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【第一話】

『わたしと死神』 by MOMOCA

【第一話】

 わたしの名前? それはこの物語には本質的に関係のないことなの。でも主人公に名前がないのはちょっと不便でもあるから、モモカってことにしておく。便宜的に。

 わたしは高校二年生。パッとしないどこにでもあるような私立高校に通ってる。ありきたりの三年間をそこで過ごして、それを終えたら次は四年制か短大になるかわからないけど、いずれにせよ凡庸から凡庸の期間を繋いでいくだけの人生を送るだけの存在であるはずだった――でもそんなわたしの人生に意外なるハプニングが起きてしまったってワケ。

 その日もなんの変哲もない一日で、学校のあと、わたしはいつもどおりに駅で電車を降りて家に向かおうとしていた。なのにそこから先の記憶がプッツリと途絶えてて、目が覚めたら病院のベッドのうえだった。しかも二日も経ってたし。

 駅前の交差点でわたしは車に轢かれた、そう聞かされた。事故の直後のわたしは心肺停止状態だったらしい。病院に担ぎ込まれ、何時間にも及ぶ緊急手術を経て、かろうじてわたしは一命を取り留めた――それが公式の見解(公式じゃないやつは続きを読めばわかる)。

 九死に一生だよ! 平凡極まりないわたしの十七年に及ぶ人生にあるまじきことじゃないの!(このときのわたしはまだ呑気なものだったのよ、あとから思えば)

「顔に残るような傷がなくて良かったねぇ」そうママンは言った。それには同意しなくもないんだけど、どうせなら顔面に派手な傷跡があるのもカッコよかったかなぁ、海賊みたいなヤツ。それを見て誰もがビビっちゃうようなスゴい傷が顔にあればさ、ある意味、生きやすかったかもしれないよね、残りの人生が。それだったらわたしの平凡な人生は完全に終了するところだったのに。でも、そうは問屋が卸さない。怪我が治ればわたしは再び凡庸な人生に舞い戻るのよ(と、このときには思ってた)。

 意識は戻ったんだけど、わたし、身動きはできなかった。てか、身動きしようとすら思わなかった。今の自分が全身ギプス状態だってことすらまだ認識していなかった。実のところわたしの四肢のうち骨が折れてないのは左足だけだった。

 三日くらい経って、知らないひとがお見舞いに来た。それまでも警察のヒトとかが話を聞きにきてたんだけど、そのひとはそういうのとは明らかに違う雰囲気だった。背がひょろっと高くて、痩せた若い男。わたしよりちょい上かな、ってくらいの。うん、イケメンちゃイケメン。クール系。好みは分かれるだろうけど。でも、着てる服はイマイチ。

 ママンがそいつを紹介してくれた。ヌイってひと。事故の時にわたしに心臓マッサージをしてくれたんだって。

 ほええ、って思った。つまりわたしの命の恩人かぁ――(わたしはまだ呑気)。

 謎に気を利かせてママンが出ていったので、病室にはわたしたちきりになった。そいつはベッド脇の椅子に腰掛けたんだ。

 んでもって開口一番に言った――低くてハスキーな声で。

「お前、オレとの約束を覚えているだろうなぁ。タイムリミットは一年だぞ」

「えっ、なに? どういうこと? 話がぜんぜん見えないんですけど」

「チッ、そんなこったろうと思ったよ。あのな、いまオレはこうして人間の(なり)をしているけどもな、本当は違うんだ」

「……と、言いますと?」

「オレは死神だ」

 へっ?

「お前はあの事故で本当は死ぬはずだったんだ」

「そんなぁ」

「だけどな、お前の体から抜け出てきた魂はこう言った。『あと一年猶予をくれ。そしたらアタシは自分が世の役に立つ人間であることを証明してみせる』と」

 そんな無責任なこと言うなよ、わたしの魂。いかにもその場しのぎの言い逃れじゃん。

「それであなた様はわたしを助けてくれたわけで?」

「そうだ」

 ちょろいな。どうせなら十年とか猶予を貰えばよかったのに。なんなら百年でも。

「でも、証明ったって……。どうすればいいの、わたし」

「それをオレに訊かれてもな――ま、でも、ヒントなら教えてやれる」

「ぜ、ぜひ、お願いします」

「バースヴィジョンだ。バースヴィジョンを探れ」

「バ、ビ?」

「バースヴィジョン」

「なんですか、それは」

「人間の魂がこの世に生まれ落ちるときに、その人生でどういうことが起き、そこから何を学ぶのか、ってのはな、事前にカリキュラム化されてるんだ。それをバースヴィジョンと呼ぶ」

「へえ」

「お前の魂が主張したようにあの事故でお前が死ぬのが予定になかったんだとしたら、お前はつまり、事前に決められたカリキュラムをこなすことがもう無理、平たく言えば落第と判断されたってことだ」

「げ」

「カリキュラムの遅れを取り戻せ。そうすればお前の落第は取り消され、再びバースヴィジョンに沿った人生に復帰できるかもしれん」

(つづく)

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