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効かねぇ! 筋肉だから!(ドン!)

「アハッ☆ どう? どんな気分? どんな感じィ? 苦しい? 気持ち悪い? 辛い? ねぇねぇ? 我慢してるの? 頑張ってるのぉ? 泣きたかったら泣いてもいいんだよ~ぅ? キャハハハハッ☆」


 めちゃくちゃ煽ってくる。

 どうやら俺が苦しんでるのを我慢しているように見えているらしいが……実際のところはぜーんぜん苦しくもなければまったくキツくない。全くの無。ノーダメージってやつ。


 たしかに締め上げられている感覚はあるんだけど、おしくらまんじゅうほども圧を感じない。どうやら俺の筋肉はこの程度の圧力くらいじゃびくともしないらしい。


 だから全然余裕なんだけど、しかしここで余裕ぶってるとまた次から次へと新たな拷問を食らいそうなので、ここは苦しむ演技をしたほうがいいかもしれないな。

 今まで生きてきて演技なんかしたことないけど、ま、多分大丈夫っしょ。同じマッチョのシュワちゃんやスタローンだって数々の作品で主演張ったわけだし。


 というわけで、いっちょやってみますか。


「うわー、苦しいよー、辛いよー、キツイよー、たすけてー」


 やってみて血の気が引いた、俺、演技が酷すぎる。棒読みってレベルじゃねーぞ。立派に大根過ぎておでんに最適なほど。プロデューサーや事務所がゴリ押す三流アイドルの演技でもここまで酷くない。もうゴリ押し系大根演技役者のこと笑えないわ。


「うぅん……? ねぇ、本当に苦しがってる?」


 メスガキが疑惑の目線を投げてくる。

 くそぅ、バカの癖して意外に鋭いな。

 いや、むしろ俺のクソ演技ですぐに察せないあたりやっぱり鈍いのか?

 それはともかくここで悟られるわけにはいかない。


「な、ななな、な、何を言ってるんですか!? ぼ、ぼ、僕めちゃくちゃ苦しいですよ!? だってこんなに大きくて立派な手で万力みたいに握りしめられてるんですからそりゃもう苦しいですよ!! あいててててーーー」


「う~ん……なんか思ってたのと違うけど、ま、いっか☆ あハハハハ!!! もっともっと苦しんんじゃえー☆」


 よかった、メスガキがバカ鈍くて。

 あいててててーーー、なんて自分の口から飛び出したときには酷すぎる演技に内心絶望しかかってたけど、なんとか切り抜けられたみたいで一安心だ。


「うぎゃあー、いたいよー、こわいよー、くるしいよー。おかあさーん」


「きゃッハハハハ!!!! もっともっと苦しめー☆ 今度は雑巾絞りしちゃおっかなぁ? ねぇねぇ、雑巾絞りしていい? 止めて欲しい?」


 雑巾絞りというと、ガキの頃罰ゲームで食らったことあったなぁ。あれは二の腕だったけど、今回はおそらく全身だ。


 あれ、結構痛いから嫌だなぁ。全身版なんか特に痛そうだしちょっと恐い。でも今の俺には拒否権がないので甘んじて受けるしかない。あとはこのムキムキボディのタフさだけが頼りだ。


「やーめーてーくーれー」


「あッハ☆ じゃ、やーめーなーいっ! あヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!! でも、安心して死なない程度に苦しめてアゲルから☆ だってすぐ殺しちゃったら面白くないもんねー☆ 殺すのはイジメていたぶって絞るだけ絞りとってからだからね! わかったぁ? きゃハハハ!!!」


 巨人の両手が俺を掴み、ギュッと捻ってくる。


 が、やっぱり全然痛くもなんともない。俺の鋼を越えたゴリゴリのカタカタバキバキボディはその程度の力ではビクともしない。


「あれ……? アンタひょっとして効いてないんじゃ……?」


 しかしそれはそれで問題だった。硬すぎてまったく捻れない俺の身体にメスガキ今ようやく違和感を覚えたらしい。

 咄嗟に俺は自ら身体を捻って演技した。よし、これでオッケイ。これならバレな――


「逆ゥーーー!! アタシが捻った方向となんで逆にねじれてるの!? アンタ、わざとやってるね!?」


 俺、痛恨の凡ミス。ついうっかり敵の力に逆らって逆方向に身体を捻ってしまった。


「い、いやいやいや! 効いてるって! ほら、もうバッチバチに効いてるから! 見て見てこの捻られ具合! 雑巾みたいっしょ!?」


「嘘つきっ!!! じゃあなんで最初に力を入れたのと逆の方向に捻れたんだッ!! だいたいねぇ、そんなに捻れながら元気一杯に喋ってるのもおかしいの! 雑巾絞りされてるのに平気で喋れるのは効いてない証拠! ハイ、論破!」


「ぐぬぬ……」


 あんなアホメスガキに簡単に論破されてしまった。情けないことに反論の余地もねぇ。


「てことはこのクソ筋肉、最初からずっとアタシを騙してったってこと……?」


 あ、やばっ、そこに気付くとはやはり天才か……!


 いや、全然天才じゃないわな。むしろ俺のクソ大根演技ならもっと早く気付けよ。自分で言うのもなんだけど。


「クソ筋肉ッッ!!! よくもよくもよくも!!! アタシを騙してくれたねーーー!!! アタシが楽しんでいるのを心の中でずっと笑ってたんだな!!?? クキーーーーー!!! 殺してやる!! このアタシに恥をかかせたクソ野郎には同じだけの屈辱を与えてやるゥ!!! 覚悟しろォォォォ!!!!」


 ヤバい……顔真っ赤にして鼻の穴全開でめっちゃブチギレてる……!

 悪魔ってより鬼婆って感じだ。まんが日本昔ばなしに出てくるタイプのやつ。


「フー……! フー……! まずはこの女の両目を抉ってやるゥ……!」


 メスガキがニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。

 薄気味悪さと意地悪さに俺の背筋に冷たいものが走った。


「やめろっ!!!」


「やめるか!! アタシを騙したお前が悪いんだよ!! きゃッハーーー!!! 悔い改めろこのクソカス筋肉ゥゥゥ!!!!」


 狂気の哄笑を轟かせ、メスガキが鋭い爪の生えた手を、あえて俺にまざまざと見せつけるかのように高々と振り上げた。


 マズい……! 勇魚が……!


 背筋を凍りつくような冷たさが駆け抜けた。

面白いと思った方、ブクマ、評価お願いします! モチベに繋がりますので!

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