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一献寺香良はとにかくヤバい変態 1

 目を覚ますと見知らぬ部屋だった。


 え、どこここ?


 辺りを見回す。部屋の中央の机と椅子に俺は座らされていた。目の前、部屋の一角にスクリーンが設置されている。窓はない。天井の白すぎる蛍光灯だけが唯一の灯りだ。視聴覚室を小さくしたようなこの部屋に、あいにくと俺は全く覚えがなかった。


 一体これは何だ?

 ここはどこだ?

 何が起こった?


 直前の記憶が判然としない。

 まさか誘拐?

 それとも敵性国家による拉致監禁?

 もしや宇宙人……は流石にない。そんなSFあるわけない。うちの親じゃないんだから。


 もっとよく思い出すんだ。俺は目を閉じ、机に突っ伏して思考を記憶の奥底へと潜らす。朧気に記憶が甦ってきた。

 そうだ、たしか俺はメン・イン・ブラックみたいな二人組みに銃で撃たれて――。


 と、そのときだった。突然ドアががちゃりと開かれ、スーツに白衣の女性が部屋に入ってきた。


 俺は身構えた、なぜならその女性はあのときのメン・イン・ブラックを連れている。


「やぁやぁ、はじめまして、能見琴也くん。私は『ダンジョン攻略研究調査室』の室長一献寺香良(いっこんじから)という。これからよろしく頼むよ」


 謎の女、一献時香良は笑顔を浮かべてフレンドリーに言った。


 あ、どうも能見琴也です、よろしくお願いします、とはならない。

 なんせ一献時香良の背後に控えるのはあのときのメン・イン・ブラック。

 無抵抗の一般マッチョ高校生を問答無用で銃撃したやつをつき従えている怪しい女とそう簡単に仲良くなんてできない。それに『ダンジョン攻略研究調査室』なんてものも知らない。


「おや? ご機嫌ななめかね?」


 当たり前だ。撃たれて、拉致されて、その上役らしき女と仲良くしたいわけがない。たとえそれが白衣とスーツの似合う、腰まで伸びた艷やかな黒髪がキレイな美人であっても。

 それに俺は生まれつき美人に対して警戒心が強いからなおさらだ。


「ふむ……ひょっとして能見くん、怒っているね? よかったらそのワケをお姉さんに聞かせてくれないかな?」


 あれ? ひょっとしたらこの人、事の経緯を知らない? それも変な話だけど、もし一献寺香良が本当に経緯を知らないのなら、彼女に対して怒るのは筋違いか。


「銃で撃たれたからですよ、その、あなたの後ろにいるおっさんに……」


「ああ、そんなことか。安心したまえ、銃は銃でも麻酔銃だ。なに、傷も残らんよ。じゃあ問題は解決だね。では早速本題に入らせてもらうよ」


「ちょ、ちょ、ちょっと待てーぃ!!!」


「ん、なにかな? そろそ本題に入りたいんだが? 見ての通り私は忙しいのでね、貴重な時間を無駄にしたくないのだよ。タイムイズマネー、高校生の君でもこの言葉の意味くらい知っているだろ?」


 なぜか一献時香良の方がイライラし始めた。

 えっ、逆ギレですか?

 市街地に出現したクマみたく突然麻酔銃で撃たれた俺、どこからどう見てもどう考えても絶対的に被害者の俺がキレられる方なの?

 そんな理不尽ある?

 否、あっていいはずがない!


「な、な、な、なんなんだあんたその態度!? こっちはいきなり銃で撃たれて――」


「麻酔銃ね」


 クソほどどうでもいい訂正に、さすがの俺もキレた。キレちまったよ本格的に。

 温厚マッチョでもキレるときはキレる。キレキレなマッチョだけに。


「麻酔銃とかどうでもいいんですよ!!!」


 衝動的に机に手を叩きつける。机が粉々に砕け散る。自分でもビックリな馬鹿力だが、もっと一献寺香良とメン・イン・ブラックたちはもっとビックリしていた。

 メン・イン・ブラックたちは俺が危害を加えると思ったのか、懐から麻酔銃を抜いた。


 ()()は既に一度見た。一度見たものは俺の筋肉に通じない。考えるよりも早く筋肉が反応した。

 銃声(バンッ)の炸裂音より疾く跳躍、俺は一瞬にしてメン・イン・ブラックの懐に潜り込んだ。そして腹に一発、撃たれたお返しをたっぷりしてやった、とは言っても一応手加減はしてある。机みたいに人間がバラバラになったらグロいんでね。


 まず一人、続けざまにもう一人、腹パンでおねんねしてもらった。

 崩れ落ちたメン・イン・ブラックの間に残るは一人、一献寺香良だけ。


 女性だし、モリモリマッチョが銃を持った大の大人を一瞬でボコせばおしっこチビるくらいビビって泣きながら土下座で許しを請うかも、と思ったらそんなことはなかった。

 一献寺香良は俺の想像を遥かに超えた女だった。


「スゥーーーーーーーばらしぃぃーーーーわぁぁ………………」


 深く長く息を吸い、吐きながら一献寺香良は言った。

 今、素晴らしいって言った……?

 変な言い方だからいまいちよく聞き取れなかった。予想外の言葉に俺は戸惑うしかなかった。


 すると、一献寺香良の顔が赤くなってきた。

 熱い風呂に入ったあとみたいに頬を上気させ、嬉しそうに潤んだ瞳でこっちを見つめてくる。

 グロスを塗った唇を赤い舌が舐めずり、自らを抱くように身悶えしだした。


「凄い、凄く良い、ゾクゾクする……ねぇ、それで私をどうするつもりだ? その逞しい筋肉で私を絞めるの? 縊るの? キミの肉体、相当強く、熱く、固いんだろうねぇ……どうしよう、私、死んじゃうかも……?」


 ま~ったく言ってる意味がわからない。

 でも、ヤバイってのはなんとなくわかる。俺の勘がこいつはヤバイと警報を告げている。

 俺は怖くなってきた。マッチョに鳥肌が立つ。

 変質者がいたら逃げなさいとは、幼い頃からの教えだ。家でも学校でもそう習ってきた。今がその教えに従うまさにそのときだ。

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