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えんだあああああああいやあああああああああ……アァっ!? 親父が見てるぅ!?

 でもそっか、普通ならこれ困ったり嫌がったり怒ったりするところなのかも。

 もし勇魚がジャイ子だったりラッキーマンの不細工です代だったりしたら、そりゃ俺だって有頂天どころじゃなくガチギレ怒髪天でその趣味の悪い顔面を全身全霊のオラオララッシュで粉砕するところだ。


 がしかし、肝心の勇魚は美人でかわいくて賢いのである。嫌がる要素が皆無なんだよね。

 まぁ、結婚はさすがに行き過ぎではあるんだけど、かわいくて賢い子に言い寄られて嬉しくない男なんて存在し得ないわけで。


「ごめんね、本当にごめんね……こうやって抱きついてるのだってヘンだよね……でも、私、どうしていいかわからなくて……記者会見終わってすぐ冷静になって……それから急に怖くなって……なんてバカなことしたんだろうって……すっごく後悔して……能見くんに嫌われたらどうしようって……好きなのに……大好きなのにもう一生顔を見たり口も聞けなくなったらどうしようって思ったら……もうどうしようもなくなって……うぅぅ……うわぁぁぁぁああんん……!」


 喋りながら勇魚の声が潤んできたかと思うと、突如堰を切ったように泣き出した。


 あの普段しっかりした勇魚が俺の胸で子供のように泣いている……正直キュンですっ!


 これも一種のギャップ萌えってヤツですかぁ!?

 アカン、もう完全に好きになっちゃった!

 俺、マジで恋しちゃったんだ!

 多分勇魚は気付いてないんでしょうけど!


 女の涙は武器と言うけれど、勇魚のそれはハープーン(ミサイルじゃないよ)のように鋭く返しが付いていると思う。まったく大変なものを俺のハートに打ち込んでくれたもんだぜ。だってハートのど真ん中からもう抜けなくなってるもん。


 やられちまったよ勇魚ちゃん……ズッキュゥゥゥン! って恋に落ちる音がはっきり鼓膜を震わせちまったぜ。

 俺は勇魚を思いっきり……抱きしめたいところだがこのゴリゴリマッチョが衝動に任せて本気を出すと、ガラス細工のごとく繊細な勇魚の身体がバラバラになりかねないのでそこはグッと堪えつつ、そっと抱きしめた。力を持つものは常に冷静さが求められるのだ。やれやれ。


「泣かないで。俺、勇魚のことを嫌いになったりなんかしてないよ……むしろ、大好きだっ!!」


 あ、言っちゃった……!

 三行前で冷静さが求められるとか言いながら、抱きしめたら想いが込み上げてきちゃってつい大好きの言葉が口をついて飛び出してしまった。


 でもしょうがないよね、好きなんだからさ。


「本当に……?」


 涙でぐじゅぐじゅになった顔を上げこっちを見る勇魚がチョーカワイイ。やっぱ勇魚はオールタイムかわいいね。こんなん好きにならないほうが無理ってもんでしょ。俺はためらうことなく全力でこの子を愛していこうと思いました。


「本当だよ」


 勇魚の目を見て言った。


「本当の本当?」


 勇魚も俺の目を見て言う。

 見つめ合う二人。


「本当の本当だよ」


「嘘じゃない?」


「嘘じゃないよ」


「本当の本当で嘘じゃない?」


「本当の本当で嘘じゃないよ」


「絶対に?」


「絶対に」


「絶対の絶対に?」


「絶対の絶対に」


「本当の本当で絶対の絶対に嘘じゃない?」


「本当の本当で絶対の絶対に嘘じゃない」


「命かける?」


「命かける」


「本当の本当で絶対の絶対に嘘じゃなくて命かける?」


「本当の(以下略)」


 ら、ラリーが長いィ!!


 どんだけ念を押してくるんだよ。ひょっとして勇魚ってメンヘラのケがあるのかな?


 だとしたらまた一つ意外な一面を見つけてしまったなぁ。

 前にグラが『メンヘラって良くね? 死ぬほど愛されるって男冥利に尽きるじゃん?』なんて能天気なこと言ってたけど、俺は絶対にゴメンだ。現に今勇魚のこと好きなはずなのにメンドクセェって思っちゃったし。


「能見くん、ひょっとして今、他の人のこと考えてる……?」


 やけに無機質な声で言うと、勇魚の目からハイライトがスッと消えた。


 なんでわかった!? 怖い! 怖いよ勇魚さん!


 そんなスクールデイズみたいな目で俺を見ないで欲しい。


 いくら俺が筋肉マッチョでもホラーとかスリラーな展開は苦手だから! マジでビビっちゃうから!


 そういうのが許されるのはあくまでもアニメとかの話であって、現実だと洒落にならないから!


 そもそも相手男だし! 嫉妬の対象じゃないですし!


「えっ!? いや! 断じてそんなことはないぞ! マジで! それに今の俺には勇魚のことしか見えないし! 勇魚のことしか考えられないし! 勇魚しかいないし! 勇魚がオンリーワンでナンバーワンだし! 勇魚しか勝たん!」


「本当に?」


「本当だよ」


「本当の本当に?」


「本当の本当だよ」


 以下十数行省略。


 お見せするまでもない面倒くさいだけのやりとりの後、ようやく勇魚の目にハイライトが戻った。


 だが次の瞬間、勇魚はとんでもないことを口にした。


「証拠、見せて欲しいな……」


 勇魚はそう言うと、潤んだ目を閉じ、かわいらしい唇をぷっくりと突き出した。


 これは……つまりそういうことですか!?


 キテレツ大百科のED的展開……!

 つまり……はじめてのチュウ……!


 なるほどたしかに、昨今は証拠もなく証言だけで人を吊るし上げられるくらいには軽率な言葉も頭ごなしに信じられてしまう時代ではあるが、そんな世の中だからこそやはり一番大事なのは何よりも動かぬ証拠だろう。論より証拠って言葉もあるくらいだしね。


 君の心がわかると

 たやすく誓える男に

 なぜ女はついてゆくのだろう


 と中島みゆきは言うが、勇魚は口先だけの男を信じてしまうようなそのテの甘い女の子じゃないってことだ。愛という感情の中にもしっかりとした論理性を失わない勇魚のそういうとこ俺、好きだぜ?


 『はじめに言葉ありき』は立派な言葉だとは思うが、何より人間が信ずるに足るのは言葉より行動だ。行動の伴わない言葉じゃダメなんだ。

 言語の存在しなかった時代の人間たちは、その行動をもって信頼関係を築いたはずだ。逆に空虚な言葉が蔓延る現代であっても、口だけ野郎は信頼もされなければ軽蔑の対象でしかない。


 つまるところ俺は今ここで男を見せなければならないってこと。


 『愛してる』を言葉でなく行動で示すのだ。


 勇魚の持ち上げられた唇に相応しい行動は一つしかない。


「いいの……?」


 行動のために今一度言葉で確認を取る。


 ここは黙ってブチュッ! ってしたほうがかっこいいのかもしれないけど、ほら、俺って童貞じゃん? 彼女もいたことないじゃん?


 要するに今からすることも初めてなわけですよ。だから慎重になっちゃうよね。いちいち言葉で確認するのもクドいしサムいし、空気読めてないとは自分でもわかっちゃいるけどさ、でも大事なことだし? 万が一ってこともあるし? 俺チェリーだし? ってことで勘弁してくれ。


 コクリ、勇魚が頷いた。

 確認がとれた。

 ゴーサインだ。

 覚悟の時間だ。


 俺は静かに鼻から空気を一気に吸い、ゆっくりと吐き出した。

 よし、覚悟完了。


 琴也、イッきまーす……!


 緊張の瞬間だ。

 胸がバクバクドキドキいってる。

 手の震えもジャミル・ニートばりに止まらない。

 つばを飲み、呼吸を整える。

 じりじりゆっくりと勇魚の唇に自らの唇を近づけてゆく。

 大写しになる勇魚の顔。

 ぷっくりとした唇。

 ほんと綺麗だ。

 どの距離で見てもかわいい。


 そんな子に今からキスするのか……!

 やべぇ、死ぬほど緊張する……!


 ビビるな、ビビったら負けだ。


 たかが口と口をくっつけるだけじゃないか。誰でもやってる。もちろん俺もやれる。大丈夫、大丈夫だ。そう、そっと肩を持て。いいぞ、いい感じだ。緊張しすぎて勇魚の肩の感触がさっぱりわからんが仕方がない。今だけってわけじゃない。そこはもっと経験を積んでからゆっくり堪能しよう。あとはもっと口を近づけてゆくだけ。そう、ゆっくりと……強く当たらないように……。あ……もうすぐだ……あと数ミリ……目を閉じて、そっと……、


 プニュッ。


 とした感触があった。


 チュッ! でもなければ、ブチュッ! でもないプニュッとしたインパクト少なめななんとも言えない微妙な感触。


 あれ? こんなもん?


 これが正直な感想。なんかもっと感動的な体験かと想像してたけど、実際はかなり地味。いや、ちょっとは感動してるよ? 間違いなく嬉しいよ? なんたってあの勇魚とのチュウだから。でもアニメとかラノベとかゲームで期待感高まってたからなぁ、ちょっと拍子抜けしたといいますか……。


 むしろいまギュッとくっついてる胸の膨らみの感触のほうが俺としては非常に嬉しい……っていかんいかん! ロマンティックの最中なのに俺はなんて邪なことを考えてるんだ!


 しかも相手は勘のいい勇魚だぞ。余計なこと考えてるとすぐ察して詰めてくるんだからちゃんとキスに集中しないと。あんなメンヘラみたいな無駄に長いやりとりはもうゴメンだ。いくらマッチョでも疲れちゃう……でも、リアルの愛情って結局はこういう地味なものの積み重ねなのかもしれないね。なんて、ちょっぴりオトナぶったりしちゃって。


 と、そのときだった。


 パシャ! パシャ! パシャ!


 薄目を開けていた視界の端で連続して閃光が走った。


 すわ網膜剥離か!? 俺はびっくりして目を開け閃光の方を見ると、そこにはご立派な一眼レフを持った師炉極の姿が!

面白いと思った方、ブクマ、評価お願いします! モチベに繋がりますので!

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