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バトル勃発! 超絶筋肉マッチョ俺VS.S級冒険者師炉極

 夫妻が部屋に入ってきても、俺は身動き一つしなかった。正直に言うとビビってた。

 セレブのオーラにビビったわけじゃない。なんと言っても勇魚の両親は誰もが知るあの世界的有名なダンジョン冒険者夫妻で、あの一献寺香良を超える強権の持ち主だ。

 で、この夫妻は俺のことを『愛しい娘を誑かし乙女の純潔に遠慮会釈なしに汗臭く汚い手を出す変態クソマッチョ』と思っているらしいとはその娘、勇魚の証言である。


 つまるところそんな人にそんな風に思われてたら誰だってビビるでしょ?

 いくらマッチョでもさすがにビビっちゃうよ?


  しかもその上冤罪だよ?

  濡れ衣だよ?

  事実無根だよ?


 いくら俺が<ユニークスキル>持ちのギリシャ神話に出てきそうな彫刻じみた筋肉ボディでも、結局のところ実績のない一般男子高校生マッチョに過ぎない。政府相手に強権振りかざすヤベー大人二人にビビって何が悪い? これがビビらずにいられますか。


 一献寺香良はモンスターペアレンツ夫妻の行動を『俺に箔をつけさせるため』とか好意的に言って擁護する。

 でもさ、死ぬ危険性が高いベリーデンジャラスなミッションに嬉々として一般マッチョ学生を送り込もうとするのはやっぱり変だろ。箔がつく前に人生にピリオドついちゃうよ。


 好意の裏に死刑宣告に等しい悪意がチラチラ見え隠れしてるように見えるのは、ただの俺の被害妄想じゃないはずだ。


 しかしこの夫婦、高校生の娘がいるとは到底思えないほど若々しい。いかにも高そうでいかにもファッショナブルなデザイナーズスーツが二人共よく似合う。特に長身 (といっても俺よりはやや低い。マッチョ化急成長後、俺より背の高い人は街中でもほとんど見かけない)の師炉極はモデルみたいにスマートだ。


 うちの両親なんかどこに出しても恥ずかしくないどこにでもいる典型的なザ・中年なのに、師炉夫妻はどう見ても二十(はたち)そこそこにしか見えない。若々しいのに得も言われぬただごとじゃない雰囲気がムンムンと醸し出されている。俺に対する態度といい、英雄の皮を被った悪魔の一族とかじゃないだろうな? 


「あ、能見琴也です……」


 マッチョたるもの、挨拶されて返さないわけにはいかない。マッチョたるもの紳士たるべし、だ。


 し~ん。挨拶を交わした後、場が嘘みたいに静まり返った。


 あれ? また俺なんかやっちゃいました?


「あ、あの、娘さんのことなんですが――」


 気まずい沈黙を打ち破るように俺はとりあえず弁明というか誤解を解こうとしたのだが、師炉極は首を左右に振った。それから優しげに微笑むと右手を差し出した。


 握手だ。それに柔和な微笑。俺は察した。

 あ、なーんだ、もう誤解はとっくに解けてたのか。


 いや、そりゃそうだよな、いい歳した大人が娘の言うことを拡大解釈どころか飛躍した被害妄想した挙げ句、一方的に幼稚な敵意を向けるなんてそんなことあるわけないって。あったとしても、まともな大人ならすぐに自らの過ちに気づくはずだ。


 さすがは我が国の誇る世界の英雄。親バカ発揮して一時的に取り乱しても、いざとなればちゃーんとまともに戻ってる。


 そうだよ、それこそ俺の憧れた大英雄! 人の親である前に英雄だ。英雄なんてまともじゃないとやっぱり務まらないもの。親バカでとち狂って無様晒すようなどこぞのアホ芸能人とはさすがにわけが違うよ。マッチョも内心ホッと安心しました。


 そうとわかればこっちとしても遺恨はない。俺の中で大英雄、師炉極に対する憧れがモリモリムキムキ復活した。

 俺は大人気スポーツ選手とか超有名アイドル相手にするように、無邪気な心で憧れの英雄の手を取った。


 瞬間、


 ビキンッッッ!!!


 握手した手に激痛が走る……!


 師炉極(このヤロー)、俺の手を極めにきやがった……!?


 いっつっ……! 思わずうめき声が漏れそうになる。


 傍から見ただけじゃ決してわからないほどさり気ない攻撃だ。

 パッと見だとただ握手しているように見えるが、よく見れば俺の手を握る師炉極の手の筋肉は異様なこわばりがある。太い血管が浮き出、手の表面は紅潮し、全体がプルプル小刻みに震えている。顔に視線を移せば、その端正な顔の額に青黒いぶっとい十字路が浮き上がってる始末。


 師炉極は全身全霊全力全開の超マックスパワーで俺の手を万力のごとく締め付け破壊しようとしている。


 はっきり言って、めちゃくちゃ痛い。


 これがいい歳した大人のやることか!?


 『お前に娘はやらん!』とか言って、娘の婚約者に茶をかけたり、ちゃぶ台をひっくり返す昭和の雷おやじか!?


 ホント、信じられんわ。

 呆れた呆れた、まさか俺が憧れた英雄がこんな大人げない人だったなんて、がっかりもいいところだよ……。


 ……アカン、だんだん呆れを通り越してムカついてきたぞ!?

 めちゃくちゃ痛いし、いくらマッチョでも我慢の限界だ!

 なるほど、そっちがその気ならこっちだって遠慮しない。

 なんたって俺はマッチョ。

 やられたらやり返す、倍返しがマッチョの流儀だ。

 やっていいのはやられる覚悟のあるやつだけ!

 仏の顔は三度まで! マッチョの顔は態度次第!

 一発は一発だ! マッチョ舐めんなコラーッ!


 マッスルパワーマキシマム!


 師炉極(ヤツ)の手を締め返す!


 んで、ちょっと力入れた瞬間……、


 メキョンッ!


「あっっぐぅぅぅっ……!?」


 師炉極が英雄に似つかわしくない、クッソ情けない悲鳴じみた声を上げ、まるで冬のドアノブに触れてビリっとキたときみたいに慌てて手を引っ込めた。


「うきょぉぉぅぅぅぅ………………」


 俺に背を向けてしゃがみ込む師炉極。

 痛みかはたまた怒りなのか背中がプルプル震えている。手をフーフーしたり、さすったり、ヨシヨシしたり、痛いの痛いの飛んでいけーしてる。

面白いと思った方、ブクマ、評価お願いします! モチベに繋がりますので!

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