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第3話 帝国と魔族

 人間界、エフティア帝国、首都エフティア。

 大陸の半分を領土に持つ人類最大の国家『帝国』。


 帝国は圧倒的な武力を背景に他国を侵略し、その勢力を拡大。

 歴史上初、人間界の統一を成し遂げる。

 帝国の威光は大陸を遍く照らし、全ての人類国家が帝国に頭を垂れる。


 この俺『橘琉斗たちばなりゅうと』は、異世界転生してこの世界へと辿り着き、そして帝国の奴隷となった。


 とある事故で死んだ俺は、女神様の説明も無しにこの異世界へと飛ばされた。

 この世界でまず目にしたのは、怪しげな祭壇と女神像。

 ひび割れた石畳の床、そして今にも崩れそうな古めかしいアーチ状の柱が等間隔にそびえ立つ、薄暗くだだっ広い空間。

 両手を組んで祈りを捧げる女神像が、もの寂し気な表情をして目を伏せていたのを覚えている。彼女の額には紫色の宝石が埋め込まれており、怪しげな光を放っていた。


 訳も分からず呆けた顔をして固まっていると、次の瞬間。

 床に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がり、赤い光を放った。その魔法陣の中にいた俺は、目に見えない鎖のような物で体を縛られ、その場で身動きが取れなくなった。

 今思うと、それは侵入者撃退用の結界魔法か、それに近い何かだろう。


 その後、部屋に一つしかない扉が勢いよく開かれ、金の鎧を身に付けた兵士が数人部屋に押し入り、俺を取り押さえた。


「えぇっ⁉ あの、ちょっと待て! 俺は怪しい者では、いや怪しいのは認めるが、まずは話を聞いて、って、どわあああぁぁぁっ‼」


 今思い出しても自分の間抜けっぷりが憎い。もしあのタイミングで脱走に成功していれば、この地下に送られることもなかっただろうに。


 その後、異世界からやって来ました、というイカレた言い訳を兵士が聞いてくれるはずもなく、俺は『聖域侵犯』という罪状を背負い、地下の監獄に放り込まれることになる。


 俺が転移した場所は、帝国の首都エフティア。

 折れた世界樹の切り株の上に築き上げられた大都市だ。


 数千年前、魔王と勇者が種族存亡を掛けて殺し合い、その戦いの余波で天高くそびえ立つ世界樹が根本からへし折れたらしい。

 世界樹の内部は戦いの衝撃によって抉られ、唯一残った外側の樹皮は山脈のように連なり、自然と一体化した。そのクレーターの中に都市が築かれている。


 この世界に来た俺が地下に連行される時、一瞬視界に入った外の景色。

 高低差のある壮大な石造りの街中、その向こう側。都市を囲むように連なる巨大な山脈が、実は山脈ではなく世界樹の樹皮の一部だと云うのだから、途方もない大きさだ。


 そして、俺が連れていかれた先は、帝都の下に広がる巨大な地下迷宮。


 後に知ったこの世界の話を簡単にまとめると、こうだ。

 数千年前の戦いで勝利した人類は、魔族を地下迷宮へと追いやった。敗北した魔族達は地下迷宮の奥深くへと潜り、再起を図って長い時を耐え忍ぶ。


 自分達を奈落へと追放した人類に復讐を誓い、彼等は神聖を謳う人類とは対極の存在『魔族』を名乗り、地下の世界を構築した。


 人類の繁栄を極めた超国家『帝国』は、魔族が再び地上へ姿を現さぬようにと世界樹の切り株の上に都市を築き、地上へ繋がる唯一の道に蓋をした。

 地上に出ようと度々襲い掛かってくる魔族達を押し留めるため、地下迷宮の大空洞に砦と城壁を築き、そこで魔族の進行を食い止めている。


 俺が最初に送られた戦場は地下迷宮二十五階層。

 地下二十四階層までは迷宮の制圧が完了し、帝国の領域となっている。

 それ以降の階層は魔族達の領域。

 その魔族達の領域を——『魔界』と云う。


 この世界には奴隷制度がある。

 帝都には多くの奴隷が住んでいて、その中で地下迷宮に送られて魔族との戦いを強制される俺達のような存在を『奴隷兵』と呼ぶ。


『奴隷兵』は数ある奴隷の職業の中でも最悪の部類。

 ピラミッドの一番上が皇帝なら奴隷は最底辺、さらに底の部分が奴隷兵だ。

 罪を犯して投獄された犯罪者、借金で飯が食えなくなった者、後は訳あり連中、そんなクズ達が地下に送られて奴隷兵となる。

 帝国に「生かす価値がない」「地上に必要ない」と判断された者から順番に地下に落とされていくと噂だ。


 苛烈を極める魔族との争い。

 前線の高い損耗率を物量で補い、死んではまた新しい奴隷を補充し、奴隷の命を薪に焼べて前線を維持している。

 神聖を謳う帝国が、同じ人間を消耗品の道具として使い捨てる。

 それが、この世界の現実だ。


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