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師炉夫妻の過保護な愛情 勇魚も結構大変なんだな

 あの大英雄が人目も憚らずカッコ悪くてどこか滑稽な姿を盛大に晒してる。

 よっぽど痛かったんだろうなぁ。ちょっとやりすぎちゃったかな? なんか可哀想になってきたな。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 俺が可哀想なほど小さく丸まった背中に声をかけると、師炉極は深呼吸をたっぷり三回、そしてようやく立ち上がりくるりとこっちに振り返った。


「ははっ……なかなかやるじゃあないか……」


 余裕ぶったセリフのわりに顔は青ざめひきつり涙目だった。もうちょっと強く締め上げてたら間違いなく泣いてたなこれは。


 そんな可哀想な感じがちょっと可愛らしくて面白い。いい大人が、それも世界的有名セレブのイケメンが涙を堪えて強がる姿はなんか笑える。


 だ…駄目だ…まだ笑うな…し、しかし教科書にも載るあの世界的に有名な大英雄が半泣きはさすがに面白すぎる……。


「しかしこれで勝ったとは思わないでもらいたいね。冒険者たるもの、やはり決着はダンジョンの中で決めるべき、そうは思わないか?」


 師炉極は精一杯かっこつけ、俺にビシッと指を突きつけようとして、


「あきゅんっ……」


 さっき俺と握手した方の手でそんなことするから、多分激痛が走ったんだろう。その手を引っ込めて反対の手で指を突きつけてきた。彼の目尻から涙が一粒ほろりとこぼれ落ちる。


「と、とにかく勝負はダンジョンで、だ……!」


 一体何の勝負だw 俺はつい噴き出しそうになった。

 なんだかこの人のことがちょっぴり好きになってきた。

 勇魚から聞いた話だとイヤなヤベーヤツだと思ったけど……いや、突然不意打ちで喧嘩売ってくるバッチリヤベーヤツだったけど、なんとなく憎めない雰囲気がある。

 なんだろう、冴羽獠みたいな感じ? いや、このヤな感じは原子力(はらこつとむ)か? 見た目は二枚目なのに三枚目キャラなところがある。いわゆる残念なイケメンってやつ。


 だからついついこちらの毒気が抜かれてしまう。


 なんて一人和んでたら、師炉極の背後からアイスピックのように鋭く突き刺さる視線がこちらに注がれているのに気づいた。


 勇魚の母、参甲小百合子がキレイな顔でこっちを睨んでいる。美人のひと睨みはヘビ睨みより怖い。俺は冬眠から早く起きすぎたカエルのように凍りついてしまった。


 一切瞬きせず、口も開かず、それどころか何の動作もせずマネキンのようにただただこっちを睨む参甲小百合子。


 うぇぇ、めちゃ怖い。怖いの質がさっきまでの師炉極とは別ベクトルだ。師炉極が怒りの怖さだったのにこっちはバリバリのホラーだ。背筋が悪い意味でゾクゾクしてきた。また和美人な感じが貞子みを感じるんだよなぁ。このまま目が合っていると呪われそうだ。さり気なく目を逸らそっと……。


 そのとき、部屋のドアが開かれ、


「あ、お父様、お母様……!」


 ちょうど折り悪く席を外していた勇魚が戻ってきた。


「勇魚ちゃ~ん!」


「勇魚~!」


 勇魚のご両親、師炉夫妻が飛びつかんばかりに勇魚に抱きついた。


「勇魚ちゃん! ごめんねぇ~、なかなか家に帰れなくて……寂しくなかったかい? パパは死ぬほど寂しかったよ! おぉ~()いやつ愛いやつ撫でてやろう! ヨシヨシ! ゴシゴシ! スリスリ! ペタペタ!」


「勇魚~しばらく見ない間にこんなに大きく立派になったのね~! ホント、ママとパパに似てかしこかわいい愛娘! チューしちゃいましょ! チュッチュッチュッ! ブチュッブチュッブチュッ! ベーロベロベロ!」


 師炉夫妻は涙を浮かべながら勇魚に絡みつく。

 勇魚は両親の愛撫を一身に受け、今にも溺れんばかりだ。


 俺はこのとき初めて『溺愛』という言葉の意味を心で理解できた。

 なるほど、文字通り溺れるほどの愛という意味だったんだな。

 現に勇魚は両親の尋常じゃない偏執的愛撫に身動き一つとれずされるがままになっている。

 重すぎる愛情で溺死したりしないだろうか? それだけが少し心配。


 でも、師炉夫妻の一種異様な言葉と行動から察するに、きっとしばらく会えてなかったんだろうな。

 世界的冒険者が日々忙しく過ごしていることは想像に難くない。

 親娘の久方ぶりの再会と思えば、傍から見るとやり過ぎに見えるスキンシップもどこか感動的に見えてきた。

 俺のガチムチに鍛え上げられた涙腺も思わず緩みそうになる。


「……お父様、お母様、人が見ています。それにたった三日会ってなかっただけなのに大げさです……」


 勇魚が呆れたように言った……って三日!?

 たったの三日!?

 俺と両親だってそうだよ!

 たかだか三日程度であの感じ!?

 娘を溺愛するにもほどがあるだろ!


「そりゃないよ勇魚ちゅわぁん! たった三日じゃないよぅ! 三日も、だよぅ! 三日も顔を見てなかったんだよぅ? パパは勇魚ちゃんがいないと寂しくて死んじゃうんだよぅ?」


 小さい『う』をつけるな気色悪い。寂しくて死ぬってウサギか。ちなみにウサギは寂しくても死なないらしい。知ってた?


「えぇ、もうお父さんもお母さんも心配で心配で心肺停止状態なの。私たちにとって勇魚ちゃんは空気、生きていくためになくてはならないものなの。人はね、三日も呼吸しないと心臓止まっちゃうの。そしたら脳死待ったなし。脳死であなたを愛してるのよ」


 何いってんだこいつら。やっぱヤベー夫婦だわ、この二人。


「昨日ビデオ通話しましたよね……?」


 心底呆れたように勇魚が言う……つか、ビデオ通話もしてたんかい……。どんだけ娘が好きなんだよこの夫婦。ここまできたらもう依存症だろ。もっと長期間引き離されたらはだしのゲンのムスビみたいに禁断症状出しそう。うーん、見てみたいような見るも怖いような……。


 両親に愛されないよりは愛された方がいいとは思うが、師炉夫妻のような愛され方はあんまり羨ましくない。思春期と反抗期のこの年頃にはあまりにも重すぎる。俺なら多分グレちゃうよ。


 あぁ、うちの両親はまともでよかっ……いや、うちもあんままともじゃないわ。

 ちょっと息子がマッチョになっただけで認識できてなかったし、ターミネーターとか宇宙人呼ばわりされてたしね。

 挙句の果てにはDNA検査でようやくわかってもらえる始末……あれ? 勇魚と比べて俺って愛されてない? おやおや、なんか涙が出てきそうだよ?


 でも泣かないねぇ、マッチョだから!(ドンッ!)


 マッチョは涙を堪えるものさ。

 それに、今も繰り広げられる師炉夫妻による娘へのハードでクレイジーなスキンシップを見てるとやっぱりドン引きしちゃって涙も枯れる。

面白いと思った方、ブクマ、評価お願いします! モチベに繋がりますので!

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