「巨人を投げる」と書いて「ジャイアントスイング」と読む
メスガキ悪魔巨人のグシャグシャになった足がまるで動画を逆再生みたいに一瞬で修復された。さっと立ち上がり、再び俺を見下ろしてくる。メスガキの腕と悪魔巨人の腕でダブル腕組みしながら余裕綽々の表情で。
「簡単に倒せるなんて思ってないよ。それに、一発で倒れてもらっても面白くないしね」
強がって余裕カマしてかっこつけてみたけど、本音を言えば簡単に、どころか倒せるとも思ってない。
「あハッ☆ ナマイキぃ~~~! でもアタシ、キミみたいなナマイキなガキわりと好きかも? だってね、こういうナマイキなのってボコしてあげたらイイ声で鳴くもんねっ! きゃハハッ☆」
「ま、先にボコしたのは俺の方だけどね?」
「……ふ~ん、そういうこと言うんだぁ。ちょっとチョーシこいてるみたいだから、そろそろお姉さんが現実ってやつを教えてあげないとねぇ……。うラァッ!!」
再びメスガキ悪魔巨人の蹴りが来る。さっきのより数段疾い。それを俺は咄嗟に手で受け止めた。
「えっ……???」
はるか頭上のメスガキ目がきょとんとしている。何が起こったのかさっぱりわかっていないらしい。
「えっ……???」
で、それは俺も全く同じだった。俺もきょとんとしてメスガキを見てしまった。
時が止まってしまったかのように、俺とメスガキ悪魔はきょとん顔で見つめ合った。目と目が合う瞬間好きだと気づいた、ってなんかの歌の歌詞があるけど、見つめ合った俺たちの間に通う感情は当然恋ではなく困惑だった。
えぇーっと……?
S級冒険者をデコピン一発で倒すようなデカくてヤベーモンスターの全力キックを俺は手で受け止めることに成功しました……って、ことでいいんだよな?
たったさっき目の前で起こった、かつ自分のことなのに何故か自信が持てない。それはこの光景がまるでアリがゾウの足を受け止めるようなアンリアル過ぎるから。しかも全然痛くもないし、衝撃もほとんどなかった。なんならピッチャーフライ取るみたいにかんたんに受け止められた。
メスガキがあえてインパクトの直前で威力を緩めたのかと思ったけど、メスガキの反応から察するにそれはなさそうだ。全力で仕留めにいったのになんで!? って感じなんだろうな、そんなふうに目を見開いてる。
以上のことを総合すると、ひょっとして俺、俺が思っていた以上にめちゃくちゃ強かったりするのか……!?
一度あることは二度ある、という言葉もある。
最初はパンチで足を粉砕し、次は受け止めてやった。
じゃ、次は三回目だ。三度目の正直という言葉もある。
なら次にもし俺がメスガキに一発お見舞いしてやることが出来れば、それはもう俺が最強ゴリデカムキムキ激鬼強デカバキマッチョってことでいーよね……?
俺は抱きつくようにしてメスガキ悪魔巨人の足を掴んだ。そして、
「ふんすっ!」
気合一発、メスガキ悪魔巨人の足を持ち上げた。物理的におかしな絵面だがここはダンジョン、ファンタジーは物理では測れない。そして筋肉は物理のみならず全てを超越し解決する。
「えぇっ!? ちょっ!? なっ!? え? な? 何が起こってる!? これ!? 意味ワカンナイ!?」
狼狽し暴れるメスガキ悪魔巨人。だが無駄だ。なぜなら俺はマッチョ、最強の筋肉にあらゆる抵抗を無と化す。
「メスガキ、俺が今から何をするかわかるか?」
「え!? 急になに!? 何するって!? わかるわけないじゃん! 今も何が起こってるのかわからないのに!! あっ、アタシがかわいいからってエッチなことするんでしょ!? エロ同人みたいに!! ああ~ん、アタシ◯されちゃう~!! マッチョ男優にあんなことやこんなことされちゃう~~~!!!」
なんだか嬌声じみた悲鳴をあげるアホメスガキ。パニクってるのか余裕があるのかわかんないな。
どちらにせよ現実は見えてなさそうなので、ここは一つ俺が教育してやりますか。不埒な本を読んでるはともかく、このいたいけな童貞少年俺を男優呼ばわりはいくら温厚な俺でも許せん。
「というわけで、お仕置きだべ~~~……!!」
俺はメスガキ悪魔巨人を高く持ち上げた。
「というわけで、って何!? 何がというわけで、なの!? そんな自己完結で勝手に会話進めないでよ! そんなことしてるとオンナのコにモテないよ!? ただでさえマッチョは汗臭そうでキモいのに!!」
プッチン、とプリンじゃなくて、俺の頭の中の何かがキレた。
「ゆ゛る゛ざん゛!!!!」
ゴルゴムに対する南光太郎よろしく俺はキレた。
俺は高く持ち上げたメスガキ悪魔巨人をぶるんぶるんと振り回した。これがホントのジャイアントスイング、なんてね。
「きゃハーーーー!!!! 回る~~回る~~~目が~~~まわ~~~る~~~~~! いや、マジで冗談じゃないから。いや、ホント死ぬからマジヤメて。今すぐ止めて。じゃないと死ぬ。ゲロ吐いて死ぬから……マジでマジでデジママジデジマ!!!! グェーーーーー!!!! まーーーーじーーーーでーーーーーー!!!!」
「わかった、止めてやるよ。ソイヤッ!!!!」
ジャイアントスイングを上下にたっぷり波打たせてから、ちょうどメスガキが頂点のところで今度は一気に地面へと叩きつけてやった。地面が直下型地震のように一瞬ドンッと揺らし、鼓膜が破れそうなほどデカい音を起こして、メスガキ悪魔巨人の巨体は地面に深々とめり込んだ。
「リクエスト通り止めてやった。息の根をな」
キマった……! 強敵を打ち破ってからの決め台詞……カタルシスがハンパじゃない!
俺の中の「冒険者になったらしたいことベスト10」の一つに「ボスを倒して決め台詞」があったんだけど、まさかこんなに早く達成できるとは思っていなかった。北島康介ばりに叫びたい、超気持ちいい! って。でもそれを口に出しちゃせっかくの決め台詞が台無しだからここはグッと堪える。
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