2 結婚休暇13日目:白状する弱い夫
そして、半日も経っていない今。
私は事情を白状することにした。
私は弱い夫だ。
この結婚休暇中、可愛い妻に10日以上ツンツンされ、その後最高にデレデレ甘々な彼女と新婚初夜を迎えた私は、これ以上彼女にそっけなくされることに耐えられなかったのだ。
だって、新婚なのだ。
結婚休暇だってあと少ししかないのに、不仲なんていやだ!
そんな訳で、「ツーンですわ!」と言って妻用の寝室に引っ込んでしまったステファニーに、共寝用の寝室に戻ってもらうべく、私は彼女の手を握っていた。
「ステファニー」
「はい」
「私は、あの寝具店で……」
「はい」
「………………散々ノロケてしまったんだ」
「……はい?」
見開かれた琥珀色の瞳に、私はいたたまれなくて、床を見ながらボソボソと呟く。
「あの日、私はステファニーと仲直りしたくて必死だった。それで、妻の機嫌を直すためにどんな枕をプレゼントするのがいいか、店員に相談したんだ」
「……」
「その際に妻のことを聞かれたから、色々と話してしまって」
「……」
「ちょっと赤裸々に話しすぎたというか……実際に妻を連れていくのは、その……」
「……」
「だ、だからな、ステファニー。あの寝具店に二人で行くのはやめよう? な?」
真顔で黙っているステファニーは、美しい彫刻のようである。
なんだ、どういう表情なんだ、それは。
「……ミッチー」
「はい」
「ノロケと言いつつわたくしの悪口を?」
ファアアーーッ!?
「違う違う! 妻のことを聞かれたから、空から舞い降りた天使のような存在で、その美しさは遥か彼方に――うわぁああああ」
ステファニーの悲壮な誤解に動転した私は、思わず自分が店員に話した恥ずかしいノロケの一部を漏らしてしまう。
寝台の横に蹲った私は、ステファニーへのただの生贄であった。
「ミッチー、こっちを向いて」
「……」
「わたくしせっかく空から舞い降りたのに、ミッチーはわたくしのこと、無視しますの?」
「ステファニー!」
「ツレないですわ、ミッチー。わたくし、あなたの天使ですのに♡」
「いっそ殺してくれ……」
ネズミを見つけた猫のような顔で笑みを浮かべるステファニーを、私は恨めしげに見上げる。
「ふふっ。死因はわたくしに溺れすぎての溺死ですわね」
そう言うと、ステファニーは私に両手を差し出して、姫抱っこをねだる。
私はそのまま、可愛い妻を共寝用の寝室に運び、「ちょっとだけなら大丈夫ですわ」という天使の甘言に誘われるまま、熱い夜を過ごしたのだった。
そして、当然ながら『ちょっと』では済まなかったので、翌日もステファニーは動けなかった。
寝具店デートは延期になったのは言うまでもあるまい。
ステファニーは悔しがっていたが、私は危機を乗り越えたと胸を撫で下ろしていた。
だが、私は甘かった。
ステファニーが、延期したくらいで諦める訳はなかったのだ。
結局、翌週の休みの日に、ステファニーに連れられて、寝具店を訪れることになり、私は羞恥でのたうち回ることになったのだ。
女性店員目線であと一話続きます。




