えすえすきゅうってなに? なにそれおいしいの?
縦に真っ二つに割られたドM悪魔巨人はずずーんと地響きを立てて倒れ、派手に土煙を上げた。
あのバカでかいS級モンスターをたったの一撃……師炉極、半端ないって!
もぅ~! あの人半端ないって!
バカデカい悪魔めっちゃ跳んで剣で真っ二つにするもん!
そんなんできひんやん普通……そんなんできる!?
言っといてや! できるんやったら……!
大迫半端ない構文が飛び出してしまうほど、師炉極の実力は半端なかった。
俺、正直震えたもんね。つか今もまだ震えてる。憧れの英雄の戦いぶりを目の当たりにして、興奮とか感動よりも震えが来た。凄すぎて引くし、凄すぎてビビる。大げさかもしれないが核兵器の爆発を目の前で見せられたような感じ。それくらい師炉極の破壊力は絶大かつ恐怖だった。
前時代は大国がこぞって核兵器を求めた核の時代だったが、大国がこぞって優秀な冒険者を養成し大量保有を目指す現代もその本質は変わらないのかもしれない。核が冒険者に変わっただけのことだ。
土煙がおさまると、そこには我らがヒーロー師炉極が悠然と立っていた。
か、かっちょいい……! 第一印象が最悪だっただけに、今ここに来て俺の中の師炉極株がストップ高だ。抱かれたい男ランキング一位も納得だ。そりゃ抱かれたくなるよ、こんだけ強くてかっこいいんだからさ。
もし俺が女性だったらきっと俺も抱かれ……いや、それはないな。性格がイヤ過ぎる。俺は外見よりも中身派だ。外見は科学技術でなんとでもなる現代においても、人の心を美しくする方法はまだないからね。
ドMの死体が淡い粒子となって消滅する。あとに残されたアイテムボックスを回収する師炉極。
「<Aランク武器・ブレイズブレイド>……図体のデカいわりにドロップ品はショボいな」
師炉極は俺たちの元へ戻ってくるなり爽やかな微笑を浮かべてそう言った。
「マッチョくん、どう? どうよ? 俺って強くね? マジ最強じゃね? 俺ってめっちゃかっこよくてガチのマジで最強じゃね? 勇魚ちゃんが欲しければ俺より強くならないとダメだぞ~? ま、俺のような強くてかっこよくてモテモテな冒険者になりたければ、せいぜい精進したまえ! ま、どう頑張ったところで俺を超えるのは無理だけどな! あっはははははは!!!」
うわ、急にウゼェ!
思わず俺のマッスルパンチでそのキレイな顔をふっ飛ばしたくなっちゃう。しかしあんなドデカいS級モンスターを一発で倒しちゃうのような人に殴りかかったところで返り討ちにあいそうなのでここはグッと我慢する。せっかくさっきまでめちゃくちゃかっこよかったのに、すぐコレが出るのが師炉極の悪い癖だ。ほら、隣の勇魚ももはや呆れ顔だ。いい歳して年頃の娘の前で恥ずかしくないのかな? 俺は絶対にこんな大人にはならないぞ。
と、師炉極の人間性を反面教師にしようと誓ったそのときだった、
「へぇー、聞いていたよりやるじゃない! 案外楽しめそうね!」
キャハハと無邪気に笑う女の声が頭上から聞こえてきた。
謎の声に俺たちパーティは一斉にそこを見た。頭上十メートルくらいだろうか、それくらいの高さに禍々しく燃え盛る火の玉が浮かんでいた。
えっ、なにこれ? 珍百景? いや、幽霊? 人魂ってやつ? 空が雲に覆われて暗いと言えどもこんな真っ昼間に?
そういえばさっきから、敵といえば骨とか悪魔とかホラー系ばっかりだ。んで、今回は人魂か。勘弁してくれよ。ホラーは苦手だって言ってるのにさぁ……。
再三のホラー展開にさすがのマッチョメンもげんなりしていると、人魂が突然ボンッと音を立てて破裂し、花火のように散って煙を上げた。昼間だから花火ほどきれいでも華やかでもない。ただ驚かされただけだ。
煙の中から女が姿を現した。女はさっき倒したドM悪魔巨人と同じようなタイプだった。つまりボンテージを身につけ、背中にはコウモリ状の翼、頭には角といったところだ。
さっきのがMならこっちはSだ。おそらくそれもかなりのドSだと思われる。なぜなら手には乗馬用の鞭を持ち、何より大きな双眸がきゅーっとつり上がっている。ツリ目はドSの証だ。ゲームでも漫画でもラノベでも、Sキャラは大体ツリ目だと相場が決まっている。
「やっほー! おげ~んきぃ~? アタシは元気! 初めまして! 私は……いいや、やっぱヤメヤメ! 下等生物にわざわざ名乗る必要なんてないよね? このアタシが挨拶してあげただけでもありがたいと思ってよ? アタシ、そもそも下等生物とはまともに口だってきかないんだから。今日はト・ク・ベ・ツ、なの! あーん、アタシってヤサシー!」
なんか一人で盛り上がってる。そっちは楽しいだろうね、こっちをバカにしてんだから。でもバカにされてるこっちは全然楽しくない。
でも、あんまり腹が立たないのはなぜだろう?
女悪魔が悪魔のくせしてわりとかわいらしいから?
悪魔らしい青紫の肌を大胆に露出させたSMボンテージ衣装にとても良く似合うボンッ、キュッ、ボンッ、なコークボトルスタイルの素晴らしいセクシー・ダイナマイトボディの持ち主だから?
アニメ系カワボで顔も童顔で背もちっちゃくてメスガキ感があって、生意気で挑発的だけどかわいいからどうにも憎めないまさに小悪魔的な妹タイプだからか?
なんにしてもかわいいって得だしズルい。たとえ敵であってもかわいいと戦意が削がれてやりにくいことこの上ない。かわいい顔をこのムキムキマッチョ拳で殴るのも気が引けるし。そう考えると今度の敵が一番の強敵かもしれない。
いや、ちょっと待て。初っ端からこっちをバカにしてきたし、口調も言ってることも敵っぽいからつい敵認定しちゃったけど、こいつは本当に敵なんだろうか?
そういえば人語を喋る敵なんていたっけ? 授業でもそんな敵の存在を習わなかったと思うし、ネットでも見たことも聞いたこともない気がする。ただの痛い『コスロールプレイヤー』の可能性だってある。
コスロールプレイヤーとはコスプレイヤーとロールプレイヤーをくっつけた造語だ。ダンジョン内でコスプレしてロールプレイする痛いヤツのことを言う。
時折ダンジョンという危険地帯でコスプレに没頭するアホがいるんだなこれが。
コスプレならまだいい、しかし中には没入するあまりに架空の設定まで作っちゃったそれはもうかなりキてるやつらがごくごく少数存在する。
まぁ、気持ちはわからんでもない。ダンジョンってそれこそファンタジーの極地みたいな場所だから、ファンタジーもののキャラになりきるにはうってつけの場所だからね。
ネトゲのロールプレイやVtuberのリアル版と考えてもらうと、その痛さとアブなさとキてる加減がわかってもらえると思う。こいつもその類のあまりお近づきにはなりたくないタイプなのかもしれない。
なので、
「<ステータススキャン>!」
セオリー通り、ステータスチェック。
<嗜虐悪姫、プリモン>
レベル:489
クラス:SS級 デーモンプリンセス
ステータス:異常なし
体力:不明
スタミナ:不明
魔力:不明
物理攻撃力:不明
魔法攻撃力:不明
物理防御力:不明
魔法防御力:不明
スキル:<鮮血獄界> 他不明スキル多数
………………え、SS級………………!!!???
えすえす級って何?
なにそれおいしいの?
しーくれっとさーびす?
しょーとしょーと?
しょーとそーど?
すくりーんしょっと?
しおしょっぱい?
しっこしたい?
ぼく、いみがよくわかんないよ……。
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