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待望の初装備は北◯の拳のコスプレでした。勇魚曰くマッドマックス2らしいです。俺、ファンタジーを夢見て冒険者になったはずなんだけどな……。

 ともかく待望の初装備だ。ようやくこのスーパーの格安トレーナー(上下セット1980円税別)から開放される。アメコミヒーローばりにピッチピチで恥ずかしかったんだよね。マッチョがいくら見せたがりだとしても、パツパツトレーナーじゃ格好がつかない。


 とりあえず片っ端から試してみますか。ダンジョンの定石では、装備は見た目で決めるのではなくステータスで決める。当然だよね、命かかってるんだから。いわばダンジョン冒険は人類と未知との戦争。戦争を遊びでやってちゃカミーユに怒られちゃうからね。


 今回手に入れた装備はそう多くないから、ステータス上のベストパフォーマンスな組み合わせはすぐに見つかった。


<Eランク防具・冒険者の服Vタイプ>

<Eランク防具・革の手袋>

<Eランク防具・革のブーツ>


 この三つの組み合わせが一番ステータス的に優れている。ちなみに<Eランク防具・冒険者の服Vタイプ>は革ジャケットに革パンという仕様だ。


 ……察しの良い読者は既に気づいたかもしれない。マッチョボディに革ジャケット、革パン、革の手袋、革ブーツが組み合わさると何が生まれるか。そう、なんとあの大人気漫画のキャラクターライクなスタイリングが完成してしまうのだ。


「ほ、北斗の拳のけ、ケンシロウだぁーっ!!! あっはーーーー!!! ギャハハハハハハハッッ!!!!!」


 ほら、ここにもすぐに察したアラフォーこと師炉極が目に涙浮かべて腹抱えて笑ってる。しまいには膝ついて地面を叩いて苦しそうにゲラってる。

 そんなに面白いか? どこか人を小馬鹿にしたような師炉極のゲラ笑いはなんか腹立つ。一発シバいたろかな? それこそケンシロウみたいに。


 いや、まぁ、俺だって逆の立場だったら笑ったと思う。たしかにこの格好は北斗の拳の世界観だ。ダンジョンものウェブ小説に一人北斗の拳がいたら場違い過ぎてたしかに面白い。そんな作品流行らないだろうし、エタり待ったなしだけど。今の俺の格好は決してなろう小説的でもないし、俺の憧れたファンタジー世界からも程遠い。まぁ秘孔もファンタジーっちゃファンタジーなんだけど、俺が夢見たファンタジーはコレじゃないんだよなぁ。


 そこのゲラ笑いしてる人の奥様、参甲小百合子は爆笑の発作に地面でのたうつ夫のすぐ側で、お上品にも口元をハンカチで隠しつつも、やっぱりその目はまりもっこりみたいにニヤニヤ笑いを浮かべていた。

 師炉極は遠慮会釈無く笑ってくれちゃってるが、お上品な分こっちはこっちで逆に慇懃無礼な感じがして嫌になる。夫婦揃ってマッチョを笑いやがって。マッチョを笑う者はマッチョに泣くって言葉知らないのか? 今俺が作ったんだけど。


「お父様! それはちょっと失礼ではないですか!?」


 勇魚が師炉極をたしなめる。それでもお構いなしに師炉極は行きも絶え絶えに笑い続ける。ホントこのおっさんはマジホント……。


 それに比べてさすがは勇魚。やっぱり勇魚は天使だ。本当にこのイヤ~な夫婦から生まれてきたとは思えないほどよく出来た娘さんだ。鳶が鷹を生むって言葉があるけど、勇魚はまさにそれだ。師炉夫婦が勇魚を生む、これをぜひ諺として大技林に載せてほしい。あ、大技林は攻略本か。


「お父様! ちゃんとよく見てください! 能見くんは北斗の拳のケンシロウよりマッドマックス2のメル・ギブソンに似てます! 北斗の拳は暗殺拳を駆使した世紀末格闘アクション漫画でその性質上、肉体的強さの象徴である太く逞しい筋肉をアピールする必要性があるためか袖なし革ジャケットですが、能見くんのジャケットには袖があります。たしかに能見くんは漫画チックで常識外れなフィクションじみたドチャクソマッチョボディですが、肝心の肉体を包むジャケットの胸元の露出もケンシロウより控えめですから絶対的にマッドマックス2のメル・ギブソンです! それをケンシロウと言うのはいささか失礼ではないですか!?」


 勇魚は俺の全く想定もしていなかった斜め上の熱弁を繰り広げた。あの、勇魚さん? 失礼ってそっちの意味なんですか? 勇魚もやっぱり師炉の血が流れてるな。この親にしてこの娘あり。天才はズレてると聞いたことがあるが、やっぱり勇魚もどこかズレてる。


 というか勇魚、マッドマックス2を知ってるって一体何歳だよ。まぁ、そう言う俺も知ってるんだけどさ。世代も違うし女の子が見るような映画でもないと思うんだけど、意外とああいうバイオレンスアクションが好きだったりするのかな。うーん、意外過ぎる。


「うひ、うひひひ、くひひひひひ、ふふふふふ、ふーっ、ふーっ、はーっ、はーっ……た、たしかに、マッドマックス2のメル・ギブソンにも似てる……! うっふふふ! ショットガン持たせて、犬とか連れさせるといいな、うん、きっといい感じ……! ふふふふふふふ……!!」


 北斗の拳がマッドマックスだろうと、それはそれで面白いらしい。師炉極はもう死んじゃうんじゃないかってくらい地べたで爆笑にのたうち回り続けている。

 S級冒険者とはいえ、ダンジョン内で馬鹿みたいに笑い転げて無防備晒してるのはどうなの? 俺みたいなペーペー一般冒険者が言うのも何だけど、さすがにこれは冒険者としてあるまじき姿じゃないかと思う。


 そんな笑い死にしそうなおっさんは放っておく。次は武器の装備だ。これはもう一択で、ランクの一番高い<Dランク武器・青銅の剣>を選択、装備した。

 うん、北斗の拳スタイルのマッチョが古典的な剣を持つと、世紀末ヒャッハー感が凄いな。これじゃ北斗の()だ。どんどん俺の憧れたファンタジーから遠ざかっていってしまってる。


「能見くん、とっても似合ってるよ!」


 勇魚が満面の笑みでサムズアップしてくれた。けど正直全然嬉しくない。えっ、こんなのが似合ってるの? 俺って世紀末ヒャッハータイプなの? それってちょっとどうなの? ファンタジーものに憧れて冒険者を目指す一少年としてそれってどうなの?


 考えてみて欲しい、もし、ふんどしに般若の面、頭はすだれハゲで片手にトレイのスッポン(正式名称はラバーカップという)ともう片手には柳刃包丁のスタイルが世界で一番似合ったとして、そのスタイルで一生を過ごしたいと思うだろうか? 答えは否。人は変な格好が似合うよりは、他人にダサいと見られても自分の好きな格好をしたいものなのだ。


 でもまぁ勇魚も悪気があるわけじゃない。むしろ多分褒めてくれてるんだと思う。嬉しかないけど。好意にはこちらも好意で応えるべきだろう。俺はなんとか笑顔でサムズアップを返した。頬がぴくぴくしていたがそれが今の俺の精一杯だ。


 憧れのファンタジーとは程遠いこの装備 (北斗の拳もマッドマックスもある意味ファンタジーだが)をひとしきり笑われたり褒められたりしたけど、私は元気です。一応は。なので最後にステータスを確認する。



<デバイス>をポチッと、ステータスが開く。



 能見琴也


   レベル:19

   クラス:筋肉

 ステータス:異常なし


    体力: 99221789

  スタミナ: 88793565

    魔力:        0

 物理攻撃力:100065991

 魔法攻撃力:        0

 物理防御力:103690369

 魔法防御力:        0


   スキル:<魔力筋(マジカルマッスル)> <龍殺し(ドラゴンキラー)

       <双腕旋風打破(ダブルラリアット)> <百人斬り(ランページ)



 レベルが1だけ上がってる。装備込みで多分ステータスも向上してると思うけど、正確な上昇値はわからない。桁が多すぎるせいだ。上がっていたとしてもおそらくニ桁か三桁だから、九桁を誇るステータスからすればそんな些細な上昇値は誤差の範囲だ。


 スキルも二つほど習得していた。

 一つはさっき骨どもを()っ端微塵に打ち砕いた<双腕旋風打破(ダブルラリアット)>。詳細をタップするがプーッというエラー音とともに『詳細不明スキル』とのタブが現れた。


 いわゆる『未発見スキル』というやつだ。調査機関に精査され、『ギルド』に正式認定され<デバイス>に登録されるまでは詳細不明スキルとして扱われる。要は詳細が判明するまでの<魔力筋(マジカルマッスル)>と同じ扱いだ。ま、さっき使ったばかりのスキルだから全然詳細不明でもなんでも無いんだけど。


 もう一つは<百人斬り(ランページ)>。こちらは登録済みだ。早速詳細を開いてみよう、ポチッとな。



百人斬り(ランページ)

 ・スキル種別:パッシブスキル

 ・効果   :ステータスにボーナス

 ・習得方法 :短時間で魔物を百体討伐



 ふと思ったけど、スキルって当て字の癖がスゴいんじゃ~。思わず心の中のノブが出てきてしまう。

 <魔力筋(マジカルマッスル)>とか<龍殺し(ドラゴンキラー)>はわかるけど、<百人斬り(ランページ)>はちょっと遠くない?

 基本的にスキルはスキル発見者が命名するから、きっと<百人斬り(ランページ)>の発見者は厨二病入ってたんだろうな……でも気持ちはよくわかるぞ。もし新スキルを発見することができたらかっちょよく命名してみたい、なんて願望は俺にもある。


 自分で言うのもなんだけど、命名センスには密かに自信がある。

魔力筋(マジカルマッスル)>よりも俺の考えた『無謬なる理想体インファリブル・マスキュラー・アーマー』とか『神天肢体ディヴァイン・セレスティアル・ボディ』の方がどう考えてもかっこいいよね?

 なんだよ<魔力筋(マジカルマッスル)>って。せっかくのユニークスキルなのにダサい名前付けてくれちゃってがっかりだよ。


 自慢じゃないがガキの頃から俺の命名センスは周囲から一目置かれていた。特にポケモンのニックネームなんかは周囲もカッケーて褒めそやしてくれた。

 ま、ヒトカゲに『リザード』と名付けて大失敗したのは内緒の話。まさか進化系が全く同じ名前のリザードとは思わなかったし、そのさらなる進化先がリザードンとはね。おかげでシオンタウンのせいめいはんだんしに出会うまで俺のヒトカゲはリザードンになってもリザードだった。不憫なやつ。


 ま、それはともかくとして『ギルド』は少し俺を見習って欲しい。なんなら俺を命名顧問として『ギルド』に雇ってくれても構わない。これを読んでる『ギルド』関係者がいたらぜひご連絡ください。ギャラ次第で前向きに検討しますので。

面白いと思った方、ブクマ、評価お願いします! モチベに繋がりますので!

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