異世界転移者観測妖精
やぁ、僕は異世界転移者観測妖精!
僕の仕事は文字通り異世界に転移した者を観測する事さ!
異なる神様の作った世界を異なる世界から来た人が、その世界をどう生き、その世界をどう救うのかを見届ける観測者であり傍観者。
転移者の最後を見届けたら報告書を作成して、その結果を世界意思っていう訳の分からない機関に報告するのが僕の崇高な使命さ!
僕は転移者には見えないし、異世界の住人にも見える事はない。
僕も世界に干渉することは決してできない!
妖精はゴキブリの様に沢山いて、その中で地球という所の日本という狭い島国から転移した人を僕は担当しているんだ!
つまりは日本人専門のストーカー兼社畜だね!
それではレッツ観測ゥ!
えっ?あらすじで既に読んだからもういい?
僕は日本では大事なことは2回繰り返せって教わったんだけど?
君って日本人じゃないんじゃないかな?
「ここは何処だ…」
意味ありげに呟くのは米田智和(17)
男性、高校二年で趣味は漫画、アニメ、映画鑑賞。
陽キャとDQNはDNAの一片まで残さず完全消滅するがいいと思っている、どこにでも居る一般人だね!
どうやら道路に飛び出た少女を助けようとして代わりにトラックに轢かれたテンプレらしい。
「ステータスオープン!」
あぁ、君も即座にそれをするタイプの人だったかー。
どうにも日本人の中ではこれを真っ先にする人が多いんだ。
まるでこうなることは予測済みさといわんばかりに狂ったようにこの呪文を吐く。
これができるかできないかは案外大きな差を生み出すんだよね。
日本以外の国では転移してどうすればいいのかもわからず飢えたり襲われたりして死ぬ転移者だって多いのに、どうも日本人のオタクって奴はこなれてやがる。
だからオタクは嫌いなんだ!
これじゃ仕事が増えるばかり。
日本担当はハズレだと妖精界で言われる訳がこれさ!
…おっ、どうやらこの世界ではステータスオープンが通用するらしい。
残念なことに今回は言った後に顔を赤らめる初々しくてイタい若者の姿を見ることはできないみたいだ。
「魔法が使えるのか… えーと、四大属性である火、水、土、風、全てに適正ありか」
あーあるある。
この世界の神様はどうも転移者へのチートをしっかりとあげるタイプらしい。
中には渡さない意地汚い神様もいて、そんな転移者をニヤニヤ眺める神様も居るから当たりだったね!
「下に妙な余白があるな? 何だろう?」
それはきっと隠されている属性の光と闇とかじゃないかな?
流石に僕もこの仕事をやってきて長いからね。
こういった予測はお手のもんさ!
つまり全属性使えるって事だね!
これは高級温泉宿も裸足で逃げ出す程の至れり尽くせりだ!
まさに主人公の為に世界がある状態だね!
「試しに火魔法を撃ってみるか、フレイガ!」
辺り一面の草木と小さな生命が燃やし尽くされた。
ちなみに彼が放った魔法は上位魔法であり、フレイア、フレイラ、フレイガと位階が上がっていく。
えっ、何処かのパクリじゃないかって?
如何に優秀な法務部をもっていようとも流石に異世界まで訴訟しに来るなんて有り得ないだろうさ。
…あり得ないよね?
ラスボスというか裏ボスが某ゲーム会社の法務部でないことを心よりお祈り申し上げているよ。
おや、そうこうしてる内に立派な馬車がいつの間にか近づいてきたようだ。
法務部かな?
「なんだこの黒煙は… 貴様何をやっている!」
どうやら近くの城で騎士をやっている人物がたまたま馬車で近くを通りがかっていて原因を突き止めに来たらしい。
米田君にとってこの世界初のピンチだ!
「フードを被った何者かが火を放ち西へ逃げました! 消火活動を手伝わせてください! ウォータ!ウォータラ! 」
マッチポンプ!
流石オタク!
切り抜け方が普通の人とは一味ちがう!
だからオタクなんだね!
騎士の人も「おぉ…」と声を上げて君の魔法の威力に目が行っているから何とかなりそう。
順調そうでなによりだよ! …チッ
そうこうしてる内に鎮火したようだ。
「協力に感謝する。貴殿は見たところ魔法使いのようだが、いったいここで何をしていたんだ?」
金髪の長身で気の強そうな顔面偏差値の高い女騎士が現れた。
僕の見立てによると弱点はきっとア〇ルだよ!
「私は遥か遠くの東の方から旅をしている者です。遠くに見えるお城に立ち寄ろうとしている途中に怪しげな呪文を唱えている輩がいたので対処を…」
いや誤魔化せるのそれ?
日本で警察から「君、どこから来たの?」って問われて「遥か遠くから来ました」って言ってたら、不法滞在者の疑いで署までの直通がもれなく開通だよ!
「やはりか…ジパングルという国では黒髪に黒い瞳が多いと聞く」
通用したね!
都合よく黒髪に黒い瞳が一般的な、まるで日本を思わせる国があってよかったね!
他の転移者が国作ったまでがよくある奴だ!
どうやら女騎士は普段王女の直属の騎士らしく、君は参考人としてお城に連行されたところ王女に気に入られてそれが気に食わない男騎士と戦って勝って王女様の騎士となり城下町の問題を解決する仕事に就いたようだ。
え? いきなり話が飛びすぎ?
いやーこれ報告書を作るための日記みたいな物だからさ。
簡潔に纏めるところは纏めないと世界意思がうるさいんだよね。
そういったテンプレは飽きたらしいよ?
僕はそれを暇つぶしに投稿サイトにうんこの如く垂れ流しているだけだからね。
文句は世界意思に言ってくださいこの罰当たり!
「クックック、矮小な人の身体でよくぞここまでたどり着いたものだ… 我が闇の力で永遠の暗黒を彷徨うがいい」
あっ、やべっ意識を飛ばし過ぎた…
まぁいいか!
適当に誤魔化しておこう。
どうせ大したことは起きてないんじゃないかな?
精々城下町で起きた問題を実は王女の命でっていう水戸黄門的なことやってたら何故か襲来してきたドラゴンを倒して活躍したら何故か現れた魔王を倒す旅に出たとかそんなんじゃないかな?
そうしよう!
ヨシッ!
考え事に耽っていると、いつの間にか米田君は劣勢になっていた。
「クソッ! ここまでなのか… なんだ? この体の中から溢れ出す力は?」
どうやら魔王的な奴の闇の魔法に感化されて雑に伏線になっていたような、なってなかったような属性の光と闇の力が今、都合よく目覚めて使えるようになったらしいよ!
色々と飛ばし気味にしていなかったら絶対忘れていたに違いないから怪我の功名だね!
感謝して欲しいな!
「ステータスオープン! やはりか! 空白の部分が見えるようになっている! 喰らえ! アルティマ!」
魔王的な奴に対抗できる程の闇の魔法が魔王的な奴を襲う!
「グウゥ! 吾輩を舐めるなよ小僧がぁぁあぁァア!」
闇の魔法と闇の魔法が激しくぶつかり合う!
…いや、真っ暗になり過ぎて何が何だか全くわからないよ!
まるで画面が暗くなってるアニメ見たときに、明度を上げたくなる時と同じくらいわからない!
ベタで塗りつぶされたように黒い魔法が行きかってるから、作画班的には大助かりしそうだね!
僕が監督なら頭を抱えてまうよ!
そろそろ光魔法の方も使ってくれないかな?
絵的に地味すぎるんだ!
「アルティマ! アルティマ! アルティマァァア!」
「なんの! ダークフレイム! ダークフレイムゥゥウ!」
圧倒的黒!
松〇しげるもビックリな黒!
米田君は何故そんなにも闇の魔法に拘るのさ?
…そうか!
謎は全て解けた。
陰キャだからか!
たしかに陰キャが光魔法を使えちゃうのは解釈違いだ。
これは仕方のないことだったんだ。
責めてゴメンね?
「光の魔法を使えぬ虫ごときが… 俺様を倒せると思い上がるなぁ!」
再び米田君は劣勢に立たされてしまう。
…というかさっきから我だの吾輩だの俺様だの一人称ブレブレじゃないか!
日本語版の名前を言ってはいけない例のあの人といい、闇の魔法使う奴は一人称ブレなきゃならない法則でもあるのかな?
まぁいいや!光魔法が使えないのはきっと理由があるはず。
神様にアクセスして原因を探ってみることにしよう!
フムフム、なるほど?
どうやらこの世界の神様によると光の魔法は使えないからこれはチートではない!俺tueeeではない!
ノーカン!ノーカン!と考える神様のようだね。
ちなみに何故闇の魔法は使えるのかというと「そっち方がカッコよくね?」らしい。
神様は闇の炎で抱きしめながら焼いて消したいお年頃。
厨二病乙!
「魔王アンコクモアお前は強かったよ、しかし間違った強さだった」
いつの間にか決着がついていて、不思議なことに米田君が勝ったらしい。
やったね米田君!
君はこの世界の救世主だ!
…って本来なら盛り上がるべき場面だとは思うんだけどね?
さっきも言ったけど暗くて何も見えなかったんだ!
僕は悪くない!
「グフッ、皮肉なものよ、闇の力を持つこのワシがより強い闇の力に葬られるとはなぁ… しかし覚えておくがいい、これは始まりに過ぎぬ。光あるところに闇あり… 光はなかったけれども… いずれ第二、第三の私が再びこの世界を支配するそグワァァあァアッッ!」
米田君の情け容赦ない追撃が魔王を襲う!
そこはラスボスの遺言をカッコよく、クールに返答する場面だよ!
「闇あるところに光あり、その時は再び勇者が立ちはだかるだろう」とか定番じゃん!
そういえば光はなかったね!
冷静に考えてみれば半死半生で頑張って止めを刺した思っていた奴が思いのほか元気に喋ってたら、やべっ殺さなきゃってなるか。
米田君は悪くない!
こうして世界は平和になった。
終わり!
えっ?雑すぎるって?
だって米田君は王女と結婚して、その後はつかの間の平穏を教授した後、酒と女に溺れていたところを昔に倒して恨まれていた男騎士に背中を刺されて死んじゃったんだよね。
こんなのは蛇足だから省いてもいいかなって!
転移者が死んだらストーカーしていた僕もその世界から排除されてしまうから米田君の物語はここまで!
次は乙女ゲーの世界に転移して何故か王子様に目を付けられた専業主婦の米田和子(47)の物語が僕を待っている!
いやー僕はなんて働き者なんだろうね!
それでは次の世界をレッツ観測ゥ!
ん?あれっ?ここは…
おっとこれは世界意思の機関の方ですか!いやー報告書を先程まとめたので次の世界へ行こうとしたところでして!
ええ!
えっ?
お前の報告書はつまらない上に雑すぎる?だから僕の存在を消す?
ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
そもそも報告書に面白さを求めている時点でおか プチッ
次の妖精はきっとうまくやってくれるでしょう