えっ、<ユニークスキル>持ちのマッチョってだけで何の実績もないのに危険なダンジョンに強制的に送り込まれるんですか!? 2
勇魚の両親が俺にダンジョン攻略を強く希望している……?
しかも反転急成長の可能性がある超危険ダンジョンを?
A級冒険者どころか無級無級でしかなく、何の実績ももたず、ただ<ユニークスキル>持ちであるということだけを除けばただの一般ピーポーゴリゴリ筋肉マッチョ男子高校生でしかない俺を?
超一流のダンジョン冒険者は政府さえ動かせるとは聞いたことはあるけど、まさかそんなめちゃくちゃで前代未聞の無茶な無理難問をゴリ推してくる意味がわからん。
ホントなぜにホワイ?
どゆつもり?
これってめちゃくちゃ危険だよね?
なに? えっ? 俺に死んで欲しいの?
俺、嫌われてるの?
会ったこともないのに?
うん、意味不明。
理解不能。
どーしてこーなった?
俺は声も出なかった。
勇魚も黙り込んでしまった。
一献寺香良はなんともビミョーな苦笑を浮かべている。大人が色々なことを諦めたときに浮かべる『ま、しょうがないよね。なるようにしからないよね。あがいても無駄無駄。あきらめましょっと』ってときのあの絶妙にイヤなカンジのあの顔だ。部屋にイヤーな暗い空気が流れ始めた。
沈黙を破ったのは一献寺香良だった。
「まぁまぁ二人とも、そんな暗い顔をするな。私としてはね、常識はずれの破天荒な発想だと思うが、実のところそれほど無茶な話ではないと思っているよ? だって能見くんのステータスは君たちも知っての通り桁違いの最強ステなんだからね。だからこそご両親も能見くんを前代未聞の難事に推薦したんだと思うよ? ほら、娘の命の恩人に箔を付けさせたいって親心なのかも? なんでもご両親は大変能見くんにご執心らしいからね。能見くんのこと凄く気に入ってるみたいだよ? 君についてたくさんのことを聞かれたよ。質問というよりほとんど尋問だったけどね。よっぽど君のことを気にしているようだねぇ。まるで初恋みたいだねぇ。うっふふ。いや、それは冗談にしても、婿養子にでもしたいのかもしれないよ? ははは、知らんけど」
知らんけど、じゃねーよ。
いや、俺はまったく笑えないっすよ。
なーにが初恋だ婿養子だ。こっちは海外出向を命じられたら赴任先がテロ頻発紛争地帯だったサラリーマン並みに最悪な心境なんですよ。
「い、勇魚さん……?」
俺は勇魚を見た。どういうことなのか説明して欲しかった。娘なら何か聞いているかと思ったが、勇魚は俺を見て、また俯いて、小さく首を振った。
「父と母は、その……凄く過保護なで、あの日、能見くんに助けられたことを話したの。『能見くんは素敵な人』『能見くんはかっこいい』『将来の旦那様が能見くんみたいな人だったらいいのに』的なことをついうっかり調子に乗って言っちゃったら、なんか変に勘違いされちゃったみたいで……。両親ともに能見くんのことを『愛しい娘を誑かし乙女の純潔に汗臭く汚い手を出す変態クソマッチョ』とか怒り狂っちゃって、もちろん私は反論したよ? 能見くんはそんな人じゃないって。で、ムキになって言い返してたら両親もムキになっちゃったみたいで……とにかくごめんね」
てへぺろっ、てな風に、はにかんだ頬を赤らめ舌を出す勇魚。とっても可愛い……いや、可愛いけども、可愛いで済む問題じゃない。可愛いで済むなら警察いらんのですよ。
え、じゃあなに?
勇魚が俺のことを好意的に話しすぎたせいで、バカ親が親バカ発揮してバカみたいに暴走してるってバカな話?
嘘でしょ? マジですか?
俺、バカ親の過保護で死地に赴かなきゃならんの?
そんな酷い話ってある?
たしかに俺はマッチョ。
マッチョはナイスガイでヒーローだ。
漫画でもアニメでもラノベでも、ヒーローならば試練はつきものではあるけどさぁ、それでもちょっとこれは理不尽過ぎませんか?
俺がマッチョだからなんとかギリ耐えられてる。
いや、ほんとギリギリだよ?
これヒョロガリだったらもう憤死してるよ?
勇魚にも一献寺香良にも俺のマッチョなタフガイ筋肉ボディにもっと感謝してもらいたいね。
「さて、話がまとまったところで早速、現地に移動してもらう。ああ、私だ。下に車を待たせておいてくれたまえ」
一献寺香良はスマホを取り出して言った。
なにが話がまとまった、だ。無言とか沈黙は肯定じゃないっての。無茶苦茶な展開に絶句してただけだっての。
「私も行きます」
勇魚が言った。
「私の親が始めたことなら、娘の私にも責任があります」
そう言って、勇魚は俺へと振り返って、
「安心して、能見くんは私が守るわ」
優しく微笑んでくれた。
さすがのマッチョもこれには泣けてきそうだった。無茶振りのストレスやらプレッシャーやらなんやらで、さっきまでいっぱいいっぱいだった心が軽くなった。
勇魚の優しさと笑顔には精神安定作用がある。今確信した。勇魚の笑顔は保険適用して販売されるべきだと思った。
「なんて、自分より弱い人に言われても説得力ないよね?」
はにかむ勇魚。それも可愛い。
可愛いは正義、可愛いは無敵、可愛いは最高、つまり勇魚は俺にとって理想のパーティメンバーだ。
「いや、そんなことないよ。君が……勇魚がいてくれるだけで凄く心強いよ」
「能見くん……」
勇魚は顔を赤らめた。照れる勇魚もやっぱりどうしてなかなかかわいい。
俺も顔が熱かった。自分で言っときながら自分で照れてしまった。
マッチョでも照れるときくらいあるさ。
「はいはいっ! そこっ! 私の前でイチャラブ禁止! こっちは学生時代便所飯のバリバリチャキチャキのボッチなんじゃい! 君たちみたいなキャッキャウフフでちんちんかもかもな出来事なんて夢のまた夢だったんだよぅ! チックショー! ご両親に不純異性交遊をチクってくれようかっ!」
一献寺香良が不満顔を爆発させる。
「別にイチャついてませんけど。なぁ勇魚?」
「ええ、意味わかんないよね、能見くん?」
俺と勇魚は一度一献寺香良に目をやってから、再び互いに視線を交わした。今この瞬間、俺と勇魚は目と目で通じ合ってるような気がした。
「ああぁっ! やめろ! 青春アレルギー現在発症中! 蕁麻疹がぁ! ブツブツが全身にでるぅ~!」
一献寺香良が首筋を掻き出した。
うわっ、ホントだ、一献寺香良の首筋に無数のブツブツが……。
ただの嫉妬かと思ったら本当に蕁麻疹がでるのか……この人、本当にいろんな意味でヤバいな……つくづくそう思った。
そうこうしているうちに時間になった。現地送迎用の車が到着し、俺と勇魚は乗り込んだ。
「私はまだここで仕事があるのでね、また後で合流しよう。ではお先に行ってらっしゃい。私のいないところでは存分にイチャついてくれて構わないぞ。でも避妊はしたほうがいいね。もし妊娠させたらあのご両親のことだ、命を作ったはずが命取りに、なんてね」
それ、セクハラだから。あんたいつか訴えられるぞ?
そう思いつつも、一献寺香良の強烈なキャラにもういい加減に辟易し、疲れきっていた俺は口には出さず、軽蔑を込めた苦笑いを返すだけにとどめた。
ハンカチをフリフリする一献寺香良に見送られ、俺と勇魚は『ダンジョン攻略研究調査室』を後にした。
あぁ……本当に疲れた。
ホント、マジのガチで。
ちょっと寝よ。
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