やはり筋肉! 筋肉によって得られる究極の大団円 素敵なマッチョに君もならないか?
なんか凄い音が下から聞こえてきたぞ……そう、例えるなら骨が複雑に粉砕するような音が……。
おいおいおいおい、嘘だろ……?
な、な~んかイヤ~な予感がヒシヒシムンムン漂ってるんですが……。
そ、そんなわけないない! あの師炉極だぜ? 我が国トップの英雄だよ? そんなバカなことがあっていいはずない。ありえないってそんなこと。
でも、ちょっとだけ確認してみようかな。そう、一応ね。ただ見てみるだけ。すっごい音がしたのは事実なわけだし。
俺は柵からそーっと地面を除いてみた。するとやっぱりいました、地面に横たわる師炉極が……、
って墜落しとるんかーい!
見た感じグライダーも気球もなんもなさそうやないかーい!
本当にただ飛び降りただけだったんかーい!
まんま北斗のシンだったんかーい!
……つーか死んじゃった……!?
シンだけに!
いやいや嘘だろ?
俺が追い詰めたせいで転落死!?
まさか、そんな……俺、勇魚になんて言えば――
「足の骨が折れた……。あいててて……くそっ、着地失敗。昔はイケたんだけどなぁ、歳のせいかなぁ……歳なんて取りたくないねぇ、若い女の子を口説くのも難しくなってくるもんなぁ」
師炉極は愚痴りながら匍匐前進みたく腕で這ってその場から逃れようとしている。
て、い、生きてる……!?
ドッコイ生きてるタフなヤツ!!
こいつ、マジモンのバケモンか!?
さすがは英雄……というべきなのか? なんか人間を超越してるような気がするんだけど。さすがの俺でもダンジョン内ならともかくこの高さから飛ぶ勇気はない。
「親方! 空からおっさんが!」
「なんだ男か」
「ママーあれなにー?」
「しっ! 見ちゃいけません!」
「なんかの撮影かな」
「あれ師炉極に似てるな」
「違うっしょ。一眼レフを大事そうに抱えて無様に這いずり回ってるのが本物なわけないって」
「そうだよな。本物の師炉極がそんなにカッコ悪いわけないよな」
憐れ師炉極、おそらく両足がぐしゃぐしゃになってるのに誰も気にかけてもらえないなんて。まぁ、まさか屋上から飛び降りたなんて誰も思わないよな。普通は死ぬし。見てた人もなんかの撮影とかとしか思わないのも無理はない。
……なんて言いますか、ま、生きててよかった。俺は急いで部屋に戻って憐れな英雄……もとい自業自得な盗撮犯のために救急車を呼んでやった。
………………
「よくやった、それでこそ我がむすこだ。今こそお前は本物のキング・オブ・ハート……」
などと意味不明な供述をしながらストレッチャーで運ばれていく師炉極。両足を粉々骨折してても東方不敗ネタなんて余裕あんなこのおっさん。
「まずい! 患者が錯乱している!」
「いかん! 脳機能障害か!? 一刻を争う事態だ!」
「いえ、父はいつもこの調子なんです。ご迷惑おかけして申し訳ありません……」
緊迫した救急隊員たちに勇魚は赤面しつつ深々と頭を下げた。ほんと、変な親父を持つと大変だよな。
とはいえ、その責任の一端は俺にもある。俺が追い詰めたりしなければ、師炉極は無謀なダイブをせずに済み、勇魚がこうして頭を下げることもなかったはずだ。
「勇魚、ごめんな。俺が追い詰めたりしなきゃこんなことには――」
「ううん、能見くんは全然悪くないよ。悪いのは全部お父様だから。むしろ謝るのはこっちの方だよね。ごめんね、バカな父で……迷惑だったでしょ?」
逆に謝られてしまった。謝る勇魚もやっぱりかわいい! 俺は思わず彼女を抱き寄せた。
「能見くん……!」
「勇魚が謝ることじゃないよ。勇魚だって悪くないじゃん。それに勇魚はかわいいし……」
「なにそれヘンだよ……でも嬉しい」
そう言って勇魚はにっこり笑ってくれた。
あ、やばっ……勇魚ってかわいすぎる……!
もうこれ止まりません……!
俺は思わず勇魚の桜色の唇目掛けて自らの唇を重ねてしまった。
「の、能見くん……!」
勇魚の頬も桜色に染まる。
「あ、ご、ごめん! つい……その……かわいくて、チュウしちゃって……ごめん!」
「ふふっ、流行りの歌みたいだね」
「え? あ、たしかに。アッハハ!」
「ウフフ」
キスの後笑い合う二人……これもう完璧青春ラブコメでしょ!? 本作のジャンルってラブコメだったっけ!? ジャンル変更不可避ですね! 間違いない!
「盛り上がっているところ悪いんだけど」
ハッ! と振り向くとそこには参甲小百合子!
勇魚のお母さんにばっちりキス見られとるやんけ!
「お、お母様!」
勇魚の顔が桜色通り越して真っ赤になっちゃってる。多分俺も同じ。
「ほほほ。気にしないで続けてちょうだい。キスくらいでママはうるさく言わないから安心して。だってママもあなたくらいの歳にはそりゃもうね……それはいいとして、ママはこれからパパの付き添いで救急車に乗っていくから勇魚はお留守番お願いね。あ、そうそう、でも避妊はしっかりするよの? 昔の人もこう言っているわ、男は狼なのよ気をつけなさい、と」
「お、お母様ッ!」
そんなことを言って参甲小百合子は救急車に乗った。やがて救急車はサイレンを鳴らして病院へと走り去っていった。
あとに残された俺と勇魚。参甲小百合子の言葉のせいでどこなく気まずい雰囲気になってしまった。
くそぅ、参甲小百合子が登場するまではいい雰囲気だったのに……。娘の前でよくあんなことが言えるよな。まったくとんでもないお母さんだけど、父親の方とは違ってこっちはなんだか憎めない。美人だからかな? 独特の雰囲気のせいかな? なんか笑っちゃうんだよなあ、あの人の場合。
「ごめんね、母が変なこと言って……」
「そんな謝らなくていいって。面白いお母さんじゃん。将来的に俺のお母さんになるかもしれない人があんな面白い人で良かったよ」
「能見くん……」
少しは気の利いたことが言えたらしい。またもやいい雰囲気。そして今度こそ、邪魔するやつはいない。四方六方見渡せど、馬に蹴られて死にそうな人間は見当たらない。
ってことはだ。千載一遇のラブチャンスということですね、はい。
「勇魚、キスしていい?」
「うん、して……」
俺たちは唇を合わせた。
あれ? なんだろう、この感じ……最初の頃よりすっごく気持ちがいい!!
緊張が取れたせいかな? なんだかすごく心が落ち着くし、楽しい気持ちになれる。
ああ、これだよこれ、これが俺の憧れてたキスだよ!
アニメやゲームやマンガはやっぱり正しかった!
ハッピーなキスは最高だ!
もうマジ最高……最高すぎる……幸せだ、俺は今、幸せの絶頂にいる……。
こんなに幸せになれたのも筋肉のおかげだ。
この筋肉があったからこそ、ダンジョンで活躍できたし、大切な人たちを守ることもできたし、世界最高峰のダンジョン冒険者にも認められた。
そして何よりも愛と出会うことができた。
最愛の人、勇魚と結ばれることができた。
俺の屈強な筋肉の繊維が、俺と勇魚を強くつなぎとめてくれている。
やはり筋肉、筋肉が全てを解決する……!
筋肉が全てだ!
筋肉があればなんでもできる!
そう、きっとすべてのダンジョンを攻略し、全人類を救うことだってできる。そして大好きな人との幸せな家庭を築いてやる。
「勇魚、俺が君を守るよ、この筋肉にかけて……」
「うん……たくましくて素敵……」
おい聞いたか? たくましくて素敵だってさ!
やっぱり筋肉だよ! 筋肉があったらモテるんだよ!
かわいい女の子にちやほやしてもらえるんだよ!
そんなわけだから本作を読んだ皆も筋肉をつけよう!
というか筋肉になろう!
そしたらなんでもできるぞ~!
この俺、能見琴也みたいにね。
さぁ、レッツマッスル! ムキッ。
最後までお読み頂きありがとうございました!




