところで、そんなことがわかるはずもないのであった。

 死神の訪問についても、それが夢だったのか実際にあったことなのか、わたしのなかでは決着がつかなかった。感覚的にはあれが夢であったとはとても思えないんだけど、内容は現実離れしすぎている。ヌイというひとがここに来たかどうかをママンに聞いてみればいいだけかもしれないけど、わたしはそれをしなかった。仮にあれが現実ではなかったとしても、それでセーフとはならない気がしていた。あまりにもリアルに感じられたから。死神が夢を通じてメッセージを送ってきたという可能性だってあるでしょ?

 うーん、わたしはどうすればいいの……。

 けど、当初抱いていた焦りのような気持ちも、日が経つにつれて薄らいでいった。しょせん人間てそんなもの。

 体のほうも徐々に回復し、わたしは歩行補助器(歩ける前の赤ん坊が使うやつのバカでかい版みたいなやつ)を使って自力でトイレに行けるようになった。病室も、個室から大部屋に移動となった。

 そんなわたしがトイレに行ったついでに外の景色でも眺めてやろうと窓に近づいていったときのことだ。見覚えのある姿が廊下に佇んでいた。あいつだ、ヌイ。夢じゃなかったのか――。

 彼はわたしのほうにやってきた。

「よお」

 気軽な感じに声をかけてくる。なんだよ、まったく。

「……どうも」

「順調に回復しているようだな」

「……おかげさまで」

「ふ。約束のことは忘れていないだろうな?」

「忘れようかなと思ってたところですが」

 わたしのトボけた返しに、ヌイはうっすらとした笑みをその顔に浮かべた。

「そんなこともあろうかと思ってな。ときどきはお前に顔を見せとかないと――ま、今日ここに来たのはお前とはまったく関係のない別件のためだが。なにせここでは死ぬやつが多い。ついさっき、ひとつ下のフロアのジジイが――」

 ヌイの話をさえぎるようにわたしは口を開いた。

「約束は一年先でしょ。忘れたりしないから、それまでわたしのことはほっといてくれます?」

 彼はニヤリとした。ゾッとする顔つきだ。死神だけのことはある。

「いや、お前の気が変わったのなら前倒しも全然オーケーだぞ? 言い忘れてたんだが、お前を生き返らせたことでオレはペナルティをくらってるんだ。お前が死ぬか、あるいはバースヴィジョンに復帰してくれないと、そのペナルティは消えない仕組みでな。それのせいで肩が凝って仕方ないんだ。オレとしては一年と言わず、なるはやにしてほしいところなんだな、これが」

「それ、どうでもいいわ」

「オレにはお前を急かす正当な理由があるってことだ。悪いがオレの顔を見たくないというのであれば、さっさと自分のすべきことをするんだな」

「そんなことを言われても、なにをすればいいのか、さっぱりわからないんだけど」

「それはお前と世界とのあいだの取り決めだぞ。お前しか知りようはない。自分の魂の声に耳を傾けるんだな。わからないわけはない。自分自身のことじゃないか」

 わたしは口をへの字に曲げた。そうする以外になかったので。

「ま、そんなに邪険にするもんじゃないぞ、オレに対しては。オレは別に悪意があるわけじゃないし。なにかオレにできることがあれば相談してくれても構わんのだぞ。オレのペナルティの消滅につながることであれば喜んで協力する」

「はあ……」

「用があるときには心のなかでオレの名を呼べ。すぐに駆けつけるとは約束できんが、手が空き次第、お前のところにやってくる。お前がどこにいようと」

 ほんまかいな。ためしにブラジルにでも行って呼んでみるか。

「ただし距離が遠い場合には、オレの代わりに同胞(はらから)の誰かが行くことになるだろう」

「ハラカラ?」

「ああ――つまり、オレと同じような存在のことだ」

「ふーん……」

 死神も地区担当制とかになってるのか。

「それじゃ、せいぜい頑張ってくれ」

 ヌイはそう言うと、踵を返して廊下を歩いていった。わたしはその後ろ姿を見送りながら思った――ここでドロンと消えでもしてくれれば少しは信憑性あるんだがな、と。

 なんにしてもわたしと死神の関係は続いていきそうな予感、というヤツだ。

 ――どうせなら死神じゃなくて天使とかだったらよかったのに。

 わたしはそっとため息をついた。

(つづく)

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