俺と勇魚が婚約!? てやっぱり師炉極、貴様の仕業か!!
しかし大したアジ演説だ。あの長々とした演説でここまで人々を惹き付け熱狂させる姿はまるでトップアイドル……いや、カリスマ独裁者か。そういや、かのちょび髭も演説で大衆の心を掴みまくってたなぁ。まさか、俺を神輿に担ぎ上げることでさらなる権力の高みを目指してるんじゃないだろうな?
ははっ、そんなまさか、いかに師炉極でも……うん、あり得るな。あいつならやりかねん。
演説内容には正直なところ感動もしたし納得するところも多々あったけれど、だからといってやつの傀儡になるつもりは毛頭ない。それになんだ師炉琴也って。他人を勝手に師炉ファミリーに入れるなよ。小室ファミリーじゃないんだから。
参甲小百合子みたいな若々しくてキレイで何よりも目を剥かんばかりの均整の取れたナイスなバディのお母さんはウェルカムだし、赤ちゃんになったつもりであの陶器のように美しく綿あめのみたいに柔らかそうなお胸にルパンよろしく飛び込んで文字通り溺れ死ぬほど甘えたいけど、もう一つのおまけはいらねー。師炉極みたいなイカレ親父は断固いらねー。
リアル親父だってちょっと変でそこそこ持て余してるのにこれ以上おかしな父はノーサンキュー。
あ、もちろん勇魚みたいなかわいい女の子が妹か姉になってくれるのは当然大歓迎だ。
勇魚に「お兄ちゃん」なんて呼ばれたらそれだけで憤死できるな。
今でさえ守りたく存在なのに、妹になったらそりゃもう命がけで守りまくりですよ。
勇魚みたいなかわいい妹のためなら死ねる! マジで!
待てよ、勇魚がお姉ちゃんでもロマンがあるな。
「お姉ちゃん」て呼んでみたりしちゃって!
勇魚お姉ちゃん、うーんいい響きだ。
それに勇魚は優しいからお姉ちゃんだったらきっともっともっとめっちゃくちゃに甘えさせてくれそう。
勇魚お姉ちゃんにあーんとかして欲しいし、苦手なピーマン食べられたらいっぱいナデナデして欲しい!
ファービーのごとくナデナデして欲しい! ナデナデシテー! ナデナデシテー! 許されるならば全力でバブってオギャりたい!
ってバブオギャじゃお姉ちゃんじゃなくてお母さんだな……ん? それもアリじゃね?
勇魚にママみ……なるほど、そういうのもあるのか。
マッチョメンが自分より遥かに小さな女の子にママみたいに愛され、子守唄で眠り、おむつを替えてもらう……倒錯的だが甘美な快楽がそこにはある……!
そうか、勇魚は私の母になってくれるかもしれない女性だったのか!
あっ! でも兄妹とか母だったりすると勇魚と結婚できないじゃん!
それどころかお付き合いも!
なんてこった! マッチョ痛恨の不覚!
いや、しかし血の繋がらない姉弟とか義母義子の禁断の愛というのもまた……ってさっきから何を考えてるんだ俺は。アホの会見の見すぎでアホが感染っちゃったな? 昔の人はテレビを見ると馬鹿になるとか言ってたそうだが、その意味が身にしみてわかった気がする。
なんか喉が乾いたな。そういや、起きてからまだ何も飲んでなかった。そこでちゃちゃっと冷蔵庫を開けてキンキンに冷えた瓶を取り出す。じゃじゃーん、コ~ラ~(ドラえもん調で)。やっぱ朝はコーラっしょ。朝コーラ、炭酸と糖分とカフェインが効くんだこれが。
キリリと蓋を開けて黒くて冷たくて甘~い液体を喉に流し込む。美味い!(テーレッテレー♪)ねるねるねるねのあのセリフとあのSEが頭に鳴る。そんな感動的な美味さ。味わいつつ、記者会見の続きを見ていると、
「ナイスなコール・アンド・レスポンス最高だぜーーーッ!! みんな、ここまで付き合ってくれて本当にありがとね! 寂しいけどそろそろ時間なんで会見は終わり……おっと忘れてた」
急にアイドルモードからキリッといつもの爽やかなイケメン面に戻って、
「我らが次世代の英雄、師炉琴也は既に結婚が決まっている。相手は我が愛娘、勇魚ちゃんだ」
「ブーーーーッ!!!」
師炉極のビックリドッキリ爆弾発言に、俺は飲んでいたコーラをマーライオンのごとく盛大に噴き出してしまった。
今、なんつった……?
今、俺の結婚が決まってるって言ったか?
それも相手は勇魚ちゃんだって?
ここで今朝の母からの電話を思い出した。
「琴也、あんた結婚するんだって!?」
あ、これかぁ!
両親が言ってたのはこのことか!
記者会見の内容にばっかり気を取られて、このことをすっかり忘れてた。
そしてやっぱりって感じ。おかしなことの裏には常に師炉極の影ありってこと。
「正確には婚約状態と言ったほうがいいね。まだ結婚できる年齢じゃないからね~。でも、我が愛娘勇魚ちゃんと師炉琴也くんは既にそれはもう大層仲睦まじくてとっても良い仲なんですよ。だから余人の入り込む余地はナッシング! 二人はもうオリハルコンより硬く、晴れ渡る秋天のごとき清らかな純愛によって結びついているのだ! もし無謀にも二人の間に毒牙を差し込み、愛を引き裂かんとする女狐、女豹、泥棒猫の類がいれば、俺は俺の持ちうる権力の全てを懸けてそいつを社会的に抹殺することをあえて前もってここに宣言しておく!! だから世のお嬢さん方、決して我が婿殿に手を出すべからず!!」
関白宣言ならぬ親バカ宣言か。バカ親が親バカを遺憾なく発揮してるその隣で勇魚が頭を抱えている。
わかる、わかるぞ勇魚、親のバカな姿って超恥ずかしいよな。うんうん、非常にわかる。マジでわかりみが深すぎる。
しかし師炉極は一体何を根拠に、いや、何が理由でこんなことを記者会見のシメにのたまうのだろう? 全く意味がわからない。
たしかに俺は勇魚が好きだ。
でも勇魚はどうなんだろう?
俺のこと、好きだと思ってくれてるのかな?
ダンジョン攻略を通じて勇魚との間に二人にしかない絆も生まれたとは思うし、かなりいい雰囲気にもなってたと思う。でも、まだ決定的なものは何もないんだよなぁ。身体が触れ合ったくらいでキスもしてないし、彼女の気持ちをはっきりと口にされたわけでもないから、俺たちの関係をラブコメで例えるならまだまだ序盤の序盤。少年ジャンプなら打ち切りの八週を抜けたくらいの進展具合でしかない。
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