師炉極、失言したりいきなりキレたりと大暴れ。あとセリフ長すぎ。
「あ、あの、おそらく我々の反応でお分かりとは思いますが、ここにいる我々の全員がこの筋肉さんのことを知らないのですが……ご自身がそうであるように、冒険者として強くなればなるほどそれに伴って知名度も高くなりますよね? しかるにそこの筋肉は誰にも知られていません。果たしてそんな無名のムキムキ野郎が本当に世界最強の冒険者なのでしょうか? ちょっとにわかには信じられないのですが。なにか証拠のようなものがあればそれを今ここで見せていただくことはできますか?」
「仰るとおり、彼は無名です。なんせ彼はつい先日まで学校の授業以外ではダンジョンに潜ったことすらない、いわゆるダンジョン童貞でしたからね。彼がダンジョン童貞なら私はダンジョンヤリチンかな? ナハハハハハ」
ざわつく会場。画面の下に小さい文字で『不適切な表現がありましたことを深くお詫びします』とテロップが出ている。
さすがに生放送でその発言はどうかと思うぞ。バラエティならいざしらず、一応マジメな記者会見なんだからさ。
ほら、隣の勇魚が赤面して俯いちゃったじゃないか。でもそんな辱めを受けている勇魚もやっぱりかわいい。女の子が羞恥に顔を赤くするのってなんであんなにかわいいんだろうね? 嗜虐心をくすぐるような、庇護欲を掻き立てられるような、矛盾した複雑な感情が沸き起こるよね。
ちなみに反対隣の参甲小百合子はいつもの澄まし顔で微動だにしていない。さすが師炉婦人、夫の失言には慣れっこか。それともただ同類で似た者夫婦なだけか? あの旦那にしてこの妻ありってか。
「そ、そんなのが本当に世界最強なんですか!? ますます信じられません!」
一人の記者が叫んだ。同感だ。本当に俺は世界最強なんだろうか? ぜひその点について師炉極の考えを詳しくうかがいたいところだ。
「彼は昨日初めて学校外でダンジョンに潜りました。そこで何が起こったと思います?」
師炉極のニヤリとした笑みに、会場はしーんと静まり返った。期待通りの反応だったのか、静寂に満足した面持ちで手前のテーブルに両手をつき、キラキラと目を輝かせて一同を見据えた。
「彼はわずか三十分でダンジョンをクリアしたのです」
さらに沈黙。三十分でクリアなんて常識ハズレの発言に、皆言葉を失ったらしい。
というよりこの場の誰も信じられず呆れて声もでないっぽい。だって三十分はそもそもウソだもんな。実際のところは一時間とちょっとかかってる。それでも早いんだけど、さすがにタイムを半分ちょろまかすのはちょっと盛り過ぎだ。ま、本当のタイムも大概なので、どうせ信じてもらえないなら盛りまくってやろう、くらいの発言なのかもしれないが。
さっきより硬質の沈黙に包まれ、固まった記者たちを眼前に眺め満足そうな師炉極はさらに口角を上げて言葉を続けた。
「信じられませんか? 信じられませんよね? ダンジョンをわずか三十分でクリアなんて。テレビアニメたった一本分ですもんね? でも事実なんです。もちろん証拠もあります」
師炉極は<デバイス>を取り出した。
「こいつの『データロガー』にしっかり記録されております。この記録は『|世界ダンジョン対策委員会』での精査の後、遠からず世界ダンジョン対策委員会、通称『ギルド』』から正式に公式記録として全世界に公表されると思います。その時をぜひお楽しみに!」
「し、信じられない……!」
「証拠があると言っても、今それを確認できないのではなぁ……」
「三十分でクリアなんてありえない……常識的に考えられない……たしか今までの世界記録は中規模ダンジョンで約一週間だったはず……」
「さすがになにかの間違いだろう……あの師炉極も耄碌したか……」
「そんな馬鹿な話、今どき子供だって信じないぞ……」
「詐欺かな? 怪しい商売のセミナー始まってるのかな?」
会場がひそひそざわつき出した。誰も師炉極の言うことを信じないご様子。そりゃそうだろうな、だって三十分はウソだし。でも、本当のことを言ったところでそれも多分ウソ扱いだろうな。三十分が一時間とちょっとになったところで、異常な短時間クリアであることには変わりはない。
「おやおや、どうやら皆様私の言葉を信じてもらえないご様子ですね。あぁ、情けない。不肖ながらこの師炉極、人類のために粉骨砕身しダンジョン攻略に励んではや二十余年。微力ながらも世界に貢献し、その功績を認められたが故の現在の地位と名誉を得られたのだと自負し、誇りにも思っておりましたが、どうやら皆様の信用を勝ち取るまでには至らなかったようだ。とんだ思い上がりでしたね。いやはやお恥ずかしい……」
まるで舞台役者みたいに大げさにがっくり肩を落としてため息をつく師炉極。落ち込んで見せているのはあくまでポーズで、その実言わんとしていることは痛烈な皮肉だ。
今まで人類のために頑張って世界を救ってきた英雄の言葉が信じられないのか? 師炉極はそう言っている。
一ファンとして師炉極の言いたいこともわかる。ま、でもだからと言って信じろってのも無理な話だ。俺だって自分のことじゃなかったらまず信じないもんな。
話は信じてもらえないのに皮肉はばっちり伝わったらしい、会場はしんと静まり返った。
「あなた……」
隣の参甲小百合子が師炉極になにやら耳打ちする。ふんふん、と何度か頷いた後、師炉極は、
「なるほど……!」
とポンと手を打った。師炉極は笑みを浮かべて手の<デバイス>を操作した。
「えー、皆様。ダンジョンを制覇した記録はまだお見せできませんが、代わりに師炉琴也のステータスをご覧に入れたいと思います」
師炉極が笑みを浮かべると、今まで俺の全裸が映っていた画面がパッと切り替わり、俺のステータスが表示された。
能見琴也
レベル:18
クラス:筋肉
ステータス:異常なし
体力: 99221138
スタミナ: 88793224
魔力: 0
物理攻撃力:100065437
魔法攻撃力: 0
物理防御力:103690002
魔法防御力: 0
スキル:<魔力筋> <龍殺し>
ダンジョン攻略前の古いステータスにもかかわらず、会場が盛大にざわついた。
「なんだこれは……!?」
「なんてステータスだ!」
「フェイクじゃないのか!? 見たこともない桁だぞ!」
「ステータスのクセが凄いィ! 物理に偏り過ぎなんじゃぁ!」
「というよりなんだそのクラス:『筋肉』ってふざけてるのか!?」
「スキルの<魔力筋>もおかしいだろ!? そんなアホみたいな名前のスキルあるわけないだろ!」
懐かしいなぁ、俺も全く同じ反応だったよ。今こうやって見てもやっぱりクラス:筋肉は意味不明だし、<魔力筋>もダサいよな。でも、それがフェイクでもなんでもない、動かすことの出来ない厳然たる事実であり現実なんだよなぁこれが。
「フェイクでも捏造でもなんでもありませんよ。これはマジのガチの大真面目に本当の話です。大体、自らの引退記者会見の場で皆様を集めて悪ふざけに興じるほど、私は暇じゃないですよ」
記者会見という公の場で妻も娘も傍にいるのに下ネタを言って一人呵々大笑してた人の言うこっちゃない。
「これが事実ならたしかに凄い! 既にS級ランクの師炉極をして自らを越えていると言わしめるだけのステータスはある……! 」
「どうです? 圧倒的でしょう? 魔力はからっきしですが、一方物理は文字通り桁違いの力です。私でもせいぜい物理攻撃力は1000台なのに彼は億の桁ですよ? もうチートでしょこれ。なろう小説くらいやり過ぎでしょ。さっきも言いましたがもうとっくに私なんか越えてるわけですよ。これだけ物理攻撃力が高いとほとんどの敵を一撃で倒せますからね。無双状態ってやつです。ですからこのステータスが判明した時点で私と『ダンジョン攻略研究調査室』は『|世界ダンジョン対策委員会』に彼のステータスを送って上位ランク認定を貰おうとしたのです。チート級のステータスなのに『|世界ダンジョン対策委員会』の設定したランクアップ規定に沿っていちいちちまちまとランク上げするのは無駄ですからね。天才小学生が飛び級せずに足し算から学ぶくらい無駄無駄無駄無駄無駄ァァァッッ!!! 誰だって無駄は嫌いでしょ? 私だってそーです。でもね、『|世界ダンジョン対策委員会』は拒否しました。飛び級制度はないそーです。例外は認められないとかほざくのですよ! 実績がないってだけで! こんなのっておかしいよ! 全くドタマの固い連中だと思いませんか!? ねぇねぇ、どう思います!?」
ドンッ! と机を叩く師炉極。なんか急にキレだした。恐い。この人って時々情緒不安定だよなぁ。一回病院連れて行った方がいいと思う。ほら、男性の更年期障害かもしれないし。
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