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えっ、<ユニークスキル>持ちのマッチョってだけで何の実績もないのに危険なダンジョンに強制的に送り込まれるんですか!? 1

 そっかぁ……俺もついに<ユニークスキル>持ちか……!


 <ユニークスキル>、それは人を妄想の海へと掻き立てる……。 


 街を行くと誰もが俺の顔を指す。

 ざわめきを増す街角。

 サインを求める人の群れ。


「時間がないんで、ごめんね」


 有名人の俺は気安くサインもできない。

 うっかり一人にサインしちゃうと、街全体にサインしなきゃいけなくなる。

 いくら俺が世界的有名なナイスマッチョガイでも、そんなことしてるとさすがに日が暮れちまう。


 それに俺には彼女が待っているんだ。

 彼女は世界的に有名なモデル。

 世界的に有名な者同士のカップル。

 やっぱり世界的に有名な俺は世界的に有名な女性とじゃないと釣り合わないし、世界的に有名な者同士だから気も合うんだ。


 そう、彼女とのデートはいつも秘密裏に行われる。

 でも、お互いに世界的に有名だからすぐバレちゃうんだ。

 ハーバービューでも、大黒埠頭でも、シーガーディアンでも、どんなに変装をしていてもすぐにバレてしまう。

 そのたびに僕らは互いに手を取り逃げなきゃならない。

 だが、そうやって愛は困難があってより深まるものなのさ。

 愛の逃避行……LOVE AFFAIR……。


 俺の楽しい楽しい妄想は一献寺香良の一言により中断される。


 「ここで残念なお知らせだ。君のスキル<魔力筋(マジカルマッスル)>は世界ダンジョン対策委員会、通称『ギルド』には認められなかった。つまり未確認スキルのままで、今のところユニークスキル持ちとは名乗れないんだよねこれが。残念無念また来週」


 はぁっ?


 俺のユニークスキル<魔力筋(マジカルマッスル)>がギルドに認められないってどゆこと?

 マッチョ差別ですか?

 ヒョロガリの妬みですか?


 許せねぇ、マジ許せねぇ。ガチでキレちゃったよ。ギルドのヤツら屋上に呼び出して俺の筋肉がいかに素晴らしいかをこのマッチョボディでとくと思い知らせてやろうかしらん。


「世界ダンジョン対策委員会は君のステータスを信じてないんだ。ま、気持ちはわからないでもない。数値だけ見せられてもとても信じられるようなもんじゃないからね。なにせ規格外だからねぇ君は。それと君に実績が無いのも問題かな。今まで『ギルド』に登録された<ユニークスキル>持ちの全員が登録前から世界的に有名な冒険者だからね。無名の君がいきなり桁違いのステータスを持つ新たなスキルに覚醒めました、なんて言っても誰も信じないのはしょうがないことなのかもしれないな」


 やれやれ、といった風に肩をすくめる一献寺香良。


「『ギルド』が欧米主導の組織だからでしょう。彼らは極東の島国を見下してますから。だから私たちのすることなすことに彼らはいちゃもんつけたくなるんです」


 師炉勇魚が吐き捨てるように言った。


 欧米か!

 諸悪の根源はきゃつらの差別意識にあったか!

 おのれ欧米……しかし今に見てろ! いづれこの筋肉が欧米主導の世界構造を打ち砕いてくれる!

 俺は筋肉に固く誓った。


 しかし彼女にしては珍しく厳しい言い方だったな。もしかして欧米嫌い? 戦時を経験したじいさんばあさんならわかるが、俺たちの世代でそういうのも珍しい。彼女自身、たしか欧州の血が流れてるはずだけど……ま、そんなことは俺が深く考えるようなことじゃないか。


「そ・こ・で・だ! 能見琴也くん、君にやってもらいたいことがある」


 一献寺香良がぺちんと机を叩いた。目がきらりと光ってる……嫌な予感しかしない。


「どうせ変なことやらせるんでしょ? 結構です。こっちにそういう趣味はないんで」


「違う違う、違う、そうじゃない! ちゃんと真面目な話だ。君はひょっとして私のことを色情狂の変態か何かだと思っているのかね?」


 そりゃもう心の底から思っていますとも。

 でも、それは口に出さないでおく。マッチョの情けだ。


「……その顔、どうやら本当にそう思っているようだね?」


 口には出さなかったけど顔には出てたらしい。以後気をつけよ。今度から表情筋のトレーニングもするか。


「ふん、まぁいい。とにかく、君が『ギルド』に認められないのは実績が足りないからだ。つまり、実績さえあればいいのだ。というわけで、君には早速実績を作ってもらう」


 一献寺香良はスライドの画面を切り替えた。そこに地図と写真が映し出される。


「ここについ最近新たに発生したダンジョンがある」


 それがどこの地図かはまったくわからなかったが、写真には我が鶚が崎高校にある廃ダンジョンのそれより少し大きなモノリスが映っている。


「ちなみにこのダンジョン、今のところ『急成長期』だ」


 その言葉に場の空気が変わった。


 ダンジョンは三つのステージに分類される。


 一つ目は第一ステージである『発生期』。

 発生期は世界にモノリスが形成されるが、まだダンジョンに入ることができない状態。発生期のダンジョンに対して人類ができることは唯一つ、さらにステージが進むのを見守ることのみだ。


 次に、第三ステージは『漸進期』。

 漸進期になるとダンジョンの著しい変化が収まり、世界に対する侵蝕も緩やかになる。普通はこの第三ステージを確認してからダンジョンに侵入、攻略に移るのがセオリーだ。


 そして問題の第二ステージ、『急成長期』だ。

 急成長期はダンジョンに入ることが可能となるが、|世界ダンジョン対策委員会ギルドは推奨していない。これは急成長期ダンジョン特有の内部構造の急変化が起こるためだ。たとえば入場直後の比較的安全なはずのエリアに上級の魔物が出たり、安地が突然危険エリアに変貌したり予測不能な事態が頻発するため非常に危険だ。


「まさか急成長期のダンジョンに入れ、とか言うんじゃないでしょうね?」


「まさかまさか! そんなことは国家権力を傘に無理難題をふっかけ、横暴の限りを尽くしまくってきた私でもさすがにさせないよ」


 ははは、と笑う一献寺香良。


 そんなことばかりしてきたのか……うん、はっきり想像できる。うちの両親も人質にとってたし。ホント最悪だなこの人。


「ただこのダンジョンはもう二、三日もすれば漸進期への移行が予測されている。第三ステージに移行次第、君にはダンジョンを攻略してもらうことになるのだけど――」


「私は反対です!」


 一献寺香良の話を、勇魚が強く遮った。


「世界ダンジョン対策委員会、『ギルド』の指針ではダンジョンが漸進期に移行してから最低一ヶ月の確認期間を設けるべきとしています。これは漸進期に移行したとみられていたダンジョンが再び急成長期に転変化する『反転急成長』の危険性があるからです。安全の観点からこの指針に従い、ダンジョン攻略を一ヶ月待つべきです!」


 勇魚は真っ直ぐに一献寺香良を見据えて言った。わずか十五歳でありながら大人相手に一歩も引かない威圧感満々の堂々たる姿に俺はシビれる憧れるゥ。


 しかも俺の身を案じて言ってくれてるんだよ?

 それもかわいい女の子が!

 こんなにうれしいことはない!

 ホント、胸にジーンとクるなぁ。

 もし俺がまだ陰キャ引きずってなかったら、とっくに惚れてたな。こんな良い子、好きにならないほうがおかしいもん。


 が、そんな凛々しい勇魚に一献寺香良は一歩も引かない。むしろふふっと小さく笑って、


「勇魚くん、実のところこれは私の発案じゃないんだよ。これを提案し強く推しているのは我が国最強の冒険者夫婦なんだ」


「えっ……」


 凛々しかった勇魚の目が驚きに大きく見開かれた。


 我が国最強の冒険者夫婦って、それ……。


「勇魚くん、我々『ダンジョン攻略研究調査室』も()()の名には強く逆らえないのだよ。あの二人の横ぼ……じゃなかった、強権っぷりは君もよく知っているだろう? この件はご両親の非常に強い希望でね、もし断れば私の首が物理的にも飛びかねない。首切りが言葉通りの意味になってしまう。師炉の前に立ちふさがれば風の前の塵同然に吹けば消し飛ぶしかないのさ。勇魚くんならわかるだろ? なんせ君は師炉なんだから」


 一献寺香良の皮肉な微笑の前に、勇魚は唇を噛んで俯いてしまった。

面白いと思った方、ブクマ、評価お願いします! モチベに繋がりますので!

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