きたない悪魔さすが悪魔きたない
勇魚はまず自分にではなく俺にスキルを使ってくれた。なんて優しい子なんでしょう! 戦場でも自分より他人を気にかけるなんて、なかなかできることじゃない。俺も見習わないとな。
だから俺は勇魚を守るべく、素早く彼女の元に跳躍しその身体を抱き上げるとすぐにもう一跳躍し、炎の雨から逃れた。
「逃さん!!! 筋肉クソ野郎の姿焼きにしてアゲルぅぅぅッ!!!!」
狂ったように身を振り乱し、全身から血を雨あられと振りまくメスガキ。
やれやれ、だ。そんなもんが俺に、この筋肉に通用すると思ったら大間違いだ。
俺は勇魚を抱えたまま、さっきより強く跳躍した。グリコは一粒で三百メートルだが、俺は軽くひとっ飛びでも五百メートルはいける、と思う。測ったことないから正確じゃないけど、多分それくらい余裕でいってる。
着地地点からメスガキ悪魔巨人を見ると、あの巨大な木偶の坊がここからだと小さく見える。
「凄い、本当に凄いね、能見くんって……」
腕の中の勇魚が感動と驚愕と困惑の混じった顔を向けて言った。
「それに比べて私って、全然役に立ってないよね? ごめんね、足引っ張ってばかりで……」
自嘲するように微笑む勇魚。
だが、それもまたかわいい!
庇護欲掻き立てられて胸がキュンキュンきちゃうね!
この子は絶対に守ってあげないと! やるっきゃナイト! って気分にしてくれる。
それにこのシチュエーションも俺が望んだファンタジーの王道だ。かよわい女の子がいてこそ、勇者は輝くものなのです。そして落ち込む女の子を慰めるのも勇者の務めであり、これもやっぱりファンタジーの王道だ。
「そんなことないよ。さっき勇魚は自分より先に、俺に<スキル>を使ってくれただろ? 厳しい戦場であっても自分より他人を優先するなんて誰にでも出来ることじゃないよ。君は俺の憧れなんだ。君みたいな他人に優しく強い勇者に俺はなりたいんだ」
「能見くん……」
うっとりとした目の勇魚。
かくいう俺も自分のセリフにうっとりとしていた。
俺、かっこよくね?
スラスラとあんなセリフが出るなんて凄くない?
これも多分筋肉つけて自信がついたおかげなんだろうなぁ。やはり筋肉、筋肉マッチョメンは全てを解決する! ビバマッチョ! ビバ<ユニークスキル>!
しかし<魔力筋>はやっぱダサいよね? 今でも慣れないわ。今でも慣れないってことは未来永劫慣れないんじゃないだろうか。くそぅ、絶対いつか<ギルド>を動かせるくらいビッグになって改名してやる!
「ゥオラァァァ!!!! イチャついてんじゃねー!! 不純異性交遊はダメ! ゼッタイ!!! するならつけようコ◯◯ー◯!!!」
メスガキ巨人が燃え盛る血を振り乱してドスドスと猛ダッシュしてきた。
これがホントの炎のランナーってか。わらえねぇ。
つーか何言ってるんだあのメスガキは。本作品は全年齢対応の健全で教育的な作品だぞ?
俺と勇魚の関係だってどう見てもプラトニックだろうが。
他人の健全な恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて死ぬって知らないのかな?
知らないなら仕方がない、馬の代わりに馬より遥かに馬力のある俺が教えてあげよう。
「ここでちょっと待っててくれ。あの下ネタメスガキを黙らせてくるから」
俺は勇魚を下ろしてからすぐに踵を返し、迫りくるメスガキ悪魔巨人へとダッシュする。俺とメスガキの距離が一瞬にして縮まる。
「きゃァァーーーッッハァァァーーーーー!!!! 死ぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇ!!!!」
絶叫し、全身を燃え上がらせて突撃してくるメスガキ。全身を火だるまにすれば肉弾戦しかできない俺を封じれると思っているらしい。
だとしたら大間違いだ。俺の筋肉舐めんじゃねぇ。筋肉はあらゆる困難を乗り越えられるってことを教えてやる。
「ふんっ!!!」
俺はサッカーボールを蹴る要領で地面を思いっきり蹴り上げ、地面をえぐり、無数の砂礫をメスガキ悪魔巨人に向かって打ち出した。
「ば~~~~~ッカ!!!! そんなもんでアタシが怯むとでも思ったの!!?? ざんね~~~~ん!!! このプリモンちゃんにはぜ~~んぜんっっききませ~~~ん!!!」
メスガキは俺の放った砂礫が顔面付近を襲っても、全く意に介さず突っ込んできた。
だが、それでいい。
なぜなら砂礫はただの目眩ましに過ぎない。砂礫がメスガキの視界を狭めたその瞬間に俺は跳躍、ヤツの頭上を取った。メスガキの上半身がある巨人の首から上、そこだけが血の炎のない唯一の安全地帯であり、頭上はそれに加えて死角だ。
「どこ見てる?」
俺の声にこちらを見上げたメスガキの目が見開かれ、口が驚愕に引きつった。
「このクソ筋――」
言わせない。俺はその顔面に踵を落として黙らせてやった。メスガキの顔面が潰れ、ひしゃげた上半身が悪魔巨人の首元まで埋まった。
「げぇっ……」
自分の足が引き起こした凄惨な光景に俺は思わず目を覆いたくなった。いくら敵だとはいえこれはちょっとやり過ぎてグロ過ぎだ。でもここまでやってもどうせ死なないんでしょ? 不死身だとか言ってたもんな。だったら別にやり過ぎでもないか。
しゅたっと華麗に着地。やや遅れてズズンと無様にメスガキ悪魔巨人がぶっ倒れた。
メスガキの潰れた上半身がまるで路上で踏まれた虫みたくピクピクしている。うわぁっ、気持ちが悪すぎる。安らかに成仏して欲しいが、多分死んでないんだろうなぁ。
「おい、どうせ死んでないんだろ?」
呼びかけつつ、つま先でツンツンする。へんじがないただのしかばねのよう……じゃないよな、ピクピクしてるから多分まだ生きてるし。いや、全然というか、むしろ死んでてくれていいんだけどね。さすがに戦闘シーンが長すぎて読者の方も飽き飽きしてるかもしれないし。
「能見く~ん!」
勇魚の呼ぶ声に振り向いたそのときだった。
「かかったなアホが!」
メスガキの声に俺が再びメスガキの方へと振り向いた瞬間、巨人の首から生えたメスガキ悪魔の上体が、黒ひげ危機一発みたくスッポーンと巨人の身体から飛び出した。まさかの分離。お前はジオングか。上半身が飛んでいく先には勇魚がいる。
「<半月斬り>!」
メスガキ上半身に勇魚が剣スキルを使用して迎え撃つ。
が、
「あハッ☆ おっそいよ~~~!」
勇魚の剣を真剣白刃取りするメスガキ。メスガキは空中で身体をひねり、蛇のようにぬるりと勇魚に巻き付き、勇魚のバックを取った。
「い、勇魚……!」
「おっとそれ以上近づくなよクサレ筋肉! これ以上近づくとこの女の顔にそれはもう酷い傷を遺すことになるぜ~~い?」
勇魚を人質にとるとは……汚いな悪魔、さすが悪魔汚い!
「くっ……この卑怯変態アホガキめっ……! つーかさっきからキャラ変わりすぎだろ!」
「卑怯もらっきょうも大好物なんです~~~☆ きゃハハハハハ☆ さ~て、どうやっていたぶっちゃおうかなぁ~~~?」
「能見くん、私なんかには構わず、ぐっ――」
言いかけた勇魚の白い細首をメスガキが締め上げる。
「こぉ~らぁ~ダメでしょう? アタシの許可なしに勝手に喋ったら☆ 痛い目みたくなかったらじっとしててね?」
「やめろ! 勇魚には手を出すな!」
「あっハッ☆ 効果てきめ~~~んっ☆ ねぇねぇ、今どんな気持ち? 余裕ぶってかっこまでつけちゃってたのに立場が逆転したのってどんな気持ち? きゃっハ~~~~☆」
いや~な表情で呵々大笑するメスガキ。
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