独裁者は演説がお好き
「いくらステータスが高いからといってそれだけで特例は認められないのは普通では?」
「三十分でダンジョンをクリアしたとはいえ、まだ一つだけでしょ? ガイドラインに照らし合わせたら仕方がないよね~」
「ルールがそうなってるからな。いくら師炉極でもルールは守らないといけないでしょう」
「むしろ何故あの師炉極がわざわざ無名の冒険者に入れ込んで便宜を図ってるのかがわからない」
「名字が同じだから親戚の子なんでしょ。典型的な身内贔屓だな」
「なるほど、かの英雄も人の子だったってことか」
記者たちが口々に好き勝手言い出した。俺、師炉極の親族でもなんでもないただの赤の他人なんだけどな……と思ってると、師炉極がまたと机をバンッ! と叩いた。
「この師炉極が私利私欲とか身贔屓のために自分の立場と権力を濫用していると思ってるのかァーーーーーーー!!」
割れんばかりの凄まじい怒号が響いた。実際に音割れしてた。び、ビックリした……。思わず身体がぴょんってなっちゃった。いい大人のあんなブチギレ絶叫ってかなり恐いよね。でもちょっと岸辺露伴ぽくて面白といえば面白い。
会場は何度目かのし~ん。顔を真赤にした師炉極のはぁはぁと荒い息だけが聞こえてくる。
「あなた」
隣の参甲小百合子が夫に水を差し出す。さすが糟糠の妻。礼を言って受け取った師炉極は水を一気に飲み干した。
「取り乱してすみませんでした」
冷静を取り戻した師炉極はもういつもの爽やかな顔に戻って記者たちに向かって深々と頭を下げた。顔をあげると、真剣な眼差しをカメラに向けて口を開いた。
「皆様も知っての通り、人類の存亡をかけた超高難易度ダンジョンの攻略は実績、すなわちランクが重要視されます。世界規模のダンジョン攻略への参加はランクA級の上位からがほとんど絶対条件となっており、これに当てはめると実績の無い師炉琴也は大規模ダンジョン攻略に参加できません。それに値するだけの実力があるにも関わらずです。
ダンジョン攻略はたとえ一般的なダンジョンであっても命をかけた冒険です。それが超高難度ダンジョンともなると個人の生命のみならず、人類の存亡をかけた戦いであります。人類の存亡をかけた戦いであるならば人類最強の戦士が参加すべきなのは当然なのですが、先程も申し上げたように現在の『ギルド』のガイドラインでは世界最強の冒険者が世界最大の戦いに参加できないのです。
『ギルド』は『飛び級』を認めておりません。『ギルド』は巨大な組織にありがちな前例主義に堕してしまっているのです。
悪しき前例に従っていては、彼が彼に相応しい戦場を得て人類に貢献するためには『ギルド』のガイドラインに従って地道にランクを上げるしかありません。ですがそこにも問題があります。いえ、それこそが問題であり一大事なのです。なぜなら現在のガイドラインに則れば彼が世界規模のダンジョン攻略に参加できるようになるのは最短でも数年も先のことになってしまうからです。
圧倒的な実力を持ち、今すぐにも人類に貢献できるにも関わらず、今のままだと彼はそんじょそこらの新米冒険者と同じように時間をかけてゆっくりとランクを上げなければならないのです。
そんな悠長なことでいいのでしょうか?
ダンジョンは今も膨張し、我々の世界を侵略しているのに?
優秀なダンジョン冒険者たちが彼の助けを得られず今も苦闘を強いられているというのに?
否! 良いわけがない!
強力な兵器を持ちながら敢えて使わずに滅びを待つのは愚の骨頂!
遭難者がそこいらに食べられる植物があるのを知らぬままに餓死する無知にも似た滑稽な愚行!
『栄光の未来を勝ち取るのは過去から学び今を必死に生きる者である』、これは古代の賢人ユリタンディウスの言葉です。私はこの賢人の言葉に従い、人類のために『ギルド』に固陋の悪習を打ち破るべく一つの計画を立てました。
それは急成長期ダンジョンの攻略です。
皆様も知る通り、急成長期ダンジョンの攻略は前例がありません。未だ誰も到達せぬ未踏峰でありました。特例を認めぬ前例主義者には前例にない手段をもって実力を認めさせるしかない、そう考えた末の計画でした。
私は人類を守護するS級冒険者として常に人類のためを思って行動してきました。今回の計画を立てたのも、私が彼に尽力するのもひとえに人類の未来を思ってのことです。私、師炉極は私利私欲でこれらを申しているわけではないことをどうかご承知いただきたく思います。
いえ、私のことなどはどうでもいいのです。私はどう見られようが一向に構いません。ですが、彼をそのような邪な目で見るのは止めていただきたい。これはお願いではありません。皆様に対する老婆心であり忠告です。
なぜならば彼は私を継いで英雄となり勇者を冠する男です。たとえ私の後援がなくともね」
師炉極がそこで一旦言葉を区切り、息をふーっと吐いてからニヤッと意味深な笑みを浮かべてまた口を開いた。
「あのステータス、見たでしょ?
バグってんのかってくらい強いんだから、そう遠くない未来に全冒険者の頂点に君臨するのは当然だよね?
んで、強さって権力に結びつくでしょ?
圧倒的強さ=圧倒的権勢になるのは想像に難くないよね?
この師炉極もちょっとした権力でさ、マスコミや政治家にちょっと物申したりできるんだけど、あえて言うよ? 彼、師炉琴也は俺以上の権力を手にするよ? 間違いなくそうなってしかるべき実力があるんだよ。この世の王と言っても過言じゃないかもね。
ということはさ、将来圧倒的な強さをもって圧倒的な権力を持つ彼に、ネガティブな態度をとったり発言するとどうなるだろうね?
むしろポジティブな態度と発言を心がけたほうが彼の心象が良くなることは言うまでもないよね?
どっちの態度のほうが身のためになるか少しでも脳みそがあったらわかるよね?
時の権力者に楯突いて得することがあるか? 千利休は秀吉とケンカしてどうなった? つまりはそういうこと。
あー、一つ勘違いしてほしくないのは、何も忠誠心を強要しているわけじゃあないんだよ。単に損得なんだよ。メリット・デメリットの話ね。
ここで一つ多大なメリットの一例を示そうか。まず現代は『大ダンジョン時代』と言っていいくらいダンジョンを中心とした世界だ。そのダンジョンで誰も太刀打ちできない絶対的な強さがあれば、それはもう世界に君臨したも同然だよね。
その世界に君臨したのが我が国の人間だとしたらどうだ?
それは世界に対して我が国の発言力が絶対的なものとなったも同然だよ?
すなわち彼の活躍=我が国の地位向上になり、しかるに我が国が世界のイニシアティブを握ることになる。
我が国が世界のイニシアティブを握れば外交、経済、軍事、領土問題、あらゆる面で享受できる多大なメリットがあるのは間違いない。そしてそれは民間レベルにおいても実感できるはずだ。例えば商取引とか関税の面で非常に有利となるのは想像に難くない。
そんなウハウハでウマウマでバブリーな時代が早く来て欲しくはないか? 栄光と希望に満ち溢れる時代が欲しいなら、国民一同、今すぐ彼を応援すべきってそろそろわかってきたよね?
我が国は民主主義国家だ。国民が望めば国が動く。君たちが師炉琴也を支持すればするほどそれだけ国が推すようになる。そうなれば今度は国が総力を上げて『|世界ダンジョン対策委員会』に対して彼をバックアップするようになる。彼に対する不当な扱いを改善すれば栄光の時代はすぐそこだ。君たち国民の絶対的な支持さえあればその分栄光の時代の到来も早まるってわけだ。
さて、ここまで言えばもう充分だろ?
今一度聞く、君たちは彼、師炉琴也を支持するか? 彼と共に栄光の時代を過ごし、恩恵を享受したいか? どうだ?」
一瞬、静まり返って、そのあと俺を支持する言葉が記者席からちらほら聞こえてきた。
「声が小さーーーい!!!」
師炉極が一喝した。
「し、支持します……!」
「はい……!」
「師炉琴也さんを応援します……!」
「まだまだ声が小さいぞー!!!」
「支持します!!」
「彼に従います!!」
「筋肉サイコー!!」
「よーし、もう一声!!!」
「支持します!!!」
「マッチョ!!! マッチョ!!!」
「筋肉サイコー!!!」
「おーし、じゃ、声を合わせていこうか!!! 筋肉サイコー!!!」
「「「「「筋肉サイコー!!!」」」」
「次の英雄は???」
「「「「「師炉琴也!!!」」」」
「そして俺は???」
「「「「「師炉極!!!」」」」
「次の英雄は???」
「「「「「師炉琴也!!!」」」」」
「ジーク師炉!!! ジーク師炉!!!」
「「「「「ジーク師炉!!! ジーク師炉」」」」」
「栄光の時代だ!!! ジーク師炉!!!」
「「「「「ジーク師炉!!! ジーク師炉」」」」」
「皆でハッピー!!! ジーク師炉!!!」
「ジーク師炉!!! ジーク師炉極!!!」
「「「「「ジーク師炉!!! ジーク師炉」」」」」
なんだこれ……なんかコールが始まったんですけど。ここはアイドル師炉極のソロライブ会場ですか?
面白いと思った方、ブクマ、評価お願いします! モチベに繋がりますので!




