師炉極VS.ドM悪魔巨人 目には目を、変態には変態を
ま、泣かす前にこのSMボンテージ悪魔巨人の強さがどの程度のもんか確かめてやろう。
「<ステータススキャン>!」
<デバイス>が敵モンスターのステータスを空中投影ホログラムに表示する。
<痛みに悶え喜ぶ者、グラクラウス>
レベル:128
クラス:S級 エルダーデーモン
ステータス:異常なし
体力:不明
スタミナ:不明
魔力:不明
物理攻撃力:不明
魔法攻撃力:不明
物理防御力:不明
魔法防御力:不明
スキル:<暗黒の波動> 他不明スキル多数
ほほぅ……S級と来ましたか……ヒューッ、ゴクリ……い、いや、全然ビビってないですよ?
世紀末な衣装に身を包んだマッチョがビビるわけないじゃないですか!
ほんのちょっとよ? ほんのすこ~しだけビビりそうにはなったような気もしなくはないけれども、なんとかこらえたもんね。結果ビビらなかったんだから、せふせふ。
超絶ゴリムキメチャキレマッチョになる以前のヒョロガリだった頃の俺なら、見ただけで血の気が引いちゃって戦う前にTKOだろうな。だがしかし、今はスーパーマッチョマンな俺とS級冒険者二人+プリティ天使勇魚の最強パーティならたとえS級モンスターであっても無問題だ……だよね?
問題ないよね? たとえレベル128のS級モンスターでもなんとかなりますよね? こんなドMな名前の変態魔物に負けるなんてことないですよね?
ほんのちょっとだけ、それこそ砂の一欠片ほどのほんのちょっぴりの不安を払拭するために、俺はそっと師炉極の顔をチラ見した。
さすがに一応はS級モンスター相手ということもあるのか、師炉極の整った横顔はいつもより真剣でマジメに引き締められていた。ま、いつもが不真面目過ぎるんだけどね、この人。
そんな師炉極がガチな感じを出すってことはやはり敵はそれなりに強敵なのだろう。しかし普段おふざけばかりしてる人がガチでマジな感じを出すとこっちとしてはやっぱり不安になる。ふざける余裕もない、という風に見えなくもない。
もし本当に余裕がないのだとしたら……一応、ちゃんと確認しておこっと。
「あの、ヤバい敵だったりはしませんよね……?」
「ああ、ヤバいよ?」
師炉極はさも当然かのようにさらっと言った。
えっ、ヤバいの!? 世界的超有名冒険者夫妻をもってしてもヤバいの!?
ヤバいってことはそりゃもうヤバいってことですか!?
やばたにえんってやつですか!?
あぁっ、こんなときなのに今更な死語が思わず飛び出してしまう!
つか、やばたにえんってなんだよ。
やばいがやばたんになってやばたんが永谷園とくっついてやばたにえん?
意味わかんねーよ!
どうしてヤバいとお茶漬けメーカーが繋がるんだよ!
それこそヤベーよ!
不合理極まりねーよ!
誰か合理的説明プリーズ!
思考がパニックでおかしくなりかけたとき、師炉極がニヤッと笑った。
「一般ピーポーにとってはね。良い機会だ、ここらで俺たちS級冒険者の実力を見せてやってもいいな。ねぇ、小百合子ちゃん?」
「そうですね、さっきはそこのマッチョさんにお任せしてしまいましたから、今回は私たちだけでやりましょう」
「そういうわけだ。マッチョくん、万が一……億に一つもないが、俺たちがあのSM悪魔巨人を倒すまで勇魚を頼むよ?」
師炉極は不敵な微笑を浮かべたまま首をポキポキと鳴らしつつ言った。
「は、はい!」
「よし。じゃあ、ちょっくら捻ってやりますか」
背中の剣を抜き払う師炉極。眉目秀麗に余裕の微笑みと抜き身を携えた勇壮な姿は不覚にもめちゃめちゃかっこいい。俺が憧れたファンタジー主人公さながらだ。ラノベの表紙を飾っておかしくないレベル。俺にはもう神々しく見えてしょうがない。
しっかしイケメンって得だよなぁ。師炉極を見てるとつくづくそう思う。細マッチョイケメンS級冒険者って文字にするとチート感半端ない。そりゃ抱かれたい有名人ランキングで不動の圧倒的一位にもなりますわな。『僕の考えた最強のファンタジー主人公』って感じでもう羨ましいやら妬ましいやら。
ダンジョン冒険者を志す人間が皆師炉極に憧れるのも当然のことだ。
俺もその一人だけど、どうしてこうなったか今はゴリデカムキムキマッスル。
あんなにかっちょいい師炉極のファンタジックでヒロイックな装備も、俺が着るとおそらくコナン・ザ・グレートまっしぐら。いや、コナン・ザ・グレート好きだから別にいいんだけどね、でもさほら、コナン・ザ・グレートになりたかったわけじゃあないからさ。
師炉極は剣を片手で軽やかに二、三回振って、
「ぃよしっ! 小百合子ちゃん、いつも通りサポートよろしくね!」
剣を両手に持ち変えると、師炉極は真っ直ぐにドM悪魔巨人に向かって疾駆する。
疾い。あまりにも速くてまるで一筋の矢のように見える。
これがS級冒険者か……! でも俺だって負けてないもんね。いや、言い訳とか負け惜しみじゃなくてマジで負けてないはず。今の超絶ムキムキマッチョメンの俺ならあれくれいマジでできる。
だからといって今この場でそれを証明しようとは思わない。そんなことをいちいち張り合うのは幼稚極まりない。さすがの俺でもそこまでガキじゃないですよ。それに勇魚を頼むって言われてるからね。パーティリーダーの命令は絶対だ。
「<イダテンの加護>! <ヘラクレスの加護>! <オーディンの加護>! <アイギスの加護>!」
参甲小百合子が夫にバフスキルをかける。
すごい、Aランクの上位スキルを四つも連続多重詠唱するなんて! マンポテンツ(笑止)の俺には逆立ちしたって真似できない離れ業にもう感動するしかない!
あぁ、俺もかっこよくスキルを使ってみたかったなぁ。師炉極みたいな『勇者スタイル』もかっこいいけど、参甲小百合子のような『ザ・魔法使い』なスタイルも憧れる。
こうしてスキルを自在に使っているのを見ると、やっぱり魔法使いってかっこいいなぁ。俺もかっこいい魔法使いになってみたいなぁ。三十歳まで童貞だったら俺もなれるかしらん? あ、でも三十歳まで童貞の時点でカッコ悪いか。どっちにしろダメじゃん。
バフを受けて師炉極はさらに加速する。残像を残して疾駆するその姿はまるで地上の流星のようだ。もし中島みゆきに会ったら、地上の星とは師炉極のことだと教えてあげよう。
ドM悪魔巨人は今更師炉極の接近に気づいたらしい。ようやくSMの目隠しした顔を師炉極へ向けた。
バカな悪魔だ。戦場でSM目隠しなんて、舐めプか縛りプレイをしてるから……ハッ!? まさか、こいつ、戦場でそーゆープレイをしているのか!?
命を脅かしかねない危険極まりないスリルでしか快楽を味わえないくらい極まった性癖 (誤用)の持ち主なのか……いや、だからなんだって話ではあるが。
口を開き、と大鉈を持った両腕を高く構え、ドM悪魔巨人はカマキリのような威嚇のポーズを取った。が、今更遅い。自分から主人公を追放したくせに後から泣きついてくるなろう系小説の元仲間くらい遅すぎる。
師炉極は既に地面を蹴って大跳躍、土煙だけを地表に残し、このあらゆる意味で星の如き男はもうドM悪魔巨人の頭上、宙に躍り出ている。
「<フレイムソード>! <アイスソード>! <ライトニングソード>!」
師炉極の剣に火と氷と雷の属性が同時に宿る。
どれも初級相当のスキルだが、相反するそれらを一つの得物に宿すのを<相反多重付与>と言って、それこそS級冒険者にしか出来ない超ウルトラ高難易度の激烈スゴ技だ。そしてスキルが使えないマンポ(虚)の俺には一生縁のないテクニックでもある。トホホ、あたしゃ悲しいよ……。
火と氷と雷を宿してボウボウ、パキパキ、バチバチやかましく音を立てる剣を振り上げ、師炉極がドM悪魔巨人の脳天めがけて彗星のごとく迫撃する。
「<真・絶体絶命剣>!」
ボウボウ、パキパキ、バチバチな剣がさらに赤黒くて禍々しいオーラを纏う。しかしそのスキル、漢字とルビ合ってる? 俺には当て字にも程があるとしか思えないんだけど。
「くらいぃぃぃッッ、やがれぇぇぇーーーー!!!」
超必殺技を放つ草薙京よろしく叫んだ師炉極は四つものスキルを乗せた剣をドM悪魔巨人に叩きつけた。
「◯✕△▢――――――!!!!」
ドMは声にならない悲鳴を上げたが、それも長く続かなかった。悲鳴を上げるべき部分どころか全身が定規を当ててカッターで切られたようにきれいに真っ二つになってしまった。格好的には八つ裂き光輪を食らったバルタン星人といっても良いかも知れない。そんな状態になっては声どころの話じゃない。真・絶体絶命剣>の名の通り、このスキルを喰らったならば、死以外の道は残されていないのか。
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